2010年に小学館新書から『一生モノのジャズ名盤500』という本を出しました。実を言うと、この新書はUSENで放送/配信されている番組「ジャズ喫茶いーぐる(D/H-51 チャンネル)」が下敷きとなっているのです。
「ジャズ喫茶いーぐる(D/H-51 チャンネル)」は、私の経営するジャズ喫茶「いーぐる」の選曲をそのまま流しています。ジャズ喫茶の選曲は、ジャズ好きのお客様にそれぞれのミュージシャンの個性を堪能していただくと同時に、長くおいでになっても飽きられないよう、それなりの工夫をしています。
簡単にご説明すると、アナログ時代の片面単位で、音楽の自然な流れとメリハリのバランスをとりながら、ジャズをお楽しみいただくわけです。こうしたプログラムを組むためには、膨大な数のジャズアルバムの「聴いた感じ」をあらかじめ掴んでおき、それぞれ「似た傾向のアルバム」を一まとめにして、メモしておく必要があります。この「聴いた感じ」は、ジャズの解説書に出てくる“ハードバップ”だとか“モードジャズ”という用語とは必ずしも一致しません。
ところでジャズ喫茶では、お客様からのご質問でもっとも多いのが、「今かけているアルバムに似た感じの演奏を教えてください」というものなのです。やはりお客様は“モード”だとか“クール”といった「ジャズ用語」で音楽を聴いているわけではないのですね。
こうしたとき、「似た傾向のアルバムメモ」が役に立つのです。マイルス・デイヴィスの『フォア&モア』(Columbia)が気に入られたお客様には、もちろんマイルスの他のアルバムをご紹介しても良いのですが、たとえば今回ご紹介するハービー・ハンコックの『エンピリアン・アイルズ』(Blue Note)などにも、自然に入っていかれることが多いのです。
つまり、さまざまなタイプの演奏を気に入られたお客様それぞれに、単に同じミュージシャンのアルバムを推薦するだけでなく、より広範囲から「似た感じ」の演奏をご推薦できるというわけなのです。そしてその「さまざまなタイプ別演奏」500枚を、わかりやすく解説したのが『一生モノのジャズ名盤500』なのです。
今回から、同著の「タイプ別、似た傾向アルバム」をご紹介するシリーズを始めさせていただきます。第1回の「新・これがジャズだ!」は、なにか新しい仕事に手を付けるときなどに聴くと、全身に気合が入る演奏ばかりです。前述の『フォア&モア』などはその代表で、嫌でも気持ちが前向きになりますね。
また、チック・コリアの名盤『リターン・トゥ・フォエヴァー』(ECM)で一躍有名になったジョー・ファレルの『スケート・ボード・パーク』(XANADU)は、彼の知られざるオーソドックスな演奏が聴ける名演で、サイドのチックもいい演奏をしています。そして『エンピリアン・アイルズ』は現代ジャズの源流ともなった名盤で、この時期(60年代)のフレディ・ハバードの切れ味が聴きどころです。
サム・リヴァースの『フューシャ・スイング・ソング』(Blue Note)は、ちょっとフリーっぽいところもありますが、今ではごく自然に聴けるはずです。『ラヴ・ダンス』(Muse)は、才能がありながらいまひとつ知名度的にマイナーなウディ・ショーの70年代の作品で、フュージョンっぽいところが懐かしい。最後にご紹介するフィル・ウッズの『アライヴ・アンド・ウエル・イン・パリ』(Pathe)は、彼の記念すべきヨーロピアン・リズム・マシーンの第一作です。これも定評のある名盤です。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)
USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。