ジャズのアドリブを大きく変えたモダンジャズの創始者、チャーリー・パーカーの影響は、1950年代以降のほとんどのアルトサックス奏者に及んでいました。黒人ミュージシャンではジャッキー・マクリーンが代表格で、彼のアルバムは多くのジャズファンから愛されています。

一方、白人ミュージシャンでもっとも強い影響をパーカーから受けたのは、なんといってもフィル・ウッズでしょう。何しろ彼はパーカーを敬愛するあまり(と言っていいのか)パーカーの死後、彼の未亡人と結婚してしまうのです。もっとも、パーカー“最後の”妻であったチャン・リチャードスンは写真で見る限り相当の美人ではあったのですが、、、

2015年に83歳で亡くなったウッズは、1950年代にはハードバップ・アルト奏者として多くの名盤を世に送り出しました。『ウッドロアー』(Prestige)はデビュー間もない1955年に録音されましたが、彼の優れた資質が完璧に記録された初期の最高傑作です。

滑らかなトーン、よどみないフレージング、そしてほのかな甘さを湛えた彼のアルトサウンドは、黒人中心の新しいジャズスタイル、“ハードバップ”の中で、白人ハードバッパーの存在意義を証明してみせたのです。勢いに乗ったタイトル・チューン《ウッドロアー》の輝き、そして続くバラード・ナンバー《フォーリン・イン・ラヴ・オール・オーヴァー・アゲイン》の甘さ、まさに名演、名盤です。

赤く火の燃える暖炉の前でかわいいワン公を抱えて寝そべるジャケットが印象的な『ウォーム・ウッズ』(Epic)も初期の名盤で、こちらはホンの少し翳りを感じさせる、哀感のこもったアナログ時代のB面がマニアの聴き所です。もちろん番組ではそちらの面を収録しました。すべて良い曲ですが、アップテンポの名曲《ガンガ・ディン》が圧巻。

一般論ですが、黒人ミュージシャンは独自の味わいで聴かせ、白人ミュージシャンはテクニックを土台にしてそこに各人の個性を上乗せすると言われています。これは同じパーカー派アルトであるマクリーンとウッズの関係を見ると、なるほどとうなずけます。味のマクリーンに対し、ウッズのテクニックはほぼ完璧です。そうしたウッズの特徴がもっとも良く現れたのが、同じ白人アルトサックス奏者、ジーン・クイルと組んだ『フィル・トークス・ウイズ・クイル』(Epic)で、テクニシャン同士の壮絶なつばぜり合いが聴き所。

60年代の末、ウッズも多くのジャズマン同様、ヨーロッパに新たな活動の場を見出します。ジョルジュ・グルンツのピアノ、アンリ・テキシェのベース、ダニエル・ユメールのドラムスという、後のヨーロッパ・ジャズシーンを牽引していく若手ミュージシャンでサイドを固めた新しいグループ、ヨーロピアン・リズム・マシーンの第1作『アライヴ・アンド・ウエル・イン・パリ』(Pathe)はウッズの新生面を拓いた60年代の名盤で、アルトサウンドも力強さを増したハードなものに大きく変化しています。

『ライヴ・フロム・ザ・ショウボート』(RCA)は70年代ライヴの傑作です。ギター、パーカッションを加えた多彩なサウンドが新鮮な、ザ・フィル・ウッズ・シックスによる演奏で、ウッズはアルトのほかにソプラノ・サックスも披露しています。最後にご紹介する『スリー・フォー・オール』(Enja)は、名人トミー・フラナガンのピアノとレッド・ミッチェルのベースだけという変わった編成で、ウッズがクラリネットを演奏した珍しいアルバムです。彼の隠れ名盤と言っても良いでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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