エンヤ・レーベルは1971年に旧西ドイツのジャズ研究家、ホルスト・ウェーバーによって設立された。ホルスト・ウェーバーは当時のアメリカ・ジャズ・シーンに不満を持ち、実力がありながら録音の機会に恵まれないアメリカ人ミュージシャンを積極的に録音していった。幸いこの時代はアメリカに見切りをつけヨーロッパに移住してきたジャズマンたちが多かったので、ドイツに本拠を構えながら彼らをレコーディングすることは比較的容易だったのである。

また、エンヤは同時期ヨーロッパに設立されたスティープル・チェース・レーベルと同じように、60年代にヨーロッパ・ツアーを行なったミュージシャンたちの未発表音源を発掘することも熱心に行なった。冒頭に収録したエリック・ドルフィーの『ベルリン・コンサート』はその代表的傑作で、1961年にドルフィーが単身渡欧した際の記録だ。当時ヨーロッパに移住していた黒人トランペッター、ベニー・ベイリーと快適な演奏を繰り広げているが、やはりドルフィーのソロは飛び抜けている。かなり長い演奏だが、《ホット・ハウス》はフォーマットがハードバップなので誰でも楽しめるトラックだ。

アーチー・シェップは人によって好き嫌いがあるかもしれないが、これは名演だと思う。アナログ盤時代のB面いっぱいに繰り広げられた《ア・メッセージ・フロム・トレーン》は、彼のジョン・コルトレーンに対する思いがストレートに伝わってくる熱演である。出来れば音量を上げて聴いていただきたい。

続いては、新旧のアルト・サックス奏者のアルバムをご紹介しよう。まずはベテラン、パーカー派アルトのフィル・ウッズ。『スリー・フォー・オール』はピアノ、ベースのみを従えた変則フォーマットだが、トミー・フラナガンのソロも良く、隠れ名盤と言ってよいだろう。

続くアブラハム・バートンは、パーカーの孫弟子に当るマクリーン派の新人で、ジャッキー・マクリーン作の《マイナー・マーチ》をけれん味なく吹ききっている。こういうタイプは珍しいので注目していただきたい。3人目はリー・コニッツの珍しい企画もので、ストリングスをバックにビリー・ホリディに捧げたアルバムだが、これがなかなかいい。自宅で寛ぎながら聴くと、しみじみとこの人の良さがわかってくる。

ピアノのハル・ギャルパーはさほど有名ではないが、このアルバムはむしろヒノ・テルマサの快演を聴くべきだろう。もちろんギャルパーのピアノも勢いがあって素晴らしい。これも知られざる名盤。デイヴ・リーブマンは地味だが実力のある人だ。彼は70年代にいい作品をたくさん残しているが、ここでご紹介するのはワンホーン・カルテットの傑作。

今はアブドーラ・イブラヒムと名前を変えているが、私たちはダラー・ブランドの名でこの南アフリカ共和国出身ピアニストを知った。このアルバムではピアノの他にヴォーカルとソプラノ・サックスを披露し、《イシマエル》ではコーランを取り上げ、彼がイスラム教徒であることを現している。異色アルバムだが、ミュージシャンのスタンスが明確に伝わってくる名演だと思う。

そして最後はオーソドックスなピアノトリオの名盤。トミー・フラナガンが『オーヴァーシーズ』の再演として録音した『エクリプソ』から、《コンファーメーション》。録音の良さも手伝って、切れの良いタッチが心地よい。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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