今回冒頭に紹介するのは、ピアニストのビアンカ・ジスモンチが2015年にリリースしたアルバム『プリメイロ・セウ』(Fina Flor)で、初のピアノ・トリオ作品。父親のエグベルト・ジスモンチもそうでしたが、彼女の音楽にはクラシックの素養が感じられます。もともとブラジルの音楽界は、クラシックとポピュラー・ミュージックがさほど距離を取らずに共存していることもあって、ビアンカの音楽もクラシック的な要素とジャズがごく自然に溶け合ったサウンドが心地よいですね。

2枚目もブラジリアン・ミュージシャンのアルバムです。先月来日公演を行った、カート・ローゼンウィンケルのカイピ・バンドでパーカッションを担当したアントニオ・ローレイロが、今回はヴィブラフォンで同じくブラジルの若手ヴァイオリニスト、ヒカルド・ヘルスとデュオで吹き込んだアルバム『Herz E Loureiro』(Boranda)です。変わった楽器編成ですが、聴くほどに味わいが増すアルバム。ジャズという音楽ジャンルの懐の広さを改めて気付かせてくれますね。

3枚目はバークリーに学びニューヨークで活動するピアニスト、大林武司が初めてピアノ・トリオで放つ新譜です。タイトルは『マンハッタン』(Somethin’ else)。サイドが豪華で、1曲目がホセ・ジェームスのドラマーとして来日公演も行った名手ネイト・スミスがドラムスを担当。そして2曲目は女性ドラマーとして知られたテリ・リン・キャリントン。こうした人選からもわかるように、彼のピアノ・トリオは現代ジャズの流れに沿った切れの良いリズムに乗った流れるようなラインが聴き所です。

前半3枚は新録作品でしたが、後半の3枚は発掘音源です。最初はジャコ・パストリアス率いるビッグ・バンド「ワード・オブ・マウス」82年のニューヨーク録音で、アルバム・タイトルは『ライヴ・イン・ニューヨーク』(Resonance)。。1曲目はおなじみの「インヴィテーション」。ジャコのベースの切れ味が素晴らしい。ちなみにジャコはウエザー・リポートでのデビューが印象的でしたが、それ以前からビッグ・バンドに参加しており、バンド・サウンドと共にベースを演奏することが根っから好きだったようです。ジャコの演奏する喜びが伝わってくるようですね。

発掘音源の2枚目は、ウィントン・ケリー・トリオにゲストでウェス・モンゴメリーが参加した、ライヴ・アット・ザ・ペントハウス1966とサブタイトルが付いたアルバム『スモーキン・イン・シアトル』(Resonance)です。極め付き名盤『フル・ハウス』(Riverside)や『スモーキン・アット・ザ・ハーフ・ノート』(Verve)で知られているように、ケリーとウェスはたいへん相性のいい組み合わせ。

また、ケリーはマイルス・バンドのサイドマンとしての名演はじめ、多くのハードバップ・セッションでの好サポートが知られていますが、ピアノ・トリオでの演奏は思いのほか少ないのですね。この発掘盤はケリーのトリオ演奏とウェスとの共演がバランスよく収録されており、そういう意味でも要注目です。

そして最後は大御所ビル・エヴァンス晩年の発掘盤『オン・ア・マンディ・イヴニング』(Fantasy)です。録音は1976年で、サイドはエディ・ゴメスにエリオット・ジグムンド。演奏の出来は極めてよく、また音質も全く問題ありません。エヴァンス・ファンなら必聴のアルバムと言っていいでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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