今回は熱心なマニアの間で好評だったライヴ・アルバムの復刻盤や、発掘音源を中心にご紹介いたします。ハービー・ハンコック率いるVSOPは、1976年に半ば引退状態だったマイルス・デイヴィスを現場復帰させようとの思惑から仕組まれた、1回限りの特別プロジェクトでした。しかし御大マイルスの登場は実現せず、代わりにフレディ・ハバードがマイルスの代役を演じ、ウェイン・ショターら60年代マイルス・クインテットのメンバーと共演したスペシャル・バンド。

しかしこれがたいへん好評で、この臨時編成グループの公演、アルバムは数多く作られました。そしてメンバーを大幅に入れ替えた第2期VSOPの貴重なライヴ記録が、このアルバム『VSOP ll Tokyo 1983』(HI HAT)です。この音源は、1983年の来日時にFM放送用にNHKホールで収録されたもので、音質も極めて良好です。注目すべきは、当時日の出の勢いの新人兄弟、ウィントン・マルサリスとブランフォード・マルサリスの参加で、演奏のスピード感が倍加しているところでしょう。

2枚目にご紹介する『ライヴ・アット・アカデミー・オブ・ミュージック』(DOL)は、1990年フィラデルフィアにおけるパット・メセニーのライヴ音源の豪華なアナログ盤による復刻です。この音源は以前からDVD,CDで発売されていましたが、今回2枚組180gの重量盤仕様で音質も向上しています。メンバーが凄く、ハービー・ハンコックにデイヴ・ホランド、そしてジャック・デジョネットによるスーパー・グループです。

チック・コリアの『ザ・ミュージシャン』(Concord)は、2011年にチックの生誕70周年を記念したニューヨークのクラブ「ブルーノート」でのライヴ・レコーディング。このライヴは何と23日間も行われ、全部で10もの組み合わせで演奏が行われたそうです。今回収録したのは、チックとスタンリー・クラークの二人がリーダーを務めたグループ「リターン・トゥ・フォエヴァー」による演奏。「キャプテン・マーヴェル」「ライト・アズ・ア・フェザー」の2曲は、共にアルバム『ライト・アズ・アフェザー』で採り上げていた楽曲です。

後半に登場するチェット・ベイカーの『Live at Gaetano’s』(Chet Baker Estate)は、1992年に『Chet Baker Live at Pueblo, Cololad 1966』というタイトルで出されたアルバムの復刻版です。一般に60年代後半のチェットは不調だったとされているようですが、この演奏の迫力にはほんとうに驚かされます。凄まじい勢い、ノリの良さどれをとっても快調そのもの。こうした貴重な記録が復刻されることによって、60年代チェットのイメージがずいぶんと変わるのではないでしょうか。サイドのテナー、フィル・アーソは名盤『プレイボーイズ』(ワールド・パシフィック)で共演していましたね。

ダスコ・ゴイコヴィッチの『セカンド・タイム・アラウンド』(Organic)は、楽器編成こそチェットのアルバムと同じですが、録音は新しく2015年。サイドはベテラン白人テナー奏者、スコット・ハミルトンです。今回収録したケニー・ドーハムの「蓮の花」以外にも、ハンク・モブレイの「リカード・ボサ・ノヴァ」など懐かしのハードバップを並べた選曲が面白いですね。

そして最後は、ビル・エヴァンスの話題の発掘盤『アナザー・タイム』(Resonance)です。有名なモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出演した際のメンバーによる新たな発掘音源で、1968年にオランダの放送のスタジオで録音された貴重な記録です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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