最初にご紹介するアルバムは、トロンボーン奏者ライアン・ポーターの2枚組CD「ジ・オプティミスト」(Rings)です。彼は今話題のサックス奏者、カマシ・ワシントンのグループのメンバーで、このアルバムにカマシも参加しており、彼の特徴的なソロが楽しめます。

聴き所の第一は、西海岸を拠点とするバンドらしい明るいサウンドと、アンサンブル・パートとソロの有機的結びつきですね。興味深いのは、このアルバムがカマシの両親のガレージに作られた狭い演奏スペースで録音されたことでしょう。カマシやライアンは子供の頃からこのガレージをたまり場として育ち、その場所が次第に彼らのスタジオとなったのです。演奏から醸し出される親密な雰囲気は、そうした「場」がもたらしたものと言えるでしょう。

2枚目のアルバムは、オルガン・ジャズの巨匠ロニー・リストン・スミスによる2年ぶりの作品「オール・マイ・マインド」(Blue Note)です。スミスのレギュラー・グループ、ギターのジョナサン・クライスバーグとドラムスのジョナサン・ブレイクによるトリオ演奏で、2017年に行われたスミス生誕75周年記念ライヴの模様が収録されています。ウェイン・ショーターの名曲「ジュジュ」に始まる演奏は聴くほどに味わいが増す好演で、オルガンとギター・サウンドの相性の良さ、レギュラー・チームならではの親密な気分が聴き所です。

90年代に一時代を築いたクラブ・カルチャーの元祖、ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーションU.F.O.のメンバー松浦俊夫による初の自己名義アルバム「Loveplaydance」(Universal)が発売されました。アシッド・ジャズのDJでありトーキング・ラウド・レーベルの設立者として知られるジャイルス・ピーターソンを監修者に迎え、ロンドンのミュージシャンを起用し、松浦のDJとしての記念碑的ナンバーが収録されています。心地よいサウンドは今でも新鮮です。

 そしてこうした良い意味での「心地よい気分」を醸し出す音楽の大家、キップ・ハンラハン久しぶりの新譜「Crescent Moon Waxing」(American Clave)が届きました。不思議なのは、良く知られたちょっと退廃的気分を醸し出すハンラハン・スタイルはまったく変わっていないのですが、それが21世紀の今でも極上の音楽として響くのですね。ラテン・タッチのリズムにかぶさるけだるい女性ヴォーカル、その背後で鳴るサックスの響き、すべてが「今まで通り」でありながら古さを感じさせないのは、ハンラハンの音楽観が決して流行に左右されない骨太なものだからなのではないでしょうか。

 今回私が一番興味を持った作品は、ブラッド・メルドーがバッハに挑戦した「アフター・バッハ」(Nonesuch)でした。私がジャズを聴き始めた1960年代、一部のマニアックなジャズ・ファンの間でグレン・グールドが演奏するバッハの鍵盤楽曲が熱心に聴かれていました。彼らはバッハとジャズの間に何かしら繋がりを聴き取っていたようなのです。

 今回のメルドーのアルバムでは、バッハの鍵盤楽曲とそれにインスパイアーされたメルドーの演奏が交互に演奏されています。私はクラシック評論家ではないので詳しく説明することは出来ませんが、確かにバッハの音楽とジャズの即興演奏の間には共通する要素があるようです。それは本来バッハ自身が優れた即興演奏家だったことと関係があるのかもしれません。

 そして最後を締めくくるのはキース・ジャレットの「アフター・ザ・フォール」(ECM)です。このアルバムは病気で休養中のキースが温めていたスタンダード演奏で、「バウンシング・ウィズ・バド」「ドキシー」といったバップ時代の名曲を採り上げています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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