私の担当するジャズ・チャンネルももうずいぶん長くなりました。これも番組を長らくお聴きくださっているジャズ・ファンのみなさま方のおかげです。この場を借りてあつく御礼いたします。ところで、「新譜紹介」のコーナーも無事3年目を迎えることが出来ました。こちらはここ数年、バラエティに富んだ新譜、新人がたくさん出てきており、「とりあえず聴いてみる」べきアルバム、ミュージシャンが飛躍的に増えたことと関係があります。

選曲の方針として、レギュラーの番組は「聴きやすさ」「楽しさ」「面白さ」を一番に考えますが、「新譜紹介」では、ある意味で「評価」や「好悪」はお聴きになるファンの皆様に委ねるようなスタンスを採っています。というわけで今年最初にご紹介するアルバムは、多彩な活動を見せるドラマー、ブライアン・ブレイドの「ブライアン・ブレイド・アンド・ザ・フェローシップ」による3年ぶりの新作「ボディ・アンド・シャドウ」(Blue Note)です。ニューヨークのような都市ではなく、アメリカの広大な自然を感じさせるゆったりとしたサウンドが心地よいですね。

2枚目は映画「バードマン」の音楽で新たな方向性を見出したドラマー、アントニオ・サンチェスの「Bud Hombre(Cam Jazz)です。このアルバムはサンチェスのメキシコ人としての誇りが大きな基本テーマで、自宅の地下室を改造したスタジオで半ば実験的に作られた作品と言っていいでしょう。自身のドラムソロに多重録音を重ね、実にエネルギッシュなサウンドが現出しています。

3枚目は今注目の新人キーボード奏者、ビッグユキのファースト・フル・アルバム「リーチング・フォー・ケイローン」(Universal)です。「ケイローン」とは、ビッグユキ自身の言葉によれば「ギリシャ神話の中に出てくるケンタウロスの中でも頭が良く、周りを教え諭す奴」だそうです。また彼はこのアルバムのコンセプトとして、AIの技術を取り込んだ人間を半身半獣に例え、新技術で世界に貢献するという思いを込めているとも語っています。彼の多彩な音楽の引き出しが伺えるサウンドが面白い。

スナーキー・パピーでフィーチャーされたギリシャ人シンガー・ソング・ライター、マグダ・ヤニクゥが中心となって結成された多国籍バンド、「バンダ・マグダ」による新作「タイガー」(Ground Up)は、彼女のヴォーカルがフィーチャーされたエキゾチックなテイストの楽しいアルバム。こういうタイプのバンドはライヴを観たかったのですが、アントニオ・サンチェスのライヴと重なってしまい、残念ながら今回は見送り、ぜひ次の機会に観てみたいですね。

このところチック・コリアの活躍が目立っています。「チャイニーズ・バタフライ」(Strech Record)はスティーヴ・ガッドとの共作です。ベテラン同士らしい手慣れたサウンドながら、演奏の密度はなかなかのもの。

そして最後は若手の注目株、ピアニストの桑原あいと今や日本人ドラマーとして高い評価を得ている石若駿によるデュオ・アルバム「ディアー・ファミリー」(Verve)です。ドラムスとピアノの二人だけというフォーマットならではの、シンプルながら心地よい緊張感が聴き所となった作品で、じっくりと聴き込むことによってレコーディング現場での二人音楽的やり取りの模様が浮かび上がって来ます。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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