今回最初にご紹介するのは話題のテナー・サックス奏者、カマシ・ワシントンの最新ミニ・アルバム。タイトルは『ハーモニー・オブ・ディファレンス』(Young Turks)です。トータル30分強の長さ。期待たがわぬ傑作です。カマシの魅力が爆発しています。

彼の魅力は二つあると言えるでしょう。まずはサウンド・メーカーとしての才能です。コーラス隊をうまく使ったトータル・サウンドの構築力は驚異のデビュー・アルバム『ジ・エピック』(Brainfeeder) で実証済みですが、今回の作品でもその力量は遺憾なく発揮されています。アルバム後半の盛り上がりが圧巻です。

そしてもう一つの聴き所は彼自身のサックス演奏です。大きな流れで言えば、コルトレーンの影響を受けたファラオ・サンダースに似ているとも言えますが、やはり世代の違いか全体に明るくそしてクールなのです。クールと言っても決して熱気を欠いているわけではなく、極端な感情移入はせず、しかし自己主張は実に明快なのですね。

そして古からのジャズ・ファンが求める要素もちゃんと備えているのです。それは「覚えられる個性的なフレーズを持っていること」なのです。ジャズ・ファンはアドリブ、アドリブと言いがちですが、実は「あ、カマシだ」とわかるフレーズこそ求めているのですね。そしてそれは個性的表現を第一とするジャズの価値観そのものでもあるのです。

次にご紹介するのはアーシーな声が魅力のヴォーカリスト、リズ・ライトの新作『グレイス』(Concord)です。1曲目にはスタンダード・ナンバー《アラバマに星は落ちて》が収録されており、オーソドックスな歌唱力の確かさが印象的です。

話題のアルバム、ブルーノート・オールスターズによる『アワー・ポイント・オブ・ビュー』(Blue Note)の1曲目は、ウェイン・ショーターとハービー・ハンコックをフィーチャーした《マスカレーロ》です。サイドを固めるのはブルーノート・オールスターズローズ・アキンムシーレ、テナーを吹くマーカス・ストリックランドにローズを弾くロバート・グラスパーらという陣容。2曲目に収録したのは、御大たちを除いた若手チームによる《ベイエナ》。新旧のブルーノート勢が結集した豪華なラインナップが魅力です。

そして上原ひろみの新作はジャズ・ハープ奏者、エドマール・カスタネーダとのモントリオール・ジャズ・フェスティヴァルにおけるライヴ録音です。カスタネーダの超絶技法を相手に、ひろみが自由奔放に弾ける様が小気味良い。彼女はどんなフォーマットでも自分の持ち味を引き出せるのですね。

地に足の付いた、そして底力を感じさせるテナー・サウンドが魅力のJD・アレンのアルバム『ザ・マタドール・アンド・ザ・ブル』(Savant)は、地味ながら聴くほどに味わいが増す作品です。ピアノレス・ワンホーンという渋いフォーマットで着実に聴き手を魅了させる力はなかなかのものです。

最後は、前回もご紹介したチック・コリアのアルバム『ザ・ミュージシャン』(Concord)です。この作品は2011年に行われたチック70歳の誕生日を記念したライヴ・レコーディングで、今回はハービー・ハンコックとのピアノ・デュオのトラックをご紹介いたします。楽曲は《ドルフィン・ダンス》《カンタロープ・アイランド》といったおなじみのものです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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