今回最初にご紹介する2枚のアルバムは発掘音源です。(2017年)1216日より、「私が殺したリー・モーガン」という物騒なタイトルのドキュメンタリー映画が公開されます。タイトルから想像されるように、この映画はリー・モーガンの短くも華やかな生涯を様々な関係者の証言から辿ったジャズ映画です。注目の的となるのは、モーガンを射殺した彼の内縁の妻、ヘレン・モーガンが最晩年に残した唯一のインタビューが登場することでしょう。

こうしたこともあって、このところリー・モーガンがらみの音源が多数登場していますが、私がご紹介する『リー・モーガン~クリフォード・ジョーダン・クインテット・ライヴ・イン・ボルティモア 1968』(SSJ)は、モーガン60年代の貴重な放送音源です。1968年にメリーランド州ボルティモアにあった「ロイヤル・ルームズ」というレストランのラウンジからの中継録音を、イギリスのBBCラジオが英国内で放送した音源で、若干音質に問題が有りますが、そんなことを忘れさせるモーガンの強烈なトランペット・ソロが印象的です。共演のクリフ・ジョーダンのテナー・サックスも極めて快調。

2枚目のアルバムは、マニアの間で話題だったスイス出身のヴォーカリスト兼ピアニスト、エルシー・ビアンキの貴重な未発表音源です。録音は1968年で、フランス語で歌われている「テイク・ファイヴ」が人気を呼びそうです。

3枚目からは本来の新録新譜です。最初に登場するのは、マニアの間で人気のハイテク・ギタリスト、パット・マルティーノ11年ぶりのレギュラー・グループによるアルバム『フォーミタブル』(High Note)です。聴き所は、二人のホーン奏者とオルガン奏者を擁する、チームによるアンサンブルを生かしたマルティーノの落ち着いたリーダーぶりでしょう。

続いて登場するのはLAを拠点とする7人組の新グループ、ホロフォナーのアルバム『ライト・マグネット』(World Galaxy)です。トランペット、トロンボーン、アルトの3管にヴァイブ、そしてリズム・セクションという豪華な編成から繰り出される軽快なサウンドはいかにも西海岸的です。注目すべきは、新人グループにもかかわらず大物ウェイン・ショーターがプロデュースを買って出ているところでしょう。

どうやら、ブルーノートの社長ドン・ウォズが、当初ブルーノートからデビューさせるつもりでショーターに話を持って行ったけれど様々な事情で見送りとなり、ショーターは律義に最後まで面倒を見たということのようです。

ロン・マイルスと言ってもあまりご存知ではないかもしれませんが、彼の新作『アイ・アム・ア・マン』(Muzac)のレコーディング・メンバーが凄い。ビル・フリゼールを筆頭に、ブライアン・ブレイド、ジェイソン・モラン、トーマス・モーガンと、今一番注目されているミュージシャンが勢ぞろいです。マイルスはコルネットを吹いていますが、その音楽性が極めて現代的で、過去の巨匠たちは言うに及ばずクラシックの素養もあり、また近年「アメリカーナ」という言い方で注目されているアメリカ特有の音楽風土の影響も巧みに取り入れているのですね。こうした柔軟性がフリゼール、ブレイドらの共感を呼んだのでしょう。

最後にパリ在住のピアニスト、ステファン・ツアヴィスの新作『ボーダー・ライン』(Crystal)をご紹介しましょう。私はつい最近、サックスの仲野麻紀さんとステファンが共演したライヴを観ましたが、彼のエスニックかつオリジナリティに溢れたピアノ演奏は機知と発見に満ちた斬新なものでした。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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