USENを聴いてくださっているみなさま方も既にご承知のことと思いますが、この新譜紹介のコーナーに登場するアルバムのテイストと、私の他の番組のサウンドはかなり異なっていますよね。というのも、私が「新譜」としてご紹介するものは過去の発掘音源などを除き、少なくとも21世紀の録音であるという条件を付けているからです。

もっとも21世紀になってもう18年目ですからかなり幅は広いとはいえ、他の番組で使うジャズ喫茶ファンが好む音源は、だいたい50年代から70年代ぐらいまでが中心なので、やはり20年以上の隔たりがあり、その間のジャズ・シーンの変化がテイストの違いをもたらしているわけです。

率直に言って、この新旧二つのジャズはファン層も微妙に異なっていて、従来のジャズ・ファンは現代ジャズに少々戸惑っている様子が伺えるようです。こうしたファン層のギャップを埋めるため、70代の私と50代の村井康司さん、30代の柳楽光隆さんの3人で両者の溝を埋める鼎談集『100年のジャズを聴く』(シンコーミュージック)を出版いたしました。

村井さんは昨年やはりシンコーミュージックから『あなたの聴き方を変えるジャズ史』を上梓され、また、柳楽さんもシンコーから既に4冊の「Jazz the New Chapter」シリーズを刊行されている注目の評論家です。幸いこの鼎談は好評で、発売一ヵ月で早くも重版となりました。この本では、現代ジャズとオーソドックスなジャズが実は繋がっていることを具体的に解説しています。ぜひご一読ください。

さて、今回の1枚目『OB 1(Fresh Sound New Talent)はイスラエル出身のベーシスト、オル・パレケットの初リーダー作です。聴き所は何と言っても若手ギタリスト、シャハル・エルナタンの流麗なギターで、ピアノのガディ・レハウィとの華麗なコラボレーションが素晴らしい。今話題のイスラエル・ジャズの傑作です。

2枚目の『Jersey(Montema)は、既に中堅として幅広いファンを獲得しているドラマー、マーク・ジュリアナの新作で、テナーのジェイソン・リグビー、ファビアン・アルマザンのピアノ、そしてベーシストはクリス・モリッシーによるサックス・カルテット。ジュリアナの切れの良いドラミングが演奏に活き活きとした躍動感を与えています。

ブラディ・ヤンガーは女性ハープ奏者で、『Wax & Wane(Rings)は彼女のソロ・デビュー作です。クラシックのテクニックを基としながらヒップ・ホップ、ゴスペルのテイストも感じさせるヤンガーのサウンドは、伸びやかで実に快適。ジャズ・ハープの新世代として注目したいですね。

アイルランド、ダブリン在住のドラマー、ケヴィン・ブラディの新作『Ensam(Lrp)はビル・キャロラーズのピアノが素晴らしいピアノ・トリオ作品。透明感溢れるタッチから繰り出されるフレーズには意外に強い情熱が感じられます。斬新かつオリジナリティに満ちたピアニストですね。

カナダ生まれでアメリカで活動する作曲家、ダーシー・ジェームス・アーギュの作品は以前にもご紹介しましたが、新作『Real Enemies(New Amsterdum Records)は、学者による同名の著作にインスパイアされたコンセプト・アルバムです。現代音楽の影響を感じさせつつも、ジャズならではの密度感・質感の濃さが聴き所となっています。

最後にご紹介する『Seaward(Soul Note)はイタリアの大御所ピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィのアルバムで、オリジナル作品とともに「フット・プリンツ」「イエスタディズ」といったスタンダード・ナンバーを採り上げています。楽曲は何であれ、ピエラヌンツィの演奏には親しみやすい哀愁感と同時に、極めて力強い音楽への意思が感じられます。この辺りが単に耳辺りの良いピアノ・トリオ作品と一線を画す彼の素晴らしさでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

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