今回の目玉は何と言ってもカマシ・ワシントンの話題作『ヘヴン・アンド・アース』(Beat Record)でしょう。ここ数年、ジャズは新しいディメンションに突入し、斬新なアイデアを持った新人ミュージシャン、魅力的なアルバムが続々と登場しています。その流れを決定付ける作品が、ついにカマシによって世に問われたのです。

このアルバムは「アース編」と「ヘヴン編」がそれぞれのCDに収録された大作で、聴き応え十分でありつつ、全編聴き通しても飽きることが無いという、練り上げられた作品です。今回は「アース編」から冒頭の3曲を収録しましたが、これだけでも十分魅力が伝わってくるでしょう。

「アース」とは地球、あるいは大地のことですが、カマシはこの言葉の意味を次のように説明しています。「『アース』のパートは、私が『外向きに』見る世界を表現している。つまり私が存在している世界を表している」。そして「ヘヴン」つまり「天国編」についてもこう述べています。「『ヘヴン』のパートは、私が『内向き』に見る世界、つまり私の中に存在している世界を表している。私が何者であるか、そしてどんな選択をしていくのか。その答えは、それら二つの世界の間にある。」。こう書くとやはり『ヘヴン編』が気になりますよね。こちらは次回のお楽しみということにしておきましょう。

彼の言葉通り、冒頭に収録された楽曲《Fists of Fury》は印象的で親しみやすいメロディがダイナミックなサウンドと共に迫ってくる、良い意味で「世俗的」な名曲です。そして3曲目には、何とフレディ・ハバードの《ハブ・トーン》が。この辺り、カマシが伝統的ジャズ・シーンに連なっていることを印象付けますね。お馴染みの「カマシ節」もふんだんに登場し、今のところ今年のベスト1アルバムと言って間違いありません。

スイス人ピアニスト、ニック・ベルチュのバンド「Ronin」は、日本の「浪人」のことです。そして今回収録したアルバム『AWASE(ECM)の意味は、日本の武術、合気道などで相手の動きに「合わせ」て動くことのようです。まさにベルチュは「日本ファン」ですね。

シンプルなフレーズが執拗に繰り返されるのですが、次第に彼らの音楽に惹き込まれてしまうのは、「浪人バンド」の演奏力の確かさの賜物と言っていいでしょう。

強面テナー奏者、デヴィッド・マレイが、テリ・リン・キャリントン、昨年惜しくも亡くなったジェリ・アレンらと結成したグループ、パワー・トリオによるデビュー・アルバム『Perfection(Motema)は、三者の良いところが結実した傑作です。テナー、ピアノ、ドラムスの変則トリオですが、違和感を一切感じさせないのはさすがですね。

エドワード・サイモンはベネズエラ出身のピアニストで、現在はニューヨークで活躍しています。彼の新作『Sorrows & Triumph(SUNNYSIDE)は、アルトのデヴィッド・ビニー、ベース、スコット・コリー、そしてドラムスのブライアン・ブレードなど、ニューヨークのトップ・プレイヤーが脇を固めています。爽やかな空気感を感じさせるサウンドは、ラテン・ミュージシャンの血が成せる技なのでしょうか。

ブラッド・メルドーの新作『Seymour Reads the Constitution!(NONSUCH)は、ベースのラリー・グレナディア、ドラムス、ジェフ・バラードによるトリオ・アルバムです。オリジナル・ナンバーでみせる「メルドーらしさ」は、やはりこの人の強みですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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