今回最初にご紹介するジョン・コルトレーンの『ザ・ロスト・アルバム』(Impulse)は、今ジャズファンの間で大きな話題となっているコルトレーンの未発表音源です。コルトレーンほどの大物ともなると、従来から海外ツアーなどの私製未発表録音は大量に出回っていましたが、これは発売を前提にスタジオで正規に録音されており、それらとはまったく性格が違います。

また録音年月日が196336日ということですが、これは良く知られたコルトレーンの傑作『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』(Impulse)が録音された前日に当たっているのですね。つまりコルトレーンの人気が頂点に達し、マッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズといった「黄金のカルテット」が快調に傑作アルバムを発表していた時期の音源なのです。

演奏をお聴きいただければわかると思うのですが、期待にたがわずコルトレーンは絶好調。それを裏付けるように、このアルバムは現在全米アルバム・チャートで21位と、ジャズ・アルバムとしては異例の売れ行きを示しています。そうしてみると、「なぜ、これがお蔵入りだったのか?」という疑問がよぎりますが、60年代はブルーノート・レーベルなども非常に出来の良い演奏が多数「未発表」のまま、後に「発掘」され、その「贅沢さ」が私たちファンを驚かせてきたものです。

30光年の浮遊』(Verve)は、山下洋輔がベースのセシル・マクビーとドラムスのフェローン・アクラフを従えた「ニューヨーク・トリオ」の結成30周年を記念したアルバムです。彼の著書『ドバラダ門』のタイトルともなった《ドバラダ》に別パートを加えた《ドバラダ2018》、《早春賦》が収録されています。

Doubtless(Whirlwind)1977年スロベニア生まれのサックス奏者ユーレ・プカルが、チリ出身のミュージシャンらと組んだダブル・テナーでピアノレスというユニークなグループ「ダウトレス」のアルバムです。所々でみせるポップな味付けが粋ですね。

山中千尋がクラシックの名曲を現代ジャズとして蘇らせた『Utopia(Blue Note)は、彼女の才覚の閃きが窺えるアルバムです。《乙女の祈り》のジャズ・ヴァージョンなんて思い付くのは、彼女ぐらいじゃないでしょうか。

そして最後は、前回予告したカマシ・ワシントンのシークレット・ディスク付き3枚組『ヘヴン・アンド・アース』(Beat Record)の「ヘヴン編」です。前回も触れましたが、カマシによると「ヘヴン編」は「私が『内向き』に見る世界、つまり私の中に存在している世界を表している」そうです。

前回「アース編」冒頭の《Fists of Fury》を「印象的で親しみやすいメロディ」とご紹介しました。ご存知かと思いますが、あの楽曲はブルース・リーの映画『ドラゴン怒りの鉄拳』の主題歌ですよね。今回冒頭に収録した《ストリート・ファイター・マス》もまた、たいへんメロディアス。カマシの強みは、まずわかりやすいメロディがあって、それがカマシならではのアイデアによって緻密かつ壮大にアレンジされカマシ独特の世界を表現しているところでしょう。従来、ジャズの楽曲は即興の「素材」として扱われ、メロディ・ラインの魅力はないがしろにされがちでしたが、カマシはそこに果敢に挑戦し、旋律の良さとジャズならではの表現を見事に融合させたのです。

ちなみに、次回は話題のシークレット・ディスクもご紹介したいと思います。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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