今回最初にご紹介するのは、デイヴ・ダグラス率いるレギュラー・クインテットによるライヴ・アルバム。レコーディングは2015年で、この年に出た彼らの傑作アルバム『Brazen Heat』の名を冠した『Brazen Heat Live at Jazz Standard Saturay』(Greenleaf Music)というアルバム・タイトルです。
聴き所はライヴならではの活きの良さで、リーダー、ダグラスのトランペットもさることながら、サイドのサックス、ジョン・イラバゴンの活躍が目立ちます。ニューヨーク・シーンの活気が伝わる熱演ですね。
現代ジャズを象徴するサックス奏者、マーカス・ストリックランドの2年ぶりの新作は、本人のプロデュースによる『ピープル・オブ・ザ・サン』(Blue Note)です。コンポーザー、バンド・リーダー、そしてサックス奏者としての役割を統一的に表現した作品で、西アフリカにルーツを持つアフリカン・アメリカンとしての出自、そして多くの現代ジャズ・ミュージシャンが影響を受けて来た、ポップス、ビート・ミュージックといったアメリカン・ミュージック的要素を実に自由なスタンスで融合させています。
イギリスは旧インドの宗主国だったので、インド音楽の影響が根付いているようです。ユナイティング・オブ・オポジッツもそうしたグループで、アルバム『Ancient Lights』(Tru Thoughts)は、彼らの手になる新作です。メンバーは1945年スコットランド生まれのシタール奏者クレム・アルフォードを中心に、ベーシストのベン・ヘイゼルトン、そしてバンドのまとめ役兼プロデュースを行うのはクラブ・シーンで活躍して来たティム・リッケンで、このアルバムではシンセサイザー等を担当しています。
極めてインド音楽的テイストが強い演奏ですが、本格的なインド音楽をクレムがメンバーに教え、録音、エンジニアリング、スタジオ・ワークなどはティムが担当し、インド音楽とジャズの橋渡し役はベンの役割だそうです。現代ジャズはエスニックな要素が重要なポイントとなっていますが、このアルバムなどはその顕著な例と言えるでしょう。
アルバム『This Is It』(Storyville)のリーダーであるカースティン・ヴォーゲルは、1970年代にデンマークで人気を誇ったプログレッシヴ・ロック・バンド、シークレット・オイスターなどで活躍した経歴を持つ、異色のサックス奏者です。それだけに楽曲の解釈もユニークで、2曲目に収録した《Kyoto》は明らかに日本の京都のことだと思うのですが、インド音楽を思わせるサウンドからは古都京都のイメージは浮かびませんよね。とは言え、優しく語りかけるようなヴォーゲルのサックスはなかなか魅力的で、彼にとっての「京都」はこうした印象だったのかな、とも思わせます。
ブラッド・メルドーなど現代有数のピアニストらから敬意を抱かれているフレッド・ハーシュの発掘作品が『フレッド・ハーシュ・トリオ’97 アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(King International)です。このアルバムは1997年に彼が初めてヴィレッジ・ヴァンガードに出演した際の貴重な記録で、スタンダード・ナンバーを斬新かつ活き活きと演奏しています。
『Ivisible Hand』(Cortez Sound)は、ビッグ・バンドを率い多くの優れたアルバムを残している藤井総子が、水戸のライヴ・ハウス「Cortez」でソロ・ピアノを披露した珍しいアルバムです。ジャズならではの緊張感と音楽的な豊かさが高度なレベルで融合した素晴らしい演奏で、彼女のピアニストとして技量の高さを改めて再認識させられました。名演です。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
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