──デビュー20周年、結成30周年のアニバーサリーイヤーにリリースした前作『Welcome!』から2年ぶりとなる通算12枚目のアルバム『Answer』が完成しました。制作前はどんな作品にしたいと考えてましたか?
atsuko「今年でデビューして22年、結成して32年経っているので、ある程度はやりたいことをやってきたという意識はあるんです。そんな中で何が大切なのか?ということを、新曲を作るたびに二人で考えていて。それは、誰かのために、何かのもののために、という気持ちです。KATSUさんはいつも“Song for one”っていうんですけど、それだけ焦点が定まったものを作った方が、万人には刺さらないかもしれないけれど、もしかすると誰か1人に刺さるかもしれない。“音楽を発信するという意味ではそれこそが大切なんだ“って、ずっと言っていたので、そこを意識して作ったアルバムになりますね」
──KATSUさんは前作リリース直前に急性心筋梗塞に見舞われて、その後のツアーはお休みとなっていました。ツアーのファイナルのアンコールで復活され、“生きろ!”、“死んでたまるか!”のコール&レスポンスを繰り広げたことが印象に残っています。
KATSU「本当に三途の川の一歩手前というか…棺に片足を入れてみた時に、遊ぶことを恐れていたんだってことを感じて。だから、前のアルバム『Welcome!』と今回のアルバム『Answer』とでは心境がガラッと変わっていると思います。“やりたいことをやらなきゃ損じゃん”、“行きたいとこ行かなきゃ損じゃん”、“面白いことをやらなきゃ損じゃん”っていう気持ちがより一層強くなっています。今までは、いろいろ比べて、慎重に選んで生きてきてたのが、“なんか違う”ってなって。『Answer』は“もっと自由にやりたいことをやっていいんだ、やらなきゃダメなんだ”っていう方向の集大成でもあるかもしれないです。今までも“本気で遊ぼうぜ”、“本気でバカやろうぜ”って言っていたんですけど、その意味合いが変わったというか…“やらなきゃ損”っていうのは正直あります」
atsuko「リミットを感じちゃったよね。いつか死ぬんだ、人って」
KATSU「いきなり亡くなっちゃう人もいるので。でも、亡くなりかけて、助かったという人も結構いて…」
atsuko「君だ!」
──(笑)。

──“Song for one”というテーマに加えて、“生と死”を感じる曲を挙げるとすると、やはりまず、「Dear T」になりますね。
atsuko「そうですね。angelaのライブステージを20年以上、大道具やセットとか、細かな道具も含めて作ってくれていた方が事故で急に亡くなってしまったんです。しかも、それがangelaの20周年を締めくくる、かつしかシンフォニーヒルズでの2daysライブ(angela 20th Anniversary☆THE『〆』)の1週間前だったんです。大道具として独立されてすぐだったこともあって、倉庫の場所や倉庫の鍵、1週間後のangelaのライブの具材がどういうふうに発注されているのかが誰も把握できなくて…。いろいろな制作の方が協力して、ライブ自体は滞りなく終えられたんです。でも、本来いるはずだった彼はいなかった。楽屋の周りに彼の写真を並べて、一緒にライブを作っている気持ちでライブをやりました。ニコニコと“ありがとう!”って2daysが終わって、みんなで手を振りながら戻ってきて、楽屋でみんなで号泣しました…。それまではみんな頑張ってニコニコやったんですけどね」
──その時はお客さんには伝えずに?
atsuko「はい。その時は伝えていませんでした。後にブログでも書いたので、“あ、そういうことだったんだ”って分かってくれたんですけど、その時は、彼のことを曲にしようなんてまったく思っていなかったんです。ただただ悲しいやら、悔しいやら、やるせないやらという気持ちだったんですけど、そこから時が経って…アルバムの新曲を書こうとなった時に、メロディーラインだけはもうできていたんです。2人で作っていて、どんな歌詞にしようかな?と思って。その歌詞を書こうとしている日が、ちょうど彼の命日だったんです。彼のことを思い出していたら、“彼のことを書きたい”って思って」
──1年経って、そう思えるようになったんですね…。
atsuko「受け入れたくはないんですけど、彼の曲をアルバムに残すことによって、メンバーも一緒にツアーを回れるような気持ちになれるかもしれないって。これはもしかすると自己満足なのかもしれないですけど、それでも、今回の“Song for one”というテーマだったら、皆さんも分かってくれるだろうし…。それに、ある程度、大人になってくると、そういう突然の別れを誰もが経験してくると思うんです。そういう方にも、もしかしたら響くかもしれないという意味を込めて作りました」
KATSU「彼は必ず、部屋飲みにもいるんですよ。チームのメンバーがみんなで終わってから部屋に集まって、夜中まで飲むっていう時も彼はいて。缶を片手にうとうとしていて。“もう帰って寝ろよ!”っていじられるくらい、愛されるキャラクターでした。そんな彼が突然いなくなったっていうのが、すごく怖いんですよね。体の一部がなくなるような感覚があって。この歌を歌うことで、それが補えるのか?…いや、補えないんだろうけど、一緒にツアーを周りたいっていう気持ちのこもった曲になっています。」
──このままアルバムに収録されている新曲についてお伺いしたいのですが、、「僕等の歌」の<君>はファンである“ぢぇらっ子”に向けていますよね?
atsuko「20周年の締めくくりで作った曲です。今までもいろいろなことがあったけれど、それでもまだangelaは前に進んでいきますし、これまで応援してくれた皆さんもまた次のステージでも一緒にいてほしいという気持ちで書きました」
──歌詞には<明日へのbrilliant road>というangelaにとって2度目のメジャーデビュー曲のタイトルも入っています。より30年、20年というのを感じます。
atsuko「この年になるとどうしても“生と死”に直結しちゃうんですけど、ぢぇらっ子の中でも悲しいお別れがあったり、実際に病気と闘っている子もいて。だから、この曲は、未来の歌でもあってほしいと思っています。私とKATSUさんの共通の目標というか…夢があって。1つは、さいたまスーパーアリーナでワンマンライブをやりたい。もう1つが、岡山で『ぢぇらフェス』というフェスをやりたい。この2つの目標、夢はずっと昔からあって。この曲をその場所で歌いたいっていう、未来を見据えた歌です。「明日へのbrilliant road」はデビュー曲のタイトルですけど、“それはまだまだ未来にもつながっているよ“っていうメッセージです。だから、次の目標に向かっていますし、絶対にその道にいてほしいという願いの歌です」
──今、お二人の地元である岡山の話が出ましたが、ライブのアンセムになりそうな「正⾯突破We are!」には岡山弁が入っていますね。
atsuko「“アルバム用の新曲を作らなきゃね“って話をしている時に、ちょうどキャンペーンで岡山にいたんです。そのタイミングが、岡山のサッカーチーム ファジアーノ岡山が、”この試合に勝ったらJ2からJ1に昇格です!”って日だったんです。いろいろな放送局さんを回っていたんですけど、放送局がバタバタしていて…結果は、ファジアーノさんが勝利しJ1に昇格。私は正直、サッカーにはあまり詳しくはないんですけど、その熱量は、私たちがデビューしたくて上京してデビューが決まった時と似ているって感じたんです」
KATSU「ファジアーノは20数年戦って、1つずつクリアしていって、地域リーグからJ1まで昇格したんです。僕たちも2人で音楽を始めて、1人加わり、2人加わり、スタッフさんが加わり、レーベルの方たちが加わり、2人だけじゃないangelaっていうものができて、それを応援してくださる人たちがいて…。ファジアーノも、地域リーグから始まり、J1っていうメジャーの舞台に飛びだしたときに、いろんな企業の方やサポーターの応援があって、今がある。“これはすごく似ている!“っていうのを感じて。僕もそこに感化されて、曲を作りたいと思いました」
atsuko「しかも、ラジオ番組に出演した時に、ファジアーノの試合の実況を担当されているパーソナリティさんが“もう応援歌を作っちゃいなよ!”ってノリで言ってくれて。じゃあ、非公式だけど、岡山出身だし、ファジアーノさんはJ1に昇格されましたし、スポーツアニメの主題歌は書いたことがないから、スポーツの応援歌を熱く書くのは面白いかも…というきっかけもあって、岡山弁で歌詞を書いています」
──ファジアーノの非公式応援ソングなんですね。
KATSU「かなりの非公式応援歌ですね(笑)」
atsuko「でも、歌っていて、自分も鼓舞されるような曲でもあるし、ライブで歌ったら、かなり楽しいだろうなと思っています」
──TVアニメ『不器用な先輩。』のOPテーマ「不器用なI love you」での“Song for one”はアニメ作品ということになりますね。
atsuko「そうですね。制作に当たっては、まず、原作のコミックスを読みました。アニメのプロデューサーや監督からは、“80年代や90年代のトレンディドラマの主題歌、シティポップのような音楽性がいい”とリクエストをいただいてたんです。我々はまさにそこを聴いて育った世代で、CDセールスが100万枚って時代にこの世界に憧れてきたので、すんなりと落とし込むことができました。歌詞はオフィスラブやコメディーがテーマなので、最初は、生まれては消えゆくビジネス用語をたくさん入れていたんですけど、どうやら入れすぎたらしくて(笑)。“もう少し減らしてください”って言われちゃいました」
──あはははは。<プライオリティー>や<レジメ>、<費用対効果>は残っていますね。
atsuko「“ビジネス用語だけではなくて、恋愛要素ももうちょっと増やしてほしい…”というリクエストをいただいたので、ビジネス用語を減らして、恋愛成分を増やしました。80年代や90年代のトレンディーな雰囲気で作れたと思っています」
──トレンディーなシティポップの中に少しラテンっぽい雰囲気が入っていますね。
KATSU「あくまでも印象なんですけど、80年代や90年代の音楽って、間奏で急にラテンになる曲が多かったなと思って。あとは、シティポップ感ですね。山下達郎さん、大黒摩季さん、広瀬香美さん、とか…」
──歌詞に<ときめきはロマンス>も入っていますしね。
KATSU「“面白おかしく表現して、そこらへんの空気感にしたいっ“ていうサウンドにしたくて。作っていてとても楽しかったです。ライブで”新曲です“って言ってやるにはちょっと勇気がいるアレンジなんですけど(笑)、わざわざ冒頭のスクラッチまでやりましたし、実はこの手の曲、すごく得意なんです」
atsuko「聴いて育った部分がやっぱり大きいです。でも、この曲はangelaの曲の中では歌いやすいほうだと思うんです。“アニソンのど自慢であまり歌ってもらえないだろうな…“っていう曲がたくさんあるので、この曲はカラオケとかで歌ってほしいです」
──そして、アルバムのタイトルにもなってる「Answer」ですが、どんなところから生まれた曲なんでしょうか?
atsuko「アルバムのタイトルを決めようという時に、ちょうどライブをやっていて…今年の1月にファンクラブイベントのライブ(第26回FCイベント『OPEN/END』)が2daysあって。一日目がアニメやドラマのオープニング曲だけをやる日で、2日目がエンディング曲の日って分けたんです。エンディング曲だけをやる日の中に2005年1月にリリースしたTVアニメ『JINKI:EXTEND』のエンディングテーマ「未来とゆう名の答え」を歌ったんです。『JINKI:EXTEND』の主人公は、いろいろともがきながら、悩みながら、それでも戦って前に進んでいく。本当に不安だけど、未来になれば、今、悩んでいる自分の答えが出るだろうっていう歌詞なんです」
──なるほど。angelaとしては、デビューして2年目という時期ですね。
atsuko「そうです。この先、この業界に残れるかもわからないですし、もがいたり、悩んだり、落ち込んだりしていたんですけど、そこから20年経って…。“当時、悩んでいた自分の答えが今なんだ“ということに気づきました。”今の私はどうかな?“と考えてみたときに、”結構楽しくやれているな“って。KATSUさんともまだやっていますし、ずっとキングレコードさんにお世話になっているし、スタッフさんにも恵まれている。そんなに心を病むことなく、楽しく音楽ができています。それってすごいことだな、と。当時はちょっと病みそうなくらい悩んでいたのに、今の私は、すごくいい状態で過ごせています。じゃあ、これが答えなんだから、今、悩んでいるだろう、私たちより若い方々にも少し元気づけられるような曲を作りたくて。”大人になるのも悪くないかもな”って感じてもらえるような、後押しができたらいいなと思いました」
KATSU「この曲、すごく引っかかる部分があるんです。最後、サビの1行目に<さらけ出していけ あなたをもっと>という歌詞があって…それが答えというか、すべてかな?って。<あなた>っていうのは、angelaからファンの方々へのメッセージでもあり、答えでもある。ただ、angelaが、atsukoさんが人に<さらけ出せ>っていうのは珍しいんですよね。まず、“頑張れ”っていうのを人に言わないタイプなんです。だってもうみんな頑張っているんだからって。そういう意味で、今回、<さらけ出していけ あなたをもっと>って言ってくれたっていうのが、このアルバムをすべて1行に集約しているのかな?っていう気がします。そこを聴かせるための曲だと僕は捉えています」
──大人になるのは楽しいことだよというメッセージを伝えた楽曲で締めくくりかと思いきや、最後に「angela体操」が収録されています。
atsuko「自分たちのラジオ番組で“angelaにやってほしいこと”っていうコーナーがあったんですけど、そこに“angela体操があったらいいと思います”っていうお便りが届いたんです。それと、fripSideさんのライブを見に行った時に、ファンの皆さんがロビーで準備体操をされていたんです。“すごい! この人たち、本気だ!”って思った時に、ぢぇらっ子の年齢層も上がってきている中、急にライブが始まって、飛んだり、跳ねたりするよりは、一度体をほぐしてからライブに臨んだほうが、健康のためにも、精神的にもいいんじゃないかな?って。あと、どんなにライブをやっていても、毎回、“初めて来ました”っていう人っていらっしゃって。そういう方って、ものすごく勇気を振り絞って足を運んでくださったと思うんです」
──デビューから22年経っていて、シングル33枚、アルバム12枚、ベストアルバム4枚をリリースしていますからね。
atsuko「“何を聴いていいか分からない“みたいな中でも、”アニサマで観たから行ってみようかな“って、頑張ってチケットを取ってくれた方、すごく緊張して来てくれていると思うんです。そういう方に、例えば、ライブの開演15分前とかにこの音源が流れて、みんなで体操するところから始めると、体もほぐれるし、精神的にも、”みんなやっているからやってみようかな“ってなって、ほぐれると思うんです。ほぐれた状態でライブを観ていただく、聴いていただく、感じていただくと、より楽しめるんじゃないかな?というのも含めて、「angela体操」を作ってみました」
KATSU「“ファンの方からお便りいただいて、それで作った“ってファンの方のせいにしていますけど、実はこのお便りをいただいたときに、心の中で”ぢぇらっ子、でかした! これは発明だぞ!“と思いました。最初に強制的に一体感になる空気を作ると、この後のライブは必ず盛り上がりますよね? ”すっげえ発明だな”と思いました。毎回ライブごとに開演前にangela体操をやるっていうのは、これから、おそらく永遠とやっていくと思うんですけど、これを見た他のアーティストは多分、悔しがると思います。それくらいの発明だと思うので、本当に持つべきものはぢぇらっ子だと思っています」
atsuko「曲だけだとどうやって体操をすればいいのか分からないと思うので、映像をYouTubeにて公開しています。この間、ドイツに行ったんですけど、綺麗な景色のところでも撮ってきたので、バージョン違いも出そうかな?と思っています」
KATSU「歌詞カードにQRコードが入っていて、それで動画が見れるようになっています」
──早速「angela体操」が大活躍しそうな『angela Live Tour 2025「Answer」』も決まっています。どんなツアーになりそうですか?
atsuko「前回のツアー『angela Live Tour 2023 「Welcome!」』はKATSUさんが薄っぺらいパネルでの参加でした。前回のツアーが始まる前、ある程度は回復していたので、“じゃあ、俺のギターも一応、聴けるように入れておくよ”とか、いろいろ協力してくれたんですけど、その時は、“KATSUさんがいなくてもできるだろう”と思っていたんです。できたはできたんですけど、ただKATSUさんは実際にいなくて、薄っぺらい板になってしまうと、私の負担って大きいんだなって。今までなんとなく、“ギター、KATSU!”って言ったあと、ちょっとぼんやりしていたところとかあるんだなぁとか、いろいろ気づいちゃって。ライブ全編を通して気が抜けないな、みたいな。“あっ、やっぱ必要なんだな”って」
KATSU「気づいちゃった? いなくなって。やっぱ、俺おらんとダメか?」
astuko「いや、大丈夫は大丈夫」
KATSU「おーい!」
──あははは。
atsuko「できないことはないけど、“やっぱり必要なんだなぁ“っていうところで、2年経って、さらに元気になったKATSUさんも帰ってきます。より全体のangelaとして、アルバムの曲も代表曲も、初めて来る人にも毎回来る人にも楽しんでもらえるライブにしたいです」
──KATSUさんは前回のツアーはお休みでしたが、もう全快って言ってっていいんですよね?
KATSU「念のために3ヶ月に一回くらいは病院で検査をしているんですけど、もう普通の数値に戻っていて、“何でもやっていいよ”、“何を食べてもいいよ”と言われています。正直、“自分の体には爆弾があるのかな?“くらいの心配があったんですけど、”もう普通ですね“って言われ続けていて。前回、ツアーに参加できなかったことで、こんなに人に迷惑がかかるんだなっていうのを知ってしまってたので、今回はそこを乗り越えたいっていうのが目標です。フェスや海外公演とか、ツアー以外のライブは毎週のように入っていて、今年のツアーを乗り切れれば、本当の意味で完全復活だと思っています」

取材・文/永堀アツオ
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

angela Live Tour 2025「Answer」
10月26日(日) 愛知 ボトムライン
11月1日(土) 群馬 高崎Club JAMMERS
11月9日(日) 栃木 宇都宮HEAVEN'S ROCK UTSUNOMIYA VJ-2
11月15日(土) 岡山 YEBISU YA PRO
11月16日(日) 大阪 LIVE HOUSE バナナホール
11月22日(土) 北京 Mao Livehouse・東郎
11月23日(日) 上海 バンダイナムコ上海文化センター・ドリーム劇場
11月29日(土) 千葉 柏PALOOZA
12月6日(土) 京都 京都FAN J
12月19日(金) 神奈川 1000 CLUB