ブルーノート・レコードの発足は、アメリカに渡ったジャズ好きのドイツ人青年、アルフレッド・ライオンが伝説のブギウギ・ピアニストの演奏を聴いたことがきっかけだった。翌1939年に設立されたブルーノート・レーベル 第一回目の発売アルバムは、その時レーベル・オーナー兼プロデューサーであるライオンが聴いた、アルバート・アモンズのSP盤。そして、同年発売されたシドニー・ベシェのSPアルバム『サマータイム』がヒットし、ブルーノートの基礎が固まった。

このように、スイング時代にレコーディングを開始したブルーノートは、40年代半ばに起こった“ビバップ”への対応は若干遅れ気味だったが、無名時代のセロニアス・モンクを録音した業績は認めるべきだろう。そして、40年代末にはバップ・ピアノの開祖、バド・パウエルのレコーディングも行っている。また、マイルス初期の記録も貴重だ。

しかしなんと言ってもブルーノートの目玉は、50年代ハードバップ全盛期を完璧に捉えているところだろう。その象徴が「ハードバップの夜明け」と言われたアート・ブレイキーの「バードランド」でのライヴ盤だ。そして、後にクラブシーンを賑わすことになるケニー・ドーハムの傑作《アフロディジア》がブルーノートの路線を予言している。ライオンは黒人ジャズが好みなのだ。

その延長上でオルガンジャズにも目を配り、ジミー・スミスに大量のレコーディング・チャンスを与えているが、彼のアルバムはブルーノートの経営基盤にも寄与している。ブルーノートは新人発掘にも熱心で、リー・モーガンはその象徴とも言うべき逸材。名曲《アイ・リメンバー・クリフォード》は日本でも大ヒットした。そして、後にジャズシーンに大旋風を巻き起こすジョン・コルトレーンも抜かりなくレコーディングしている。

しかしそのハードバップも50年代末にはマンネリに陥った。そして、ジャズマンたちはさまざまな方向へと活路を求めてゆくのだが、ブルーノートが素晴らしいのは、それらすべてを確実にフォローしているところだ。

まず黒人独自のアーシーな感覚をよりタップリと演奏に盛り込んだ“ファンキージャズ”。これはこの時期のドナルド・バードやホレス・シルヴァーのアルバムに顕著に現れている。そして、そうした大衆路線の延長ともいえる“ジャズロック”の超有名盤『サイドワインダー』は、日米で大ヒットした。

もう一つの方向として、“モード”という考え方を基にした“モードジャズ”が60年代に盛んになったが、ブルーノートは“60年代新主流派”と呼ばれた若手ミュージシャンたちの斬新な演奏を熱心に録音している。ハービー・ハンコックの『処女航海』はその代表作だ。

ブルーノートの凄いところは、よりジャズに自由を求めたフリージャズ系のミュージシャンにも門戸を開いたところで、完全なフリーではないけれど、エリック・ドルフィー唯一のブルーノート録音は、このレーベルの前向きの姿勢を象徴した傑作だ。

そして、1967年にアルフレッド・ライオンが引退した後も、ウエイン・ショーターの斬新なアルバムをレコーディングし、1985年の新生ブルーノート誕生後も、ジョー・ヘンダーソンの傑作やら、新人ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの紹介など、ブルーノートは長きに渡ってジャズ界に大きな貢献をなしてきた。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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