年配のジャズ・ファンなら説明しなくても「ファンキー・ジャズ」のことは知っていると思う。1961年、アート・ブレイキーと彼の率いるバンド“ジャズ・メッセンジャーズ”一行が来日し、日本中がファンキー・ジャズ・ブームに沸いたからだ。今回はその「ファンキー・ジャズ」の代表的名盤をご紹介していこう。

ファンキーというのは、汗臭さとか土臭い感じを意味するスラングで、黒人音楽独特のアーシーでソウルフルな感覚を指している。ファンクというのも似たようなものだ。ジャズ史的に言うと、1950年代後半“ハード・バップ”が煮詰まり、どれもこれも同じような演奏になってしまった状況を打ち破ろうとして起こったスタイルのことである。要するに、もともとがブラック・ミュージックであるジャズを、より強烈なブラック・テイストで味付けしたスタイルと思っていただければいいだろう。

さてその「ファンキー」と呼ばれた最初の演奏、ホレス・シルヴァーの《セニョール・ブルース》(56年録音)を聴いてみよう。皆さん「アレッ」と思うのじゃないだろうか。エキゾチックなリズムの可憐な演奏は、ソウルフルというよりむしろ繊細な印象すら与える。だがこの曲こそ、白人ジャズ評論家レナード・フェザーが「ファイン・アンド・ファンキー」と評し、「ファンキー・ジャズ」の名称が生まれた演奏なのだ。

しかし時代の変遷につれ、次第に黒い感じが濃厚になってゆくのがお分かりいただけるだろう。 アート・ブレイキーの定番曲《モーニン》(58年録音)出だしのボビー・ティモンズの粘っこいピアノのタッチ、それに続くリー・モーガンのタメを効かせたトランペットは、明らかに黒い。

そしてもう一人のファンキー大将、キャノンボール・アダレイのこれまた定番曲「ジス・ヒアー」(59年録音、アルバム『イン・サンフランシスコ』に収録)冒頭、ユニゾンで吹かれるテーマはもうほとんどR&B感覚だ。ブレイキーのファンキーがダークな色調だとすれば、キャノンボールは性格を反映してか明るく陽性だ。

そう、ジャズにおけるファンキー感覚は、時代を追うごとに黒々とした気配を強めてゆくのだ。それが一番良く分かるのが番組後半、14曲目の《フィルシー・マクナスティ》(61年録音)だろう。最初にお聴きいただいた同じホレス・シルヴァーの演奏なのに、5年後ファンキー指数は200%パワー・アップしている。

テーマの執拗な繰り返しはR&Bバンドの常套手段だ。そして極端にシンコペーションを効かせた、け躓くようなリズムは、聴いているだけで踊り出したくなるような強烈な躍動感に満ちている。そして「ファンキー指数、年代ごと上昇論」を決定付けるのが最後のトラック《マーシー・マーシー・マーシー》(66年録音)だろう。これも先ほどのキャノンボール・アダレイ・バンドの演奏なのだが、7年後の彼らは明らかに黒さ指数が急上昇している。そして面白いのが、作曲者はあのオーストリアから来た白人ピアニスト、ジョー・ザヴィヌルという意外な事実である。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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