この記事も200回を迎え、「新譜特集」も60回を数えるようになりました。とりわけ「新譜特集」は私自身勉強になるだけでなく、明らかに新局面を迎えた21世紀ジャズの面白さ、多様さが実感を持って受け止められ、毎回アルバム選びを大いに楽しんでおります。

選曲については毎月目に付いた新譜の中から斬新で聴き応えのあるものを選んでいるのですが、たまたま似た傾向のアルバムが重なることがあります。今回はそれがダブルで来ました。女性トランぺッターの2作とエスニック・テイストを感じさせる4作です。

ヴォーカル、ヴィブラフォンもこなす女性トランぺッター、ジェイミー・ブランチの2枚組ライヴ・アルバム『Fly or Die Live』(Rings)は、彼女たちのバンド名でもあるタイトルからして気合入りまくりです。何しろ「飛ぶか、死ぬか」ですからね。意訳すれば「飛ばなければ生きられない」でしょう…まさにジャズです。

タイトルにふさわしく、チャッド・テイラーの切れの良いドラミングに乗ったジェイミーのトランペットは、一抹の哀感を醸しつつためらうことなく吹き切ってしまうのが潔い。ちょっとドン・チェリーを思わせるところが面白いですね。

今回唯一と言って良い良い意味での「フツーのジャズ」が、『Freg Ireland Trio』(Mondgreen Recordings)です。グループ・リーダー、Fred Irelanはベーシスト、コンポーザーで、アルト・サックスのNathaniel Facey、ドラムスのJames Madrenによるシンプルなトリオは2013年にサウス・ロンドンで結成されました。聴き所は何と言ってもNathanielのけれん味の無いストレートなアルト・ソロですね。

少し前にご紹介した林華勁の自主製作アルバム『Tri-polar Syndrome』(Feeling Good Music)に続いて、またもや台湾から興味深い女性ヴァイブラフォン奏者が登場しました。Chien Chien Luのアルバム『Path』(P-Vine)は、ロイ・エアーズの《We Love Brooklyn Baby》をカヴァーしたり、スタンダードの名曲《Invitation》を採りあげたりしているのですが、やはり西欧ミュージシャンとは一味違うエスニック・テイストが感じられるのです。

そして、今回ご紹介するもう一人の女性トランペット奏者のアルバムが、UK出身エマ・ジーン・サックレイの『イエロー』(Movement)です。ジェイミー・ブランチもそうですがエマもまたヴォーカルから作曲、プロデュースと幅広い才能を見せるマルチ・ミュージシャンで、彼女の音楽は意外なことに1960年代アメリカン・ポップ・サウンドを一新させたフィル・スペクターによる「ウォール・オブ・サウンド」の影響も受けているそうです。加えてジェイミーと同じようにドン・チェリーの影が垣間見えたりするのも面白い。ほんとうに21世紀ジャズは良い意味で「なんでもアリ」なんですね。

鎌倉生まれのスペイン人打楽器奏者、ミゲル・ヒロシのファースト・アルバム『オニリコ・オノリコ』(Think! Record)は、女性歌手サンドラ・カラスコやシャイ・マエストロ、ペトロス・マエストロらが参加する多彩な作品です。

ミゲルが研究し親しんできたワールド・ミュージックの要素が、ごく自然にジャズと融合しているのは現代ジャズ・シーンが成熟期を迎えている証拠でしょう。それにしても、「ジャズ」の懐の深さ、包容力の大きさには今更ながら驚かされます。

ご存知スナーキー・パピーのリーダー、ベーシスト、マイケル・リーグ初のソロ・アルバム『So Many Me』 (Core Port)は、マルチ・プレイヤーであるマイケルが全ての楽器、ヴォーカルを担当しています。聴き所は、中東地域のさまざまな打楽器を多重録音したサウンドがまさにマイケルの音になっているところで、どんな楽器であれ「自分の音」にしてしまう「ジャズの原則」が進化した形で現代に生きているのですね。

加えてヴォーカルも従来の「ジャズ・ヴォーカル」のように歌が前面に出て来るのでは無く、「サウンド」の一翼を担うようあえて「コーラス的」な録音法を採っているところにも注目したいですね。

そして最後もまたエスニックな要素が無理なくジャズとなった傑作です。ブラジルのピアニスト、アマーロ・フレイタスのアルバム『Sankofa』(Far-Out Recordings)は、一聴ブラジルの豊かな自然を思わせる穏やかなピアノ・トリオですが、良く聴くと意表を突くリズムや途中で捩れたようなフレーズが顔を出すなど、明らかにかつての「M-ベース」の影響が窺えます。これもまたも、ジャズの伝統が多様な音楽文化を包摂した好例と言えるでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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