異色のピアノトリオ、バッド・プラスの新作『Activate Infinity(Edition)は、ピアニストがイーサン・アイバーソンからオリン・エヴァンスに変わってから2枚目のアルバムとなります。アコースティック・トリオですが、極めて現代的なデヴィッド・キングのハイテク、ドラミングによって、従来のピアノ・トリオのイメージを覆す斬新な演奏となっているところは変わりません。

全曲彼らのオリジナルで、アメリカのグループながらイギリスのゴー・ゴー・ペンギンが醸し出す未来サウンド的エキゾチシズムを感じさせる曲想が面白い。しかし聴き手を惹きつけているのは、緊密なチームワークから生まれる演奏の密度感によっているようです。

クリヤ・マコト率いるグループ「アコースティック・ウエザー・リポート」は、ウエザー・リポートの楽曲をピアノ・トリオで再現するという斬新な試み。彼らの新作『アコースティック・ウエザー・リポート2(Sony Music)は、良い意味で事前の想像を裏切る作品と言えるのではないでしょうか。彼らは楽曲を素材とするチャーリー・パーカー以来の「ジャズの王道」を極めて現代的スタンスで実現しているのですね。

チーム名を見ただけではウエザー人気に寄り掛かっているように見られかねませんが、アルバムを聴いてみると極めてオリジナリティの高い「彼らの音楽」となっているのです。聴き所はグループとしての緊密なまとまりに裏付けられたダイナミックな躍動感で、クリヤのピアノの切れも申し分ない。付け加えれば、ピアノ・トリオとは思えない豊かな色彩感と音楽的スケールの大きさも魅力です。

『ブッゲ・ヴェッセルトフト&プリンス・トーマス』(Smalltown Supersound)は、タイトル通りノルウェーのピアニスト、ブッゲと、同じくノルウェーの人気D.J.プリンス・トーマスが共演したアルバムです。ブッゲのピアノとトーマスのエレクトリック・サウンドが幻想的な気分を盛り上げ、それをヨン・クリステンセンのパーカッションが支えてあたかも時が無限にループしていくような錯覚を聴き手に与えます。

冒頭にご紹介したアルバムから始まる3作とも、ピアノというジャズの伝統的な楽器がいまや完全に表現を刷新したことをいみじくも象徴しているようです。

北欧ジャズから一転し、キューバのピアニスト、ロベルト・フォンセカの新作『This Is Who I Am(Mack Avenue)からはカリブの陽光を思わせる熱気が漂い出しています。とはいえ、いわゆるラテン・タッチの陽気さに留まらないほのかな陰影感をも感じさせる曲想が好ましく、レバノンのトランぺッター、イブラヒム・マーロフがゲスト参加する《Kachucha》など、まさに融合音楽としてのジャズの面白さが現れたトラックと言えるでしょう。

ローレン・セヴィアンはニューヨークで注目を浴びている珍しい女性バリトン・サックス奏者。彼女の初リーダー作『Bliss(Positone)は女性とは思えない力強い演奏に驚かされます。サウンドはジェリー・マリガン風のまろやかなものではなく、ペッパー・アダムス流のゴリゴリ・サウンド。さすがアメリカは人材豊富です。

最後に収録したのは、今年来日公演を行ったノルウェイのピアニスト、エスペン・バルグの新作『Free To Play(Odey)です。ごくオーソドックスなピアノ・トリオ演奏ながら演奏の集中力、密度感が凄まじく、《Camillas Sang》のエキゾチシズムを感じさせる曲想も極めて魅力的です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る