最初にご紹介するのはカリフォルニア在住のサックス奏者、ダン・ジンの『Day Of Reckoning』(Origin)です。シンプルなワン・ホーン・カルテットでダン・ジンがけれん味なくストレートに吹きまくります。

サイドのピアニストはテイラー・アイグスティで、明るく切れ味の良いソロを聴かせてくれます。ごくオーソドックスな演奏ですが聴き所はバンド全体の活きの良さですね。

2枚目にご紹介するのは、2016年に来日公演を行ったノルウェイのチューバ奏者、ダニエル・ヘシュケダールの『Voyage』(Edition)です。演奏はヘシュケダールのチューバ、バス・トランペットの他、ピアノ、ヴァイオリンそしてパーカッションという変わった楽器編成で、3曲目にシリアのウード奏者Maher Mahmoudが参加しており、エスニックなサウンドが楽しめます。

同じ北欧のトランぺッター、ニルス・ペッター・モルヴェルは、かつてカンボジアの古代王国をタイトルとした『クメール』(ECM)というアルバムを出し大ヒットしましたが、北欧のミュージシャンは南国に憧れるのでしょうか。

ともあれ、ジャズはあらゆる地域の音楽を巧みに融合させる力があるのですね。

新譜紹介第22回でソロ・デビュー作『Wax & Wane(Rings)をご紹介した新進女性ハープ奏者、ブラディ・ヤンガーの新譜『Soul Aakening(Rings)は、実を言うと『Wax & Wane』以前の録音なのですね。

ハープ・ジャズという特殊なフォーマットに対する、ヤンガーのある種「ためらい」が発表を遅らせたようなのですが、ラヴィ・コルトレーンらをフィーチャーした演奏は実に新鮮。ハープの音色という良い意味でのジャズ・サウンドに対する「異質感」が、音楽に新鮮味を与えているのです。

厚みのあるサックス・トーンが魅力のデイナ・スティーヴンスの新作『ライト・ナウ~ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』(Core Port)は、アーロン・パークスのピアノ、ベン・ストリートのベース、そしてグレゴリー・ハッチンソンのドラムスによるワンホーン・カルテット。

聴き所はオーソドックスな演奏ながら随所に感じられる斬新な感覚で、切れ味と抑制感のバランスが絶妙。まさに現代ジャズ・ミュージシャンですね。

ベーシスト、マット・ブリューワーの新譜『Ganymede(Criss Cross)は、ジャマイカ出身のテナー奏者、マーク・シムをフィーチャーしたトリオ作品。

聴き所はマーク・シムの地味ながら味のあるサックスを鼓舞するブリューワーのベースと、ドラマー、ダミオン・リードのダイナミックな絡みで、ジャズがリズムの音楽であることがまざまざと実感されます。

それにしても、現代ジャズにおけるリズム・セクションの進歩には驚かされます。

的確なテクニック裏打ちされた緊密なグルーヴ感はその部分だけ聴いても充分楽しめ、そして当然その上に乗ったテナー奏者の演奏を際立たせるのですね。

イスラエル出身のピアニスト、ヤロン・ヘルマンの新譜『Songs Of The Degrees(Blue Note)は、アコースティック・ピアノ・トリオ。自身のバイオグラフィーをピアノで綴ったということで、しっとりと語りかけるような演奏は聴くほどに心に染み入るようです。

ともあれ、このところ活躍が目立つイスラエル・ジャズから受ける情感は独特ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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