最初にご紹介するのは2009年に北欧オスロでデビューした、「Sixth Sense」 第6感という名前のグループによる、2018年録音の『Splashgirl(Hibro)です。楽器はキーボード、ギター・ベース、そしてドラムス・パーカッションによるトリオ編成ですが、エレクトロニクスを駆使した多彩なサウンドはあたかもオーケストラのような広がりを持っており、僅か3人による音楽とは思えません。強いて言えば近未来SF的サウンドとでも言えるのでしょうが、聴き手の想像力を刺激するスケール観は圧倒的。出来れば大音量で迫力に満ちた低音の凄みを実感していただきたいものです。

このところUKジャズが注目されていますが、ピート・カニンガム率いる「イシュマエル・アンサンブル」は、イギリスにおけるジャズの中心地サウス・ロンドンから200キロも離れた港町ブリストルを活動拠点としています。そのせいか、今回ご紹介する新譜『ア・ステート・オブ・フロー』(Rings)は、いわゆるUKジャズのイメージからはちょっとかけ離れたユニークなサウンドが特徴です。というのもカニンガムはもともとハウス・ミュージックのプロデューサーなので、それがこのアルバムのテイストに影響しているのでしょう。日本語の歌が出てきますが、歌っているのは日本人シンガー嶋原由乃で、彼女は山童(ヤマワラシ)というバンドで活動しています。

 ブラジルのダンス・ミュージック「フォー」を演奏するバンドForro Zinhoによるジョン・ゾーンの楽曲をカヴァーしたアルバム『Forro in the Dark Plays Zorn(TZADIK)は、そのカラフルなジャケットからはTZADIKレーベルとは誰も気が付かないのではないでしょうか。出てくるサウンドもまさに軽快なブラジリアン・ミュージックで、ゾーン・ミュージックの新たな可能性を示した楽しい作品です。

  パット・メセニーの6年ぶりのスタジオ・アルバム『From This Place(Nonesuch)は、長年共演し続けてきたドラマー、アントニオ・サンチェスはじめ、ベースはリンダ・オー、ピアノにグウィリム・シムコック、それにオーケストラ・サウンドが加わった豪華な陣容です。また、トラックによってはスペシャル・ゲストとしてミシェル・ンデゲオチェロが参加。すべてが新曲のようです。

インプロヴィゼーションにすべてを賭けたアルティスト、ステーヴ・リーマンの新作『Pieople I Love(PI Recordings)は、自己のバンドに先鋭なピアニスト、クレイグ・テイボーンを迎えた刺激的なアルバムです。乾いたサウンドから繰り出される緊張感に満ちたリーマンのソロは聴き応え十分。極めてフリーキーな演奏ながら冗長なフレーズが無く、リーマンの音楽観が素直に表れているところが好感が持てます。いわゆる“フリー・ジャズ”も、演奏者次第でまだまだ可能性が拓かれていることが聴き取れるアルバムですね。

ピアニスト、ダニエル・サボーのアルバム『Visionary(Fuzzy Music)は、バックに大人数のオーケストラを配したスケールの大きな作品です。いわばクラシック音楽におけるピアノ・コンチェルトのように、練り上げられたアンサンブル・サウンドがサボーのピアノを盛り上げるような構造で、1曲を除きすべてオーケストレーションを含めサボーのオリジナル作品です。ひとことで言えばクラシック的ジャズとされるのでしょうが、構成された部分とジャズ的即興が極めて有機的に統合されており、上質のジャズ演奏として堪能できる作品となっています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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