最初に少し宣伝をさせてください。この度、小学館新書から『一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』という本を出しました。(2020年当時の情報です)タイトルから想像される通り、以前同じ小学館新書から出した『一生モノのジャズ名盤500』のヴォーカル版で、内容も「朝目覚めの時に聴くに適したヴォーカル」であるとか、「聴くと気分がウキウキするヴォーカル」といったように、「聴いた感じ」でアルバムをセレクトするスタイルを踏襲しています。

この「新譜紹介」でもお気付きかと思いますが、現代ジャズの特徴として、ヴォーカル・トラックが含まれたアルバムがたいへん多い。そういう意味でも、今「ヴォーカル」が注目を集めているのです。

さて、今回最初にご紹介する新譜は1966年ロシア、サンクト・ぺテルスブルグ生まれで、現在ニューヨークで活動するピアニスト、ミシャ・シガノフの『プレイング・ウィズ・ウィンド』(Criss Cross)です。編成はトランペット、テナーを擁するクインテット。シガノフの切れの良いピアノに先導された演奏はオーソドックスながら現代ジャズらしい斬新さを備えた傑作で、どなたにもお薦めできるアルバムです。

メキシコ出身のドラマー、イスラエル・ヴァレラはロサンゼルスでディヴ・ウェックルらに師事し、現在はイタリアを拠点にジャズ、ワールドミュージック、そしてフラメンコと幅広い活動を展開する注目株。今回の新譜『The Labyrinyh Project(Jando Music)は、ピアノのフロリアン・ウェーバーとブラジル出身のベーシストによるピアノ・トリオに、ゲストのテナー奏者ベン・ウェンデルを迎えたカルテット編成で、エスニックな雰囲気を湛えた演奏が特徴と言えそうです。

スティングとも共演したギタリスト、ドミニク・ミラーの新作『Absinthe(ECM)のタイトルの意味は、たいへん強いお酒「アブサン」のこと。確かにサンティアゴ・アリアスのバンドネオンやキーボード奏者らとともに醸し出す夢のような気分は、アブサンの酔い心地に似ているのかもしれません。いかにもECM的サウンドも心地よい。

次にご紹介する新譜はポーランドの若手ピアニスト、アダム・ジャースミク率いるレギュラー・クインテットにギタリスト、マイク・モレーノが参加した『オン・ザ・ウェイ・ホーム』(audiocave)です。ギターのサウンドがごく自然にポーランド勢の演奏と溶け合っており、こうした演奏を聴くと、ジャズのグローバル化がごく自然に浸透していることを実感させられます。

ゴッドテットはマルチインストゥルメンタリストでビートメーカー、そしてプロデューサーでもあるデイヴ・ロドリゲスが率いるユニット。その第2作目が『II(Rings)です。ロドリゲスはオーストラリアのシドニーを拠点として活動を続けているミュージシャンで、このアルバムにもオーストラリアのグループ、ハイエスタス・カイヨーテのメンバーが参加しています。演奏はエスニックなテイストとハイテク・サウンドが融合感を保ちつつ進行する、いかにも現代的な内容となっています。

ジョン・ゾーンの『The Hiepophant(Tzadik)は、ゾーンの楽曲をピアニストのブライアン・マーセラがトリオ編成で演奏したアルバムで、ゾーンは演奏していません。楽曲の面白さもありますが、聴き所はブライアンの切れ味鋭いピアノのタッチですね。これは名演です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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