冒頭にご紹介するのは、カマシ・ワシントンの仲間として知られるトロンボーン奏者、ライアン・ポーターの新作『Force For Good(Rings)です。ライアンは1970年にLAで生まれ、ベテランドラマー、ビリー・ヒギンスに師事するなど、ウェストコーストのジャズシーンの中でカマシらと共にジャズの世界に入っています。

ライアンはカマシとセットで語られることが多く、実際このアルバムにもカマシは参加しています。ただ、ライアンの音楽の肌触りは、どちらかというと重量級のカマシ・サウンドとは微妙に異なり、より軽やか。アンサンブルパートとソロが軽妙に絡み合うさまはいかにもウエストコースト的です。

2枚目のアルバムは、第1回新譜特集でご紹介したイギリスのベテラン、サックス奏者、ジュリアン・アーギュロスの『Tonedas』(EDN)。こちらはアーギュロスがワンホーンでじっくりと聴かせる演奏で、けれん味のないストレートなスタイルはジェリー・バーガンジーに通じるものがあります。ただ、バーガンジーがいかにもホットな「アメリカン・ジャズ」なのに比べ、アーギュロスの演奏はイギリスの風土のせいか、若干の渋みというか香辛料が効いているようにも思えます。

チック・コリアのサイドマンとして知られたベテランベーシスト、クリスチャン・マクブライドの新グループ、ジョーンによる新譜はタイトルも『ジョーン』(Mackavenue)です。メンバーも強力で、ジョシュ・エヴァンスのトランペットにマーカス・ストリックランドのサックス、そしてドラムスがナシート・ウェイツという陣容のピアノレス・カルテット。

聴き所の第一は、強力無比なマクブライドのベースが演奏に躍動感を与えているところ。そしてそれに応えるホーン陣の活躍も精彩を放っています。とりわけジョシュのトランペットが冴えていますね。オーソドックスなアコースティック・ジャズの伝統が現代に息づくさまを実感させてくれるアルバムです。

3枚目にご紹介する『スイス・ジャズ・オーケストラ&ギジェルモ・クライン』(Sunnyside)は、スイスを拠点として活動するスイス・ジャズ・オーケストラがアルゼンチンのコンポーザー、ピアニスト、ギジェルモ・クラインと組んだ新作です。

聴き所は、ギジェルモ・クラインの変化と想像力に満ちた曲想が、圧倒的な演奏テクニックを持ったスイス・ジャズ・オーケストラによって緻密かつ繊細なサウンドを繰り広げているところです。楽曲によってさまざまなイメージが掻き立てられますが、どのトラックもソロ楽器の魅力が十分に活かされているところなど、ギジェルモの才覚が際立っています。

新人ヴァイブラフォン奏者、ジョエル・ロスのデビュー・アルバムが『Kingmaker(Blue Note)です。ヴァイブ・ジャズの伝統はミルト・ジャクソンを筆頭にボビー・ハッチャーソン、ゲイリー・バートンと引き継がれていますが、ジョエルはそうした先達たちの誰とも異なるテイストが新鮮。

ヴァイブラフォンは楽器自体の音色が音楽のイメージを決めがちですが、ジョエルのサウンドは温かく軽やかで、しかも涼やかなのですね。しかし興が乗ったジョエルのソロは極めてエネルギッシュ。穏やかさと熱狂が極めてクールに共存しているところがこのアルバムの特徴で、そこが現代的。曲想もこうしたジョエルのサウンドが効果的を発揮するものが選ばれています。

自身によって“ダーク・ファンク”と命名されたサウンドを引っ提げて注目されたトランぺッター、テオ・クロッカーによる3年ぶりの新作『Star People nation(Masterworks)は、現代的な高速ドラミングに乗ったテオのエネルギッシュなトランペットが精彩を放っています。

最後にご紹介するのはオーソドックスなピアニスト、グレッグ・レイタンのトリオによる新譜『West 60th(Sunnyside)です。とりわけ変わったことをするわけでは無いのですが、知れの良いタッチから繰り出される演奏は芯が一本通っており、この人の音楽観が素直に伝ってくる所が魅力ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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