最初にご紹介するアルバムは「バンコク・リンゴ」というノルウェイのグループによる『Smells-Coluurs-Noise』(Losen)です。

楽器編成はトランペット、サックス、ベース、ドラムス、パーカッション。つまりピアノレスの2管クインテットですね。ジャケットの雑然としたイメージやタイトルからは中身の想像が付きにくい作品ですが、オーソドックスでありながらも熱気に満ちた演奏はかなり気に入りました。

北欧ジャズにありがちなクールな気配は毛頭なく、とにかくパワフルで躍動的。そして随所に顔を出すエスニックなテイストは北欧的ではまったくなく、またヨーロッパ・ジャズにありがちな整った風情とも無縁。強いて言えば、東欧というかバルカン半島のブラス・ミュージックに似た所も感じられます。

聴き所は、完璧なテクニックを備えつつ味わいもたっぷりなホーン陣が、エネルギッシュなドラムス、パーカッションに支えられ暴れまくるところ。かなり広範囲のジャズファンに支持されそうなアルバムです。

「ロウニン・アーケストラ」のアルバム『ソンケイ(尊敬)』(Rings)は、以前ご紹介した日本テイスト満載のピアノ、キーボード奏者マーク・ド・クライブ・ロウが自身のルーツである日本のミュージシャンを糾合して作り上げたニュー・プロジェクトによる注目作です。ロウニンは浪人、アーケストラはサンラのグループをイメージしているのでしょう。参加メンバーは類家心平、石若駿といった日本を代表する手練れたち。

石若の切れの良いドラミングに乗って華麗かつ濃密なサウンドが心地よく繰り広げられる好演で、「日本のジャズ」が変わりつつあることが実感できる注目作と言えますね。

ゴー・ゴー・ペンギンの新作『Ocean In A Drop』(Blue Note)は、1982年のマニアックな映画『コヤニスカッティ』にインスパイアーされた映画音楽。2016年に発表されたスタジオ・ライヴEP『ライヴ・アット・アビイ・ロード』に4曲追加した5曲のミニ・アルバム。いつもの快調な演奏ですが、この作品では切れの良さ、ノリの良さがとりわけ強調され、このグループの聴き所であるスピーディなグルーヴ感が満喫できます。

フィンランドのピアニスト、アレクシ・トゥマリオの『Sphere』(EDN)はとにかくピアノの切れ味が尋常ではありません。ツボに嵌ったときのインプロヴィゼーションの広がりが素晴らしい。また、ゲスト参加しているトランぺッターの気合の入った演奏も聴き所ですね。グループとしての密度感も充実しており、これは傑作です。

次にご紹介するのは1974年ニュージーランド生まれのベーシスト、マット・ペンマンの10年ぶりのリーダー作『グッド・クエスチョン』(Sunnyside)です。マットは1995年にニューヨークに渡り、多くの著名ミュージシャンとの共演歴を誇る強力ベーシスト。今回はマーク・ターナー、アーロン・パークスといったミュージシャンを迎えた完璧の布陣でペンマン自身のオリジナル楽曲を演奏しています。

そして最後はマイルス・デイヴィスにもリスペクトされた大ベテラン、アーマッド・ジャマルのソロ・ピアノ・アルバム『バラーズ』(Harcourt)です。

とても来年90歳を迎えるとは思えない演奏で、いわゆる「枯れた味」「渋さ」という誉め言葉では語り切れない優れた内容です。強いて言えば華麗で端正。とは言え、こうした雰囲気を醸し出せるのは年輪の故というもの間違いのところでしょう。これは傑作です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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