最初にご紹介するのはデイヴ・ホランド、ミンガス・ビッグ・バンドとの共演歴を持つトランぺッター、アレックス・シピアジンのワン・ホーン・カルテット・アルバム『Upstream』(Post-Tone)です。穏やかな表情の中にも繊細さを感じさせるシピアジンのトランペットの音色が魅力的ですね。オーソドックスなスタイルでありながら現代のニューヨーク・シーンを感じさせるスタイルが聴き所でしょう。
1964年生まれ、いまやベテランのアルト・サックス奏者、ビンセント・ハーリングの新作『Preaching to theChoir』(Smoke Sessions Record)も、アルト一本で勝負のワン・ホーン・カルテットですが、こちらは古き良き時代のスタイルを現代に蘇らせた剛腕アルバム。ウェス・モンゴメリーの名曲《Fried Pies》を外連味なくストレートに吹き上げる様は伝統的ジャズ・ファンの喝さいを浴びそうです。
とは言え、このアルバムも21世紀ジャズならではの切れ味がリズム・セクションの冴えに現れており、演奏全体を貫く躍動感はやはり現代ジャズですね。それにしても抜けの良いハーリングのアルト・サウンドの心地よさは格別です。
イギリスの音楽シーンが面白いのは、はるか昔から例えばロック・ミュージシャンとジャズマンの垣根が無いとか、伝統的なジャズが好まれる反面アヴァンギャルドな演奏家も輩出すると言った、良い意味での混交状況です。
現代においてもこの傾向は継承されていて、今回ご紹介するスコットランド出身のドラマーにしてコンポーザーでもあるグレアム・コステロの新作『Second Lives』(Garebox Record)でも、彼はノイズ、ロック、エレクトロニカといった多様な音楽体験を積んだ後、そうした隣接シーンのエッセンスをジャズを融合させる試みに挑戦しています。
ポイントは、スコットランド王立音楽院で優秀な成績を収めたというバック・グラウンドがあるためか、前述のさまざまな音楽要素がバラバラにならず、巧い具合に現代ジャズという入れ物に収まっているところですね。切れの良いドラミングの小気味良さも聴き所です。
私はこの「新譜特集」に収録するアルバムを選ぶとき、事前にはライナー・ノートの類にはあまり目を通しません。先入観を排するため「音」先行でトラックを選ぶようにしています。もちろん始めて聴く新人が多いので、この文章を書くときはライナーはじめネット上の情報を参考にしています。
そうした前提で今回一番感銘を受け、気に入り、しかし音楽のバック・グラウンドについてまったく予想がつかなかったのがミア・ドイ・トッドの『ミュージック・ライフ』(Rings)でした。素直で人間味を感じさせる魅力的でエキゾチックな歌声、ジャズでありながら過去のどんなカテゴリーにも入りそうもない音楽性。
収録後に、原雅明さんのていねいなミュージシャン・インタビューを含んだライナーを読みましたが、意外な事実を知ると、「なるほど」と腑に落ちるところが多々ありました。「声の魅力」は子供を持った親ならでは「優しさ」のようでもあるし、冒頭に収録した長尺の《Daugther of Hope》の不思議な力強さは、彼女が日本の「舞踏」から学んだ「危機の直前まで自分を追い込みむ」ことで、「声と感情が危機に立っている状態」を生み出しているということが理解できたのです。
しかし彼女が日系のハーフであることもわかりましたが、そこから大方の方々が想像するような「日本趣味」はまったく感じられず、それだけにミアの音楽の独自性が改めて実感されました。
台湾の新人ギタリスト、Ginこと林華勁の自主製作アルバム『Tri-polar Syndrome』(Feeling Good Music)はどういうわけかサイドマンが実に豪華なのですね。クリス・チークのテナーにイスラエルの新進ベーシスト、オル・バケットといった逸材を従え、Ginが伸びやかなギター・ソロを展開する新作は、台湾ジャズ・シーンの今後を大いに期待させる注目盤です。
今回ヴォーカル・アルバムが2枚になってしまい、どうしようかと思ったのですが、たいへん素晴らしい新人歌手なのであえて収録しました。サマラ・ジョイのデビュー作『サマラ・ジョイ』(Core Port)です。声良し歌よしオリジナリティありという三拍子そろった文字通りの大型新人です。良く知られたスタンダードを真正面から歌い上げ、誰にも似ていない好ましさを知らしめたのは大したもの。ベテラン・ヴォーカル・ファンにも自信をもって推薦できるお奨め盤です。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。
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