今回の目玉は何と言っても注目のロンドン発新人女性サックス奏者、ヌバイア・ガルシアのデビュー・アルバム『ソース』(Conbcord)でしょう。あえてわかりやすいたとえをすれば、UK版カマシ・ワシントンとでも言えましょうか。作曲能力と楽器演奏力を兼ね備え、“サウンドと“ソロ”が両立しているところなど、カマシの優れた特徴を受け継いでいます。

もちろん違いもあって、UKシーンならではの多様な音楽的ルーツを感じさせる斬新さが彼女の持ち味・聴き所なのですね。ロンドン生まれのガルシアの父親はカリブ諸島トリニダード・トバゴ出身、母親もまたカリブ海に面した南米ガイアナ共和国出身です。両国ともイギリス連邦加盟国なので、ロンドンにはこうした人たちが多く移り住んでいるのでしょう。

ですから彼女のルーツには、ジャズ誕生に多くの影響を与えたと言われているカリブ海地域の音楽的要素があるのですね。典型的なのは、冒頭に収録した楽曲《La Cumbia Me Esta Llamando feat. La Perla》で、この曲はガルシアが訪れたカリブ海に面したコロンビア共和国の伝統音楽を演奏する女性トリオ、「La Perla」がフィーチャーされた魅力的な楽曲です。

2番目に収録したのはイスラエル出身のトランぺッター、アヴィシャイ・コーエンのECM作品『Big Vicious』です。同姓同名で同じくイスラエル出身のベーシストがいるので紛らわしいのですが、両者共に優れた才能を示しているのは、近年イスラエル・ジャズシーンが極めて活性化していることを示しているのでしょう。

トランぺッター、アヴィシャイは情熱的なデビュー・アルバム『ザ・トランペット・プレイヤー』(Fresh Sound New Talent)以来注目しているのですが、近年は良い意味で音楽的洗練が進んでいるようです。とりわけ本作はECM的とも言える抑制された美意識に貫かれた傑作です。とは言え、アヴィシャイの優れた特質であるトランペット・サウンドに込められた深みのある情感は健在で、じっくり聴くほどに味わいが深まるミュージシャンと言えるでしょう。

傑作『カイピ』で話題を集めたギタリスト、カート・ローゼンウィンケルの新作は、何とスタンダードを集めた『Angels Arouund(Hartcore)です。とは言え、カートならではの個性的解釈で演奏された冒頭のナンバー《Ugly Beauty》を聴けば、このアルバムが通り一遍のスタンダード集ではないことがわかります。一音でカートわかる独特のギターサウンドで繰り出されるポール・チェンバース作の《Ease It》も極めて斬新。

近年のUKシーンの面白さを伝えているのがロンドン発の5人組Ezra Collectiveのデビュー・アルバム『You Can’t Steal My Joy(Impartmennto)でしょう。彼らはヌバイア・ガルシアとも共演し、彼女と同じようにさまざまな音楽的要素が絡み合って生まれたUKジャズの面白さを伝える有望なグループです。

そしてこちらも新世代イギリス・ジャズシーンの活発さを示すトリオ、ママル・ハンズの3年ぶりの新作『Captured Spirits(Gondwana)は、期待通りの出来。彼らの長所は、音楽的志向性が極めて明確なところです。「何をやりたいのか」がはっきりしているので、ごく自然に彼らの演奏に入って行けるのです。ヌバイアやエズラとはまったく傾向は異なるのですが、こうした「多様性」こそがUKジャズの魅力なのでしょう。

最後は説明の要もない巨匠、ビル・フリゼールのトリオによる新作『Valentine』(Blue Note)です。取り立てて目新しい趣向は無いのですが、何気ないフレーズもビルが弾くと深い味わいが生まれているのですね。まさに彼は音楽の化身と言っていいでしょう。聴き飽きることなの無い傑作です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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