最初にご紹介するのは、このところ注目を集めるサックス奏者、マーカス・ストリックランドの双子の兄弟、ドラマーで作曲家でもあるE.J.ストリックランドの新譜『Warriors For Peace(Jammincolors Record)です。楽器編成はサックスが2本入ったクインテット。

一聴して感じたのは、伝統的スタイルと現代ジャズが巧い具合に融合しているなというところ。この場合、「伝統的」とは言っても当然1950年代のハードバップ的ということでは無く、60年代新主流派を刷新した、80年代から90年代にかけてのスタイルの延長上ということです。

ストリックランドが書いたメロディアスな曲想を活かした、親しみやすいサックス陣の演奏を軽快なドラミング支える心地よい演奏は、きっとどなたでも気に入ることでしょう。伝統的ジャズファンが現代ジャズに親しむには、こういうアルバムがいいのでは

グレッグ・ウォードはシカゴのジャズシーンから登場したサックス奏者で、今回ご紹介するアルバム『Stomping Off From Greenwood(Greenleaf Record)は、彼のニューバンド、「ローグ・パレード」による作品です。ツイン・ギターを従えた軽やかなサウンドは、かつて一世を風靡したフュージョンを思わせもしますが、やはり肌触りが違う。これはプロデューサーにジョン・ゾーン・グループのトランぺッターを務めたデイヴ・ダグラスを迎えた効果なのでしょうか、明らかに現代ジャズらしい斬新な空気が感じられるアルバムです。ウォードのソロも快調。

ノルウェイの新世代ピアニスト、エスペン・エリクセン率いるトリオが、イギリスのサックス奏者、アンディ・シェパードと共演した『Perfectly Unhappy(Rune Grammofon)は、シェパードが書いたメロディアスな楽曲をとりあげた素敵なアルバムです。聴き所は、穏やかで味わいのあるシェパードのサックスに、エリクセンのピアノが寄り添うようにしてメロディを紡ぎあげているところ。それにしても、北欧のピアニストが醸し出す雰囲気には独特のものがありますね。

ロンドン出身でニューヨークで活動するベーシスト、フィーマ・エフロンの『Song From The Tree(Modern Icon Record) は、ベテラン、サックス奏者クリス・ポッターや、ギタリスト、アダム・ロジャースらが参加したユニークなアルバムです。エフロンはベースの他、2曲目ではアフリカの民族楽器カリンバを披露してエスニックなテイストを醸し出しています。小気味良いドラミングは名手、ネイト・スミス。

トライクロは日米で活動するピアニスト・作曲家、八巻絵里子が率いるピアノ・トリオで、『Gravity(引力)』(Sonorite Record)は彼らのデビュー・アルバムです。聴き所はゲスト参加したアメリカ在住のフルート奏者、本宿宏明、城戸夕果が醸し出す爽やかなサウンドと八巻のピアノが絡み合う面白さで、それを支えるベーシスト、デヴィッド・メルキュアの存在はこのチームの要です。クラシック的な要素とジャズが自然に融合したサウンドは、八巻のコンポーザーとしての優れた資質によるものと言えそうです。

最後はベテラン・ピアニスト、ジョージ・ケイブルスの新作『I’m All Smiles(High Note)。こちらは、2019年にリリースされました。ちなみに今回通常のセレクト番組でもケイブルス81年のアルバム『Whisper Not(Atlas)を収録しましたが、そちらと比べ、38年後のこの演奏でもまったく衰えを見せていないのは大したものです。彼のスタイルは、こけおどしの無いオーソドックスなものですが、年輪の醸し出す落ち着いた味わいは聴き手の心にしっとりと染みわたります。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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