新譜紹介の目標は、現在の活性化しつつも多様なジャズシーンの「傾向」や「伝統的ジャズ」との繋がりを聴き取れれば、というところにあります。それと同時に、今一つ「現代ジャズ」に馴染めないとおっしゃるベテラン・ジャズファンの方々に、「今どきのジャズ」の面白さをお伝えできればという願いも込め、毎回さまざまな新譜をご紹介してきました。そういう意味で、今回はその良いサンプルとなるようなアルバムに恵まれたと言えるでしょう。

最初にご紹介するイマニュエル・ウィルキンスのデビュー作『オメガ』(Blue Note)などは、まさにベテランファン向けのアルバムではないでしょうか。彼は今回もご紹介する話題のヴァイブ奏者、ジョエル・ロスのブルーノート・デビュー作『Kingmaler』(以前このコーナーに登場)にサイドマンとして参加していた期待のアルト奏者。

まだ22歳の彼はジュリアード音楽院出身で、注目のトランぺッター、コンポーザー、アンブローズ・アキムシーレや一世代上のピアニスト、ジェイソン・モランらの薫陶を受け、今回のデビューに繋がりました。

聴き所は何と言っても彼の気合の入ったアルトソロでしょう。伝統的ジャズマニアはソロ中心に聴く傾向が強く、そうした方々にも違和感なく彼の魅力が伝わるはずです。おそらくは、現在も続くブラック・ピープルに対する不当な扱いに対する彼の想いが、演奏に力と一貫性を与えているのでしょう。そういう意味では、音楽の傾向こそ異なれど、ジョン・コルトレーンなどの情熱的演奏の伝統に連なっていると考えることも出来るのではないでしょうか。お奨めです。

ある意味でウィルキンスの行き方とは対照的なのが、こちらも注目のサックス奏者、ベン・ウェンデルの新作『High Heart(Core Port)です。彼はロックやR&B、ヒップホップなどさまざまな音楽ジャンルで活動する音楽的集合体「ニーボディ」に参加していたことでもわかるように、エレクトロニクス・サウンドも積極的に導入しているミュージシャンです。

聴き所はマイケル・マヨのヴォイスを取り入れた広がりのあるサウンドでしょう。この、「人の声」を積極的に取り入れるというのはまさに現代ジャズの大きな特徴で、それぞれ音楽的傾向こそ異なれど、カマシ・ワシントンやカート・ローゼンウィンケルが大きな成果を上げていますね。

そして何より広がりのあるサウンドから飛び出すウェンデルのサックス・ソロが力強い。加えてシェイ・マエストロ、ジェラルド・クレイトンのピアノの冴えも、伝統的ファンをうなずかせるに充分です。

一転してベテランギタリスト、ピーター・バーンスタインの新作『What Comes Next(Smoke)は心にしっとりと沁み入る落ち着いた演奏ですが、彼がこれを吹き込んだのはコロナ禍の真っ最中。よく聴けばタイトルが示す現代の混沌とした気分が伝わってくるようです。

そして前述のジョエル・ロスの第2弾『Who Are You?(Blue Note)は、ヴァイブジャズの常識を覆すと同時に、現代ジャズの特徴を表した傑作です。緻密に組み上げられたサウンドとソロの有機的結合が聴き所です。

もしかするとユニークなサウンドのコルネット奏者、ロン・マイルスの新作『レインボウ・サイン』(Blue Note)は、はじめはスピーカーに対峙するような聴き方でなく、ハーブティーでも飲みつつゆったりとB.G.M.的に聴いてみるのが良いかもしれません。そのうち、何とも不思議な浮遊感のあるロンのコルネット・サウンドや、懐かしくも奇妙な曲想に次第に心が惹かれて行くのではないでしょう。こうした、過去を想起させるような音楽的趣向もまた、現代的なのです。

最後にご紹介するアフリカ、ベニン出身のギタリスト、リオーネル・エルケの新作『H H(EDN)は、彼をシーンに紹介したハービー・ハンコックのカヴァー集。よく知られたハンコックの楽曲が思いもしなかった姿に変容するさまは圧巻です。まさに現代の「ニュー・スタンダード」ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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