ジョー・チェンバース。ベテラン・ジャズファンにとっては懐かしい名前です。ウェイン・ショーター、ジョー・ヘンダーソン、そしてボビー・ハーチャーソンといった「60年代新主流派」の傑作アルバムに、サイドマンとして名を連ねた名ドラマーの久しぶりの新作『Samba de Maracatu』(Blue Note)は、なかなか小気味良い仕上がりになっていました。

サイドにピアノのブラッド・メリット、ベースのスティーヴ・ヘインズを従え、本人はドラムス、パーカッションに加えヴァイブラフォンを演奏しています。ヴァイブ特有の涼し気なサウンドのバックは、アルバム・タイトルともなっているブラジル東北地域のリズム「マラカトゥ」。この組み合わせが「21世紀版新主流派」とも言いたくなる斬新な気分を醸し出しているのですね。

ザ・フー、ジェフ・ベック、ディアンジェロといった大物ミュージシャンたちのライヴに参加したベーシスト、ピノ・パラディーノと、ギタリスト、コンポーザーでもあるブレイク・ミルズによるアルバム『Notes With Attachments』(Impulse)は、不思議な肌触りを持ったアルバムです。

一聴したところあまりジャズっぽくないのですが、じっくりと聴き込むとかなり手の込んだ作りのサウンドから立ち上がってくるテイストには、ジャズとしか言いようのない強い音楽的自己主張があるのですね。もしかすると、こうしたところから21世紀のジャズ・シーンが拓けて来るのかも知れません。

既にギター・ファンの間では定評が確立したジュリアン・ラージのブルーノートからの新譜『Squint』は、ホルヘ・ローダーのベースにデイヴ・キングのドラムスによるシンプルなトリオ演奏です。オーソドックスなスタイルでありながら現代性を感じさせるラージのギター・プレイは幅広い層から支持されていますが、今回の新作からも彼の「ギターを弾く喜び」がダイレクトに伝わって来ます。

一時期はトリッキーとも思われる作風で注目を集めたピアニスト、ヴィジェー・アイヤーがECMレーベルから出したニュー・アルバム『Uneasy』は、従来のスタイルとは一線を画したトリオ作品となっています。メンバーはリンダ・メイ・ハン・オーのベースにタイソン・ショーリーのドラムス。

けれん味のない落ち着いたスタイルながら、演奏が進むにつれて激しさ、深みが増し、聴くほどに惹き込まれていくなかなかの名演です。リンダの軽やかなベースとタイソンの切れの良いドラミングが、ヴィジェイのイマジネーションを掻き立てているのが良く聴き取れます。

従来、配信のみでリリースされていたベッカ・スティーヴンスと彼女の旧友であるピアニスト、イーラン・メーラーのデュオ演奏が、日本でのみCDアルバム『パレット・オン・ユア・フロアー』(Core Port)として発売されました。

独自の声質がベッカの特徴ですが、このアルバムではピアノのみのシンプルなフォーマットが彼女の個性を際立たせています。落ち着いた静かな歌唱ながらそこに込められたパッションは思いのほか強いのですね。そうした意味ではこのアルバムはベッカのジャズ・ヴォーカリストとしての新境地を拓いた傑作と言っていいでしょう。

話題のビル・エヴァンス発掘音源『オン・ア・フライディ・イヴニング』(Craft)は、1975年6月20日バンクーバーの「オイル・キャン・ハリーズ」におけるライヴ音源で、いままで発売されたことの無い未発表音源です。内容は多くのファンがエヴァンス晩年の名盤と折り紙を付けた『アイ・ウィル・セイ・グッドバイ』『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』と同じメンバー、エディ・ゴメスのベースにエリオット・ジグムンドのドラムスを従えたトリオで、当時カナダの人気ジャズ番組「CHQM」の放送用に収録されたもの。

この時の録音テープは所有者の移動などもあって長らく忘れ去られていたのですが、このたび現代技術による修復、リマスタリングによって当時の生々しさが復元されたのです。演奏は期待通りのもので、晩年のエヴァンスならではの円熟と同時に、ある種の切迫感を伴ったライヴならでは緊張感が聴き所となっています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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