新譜紹介の醍醐味は、まったく経歴を知らないミュージシャンが斬新な世界を垣間見せてくれるところにあるように思います。アレクシス・バジョ・ネルセシアンというピアニストについての知識はほとんどないのですが、試聴してみて惹かれるものがあったので『Lown(Le Coolabel)というアルバムを購入してみました。

彼は中南米出身なのでラテン風味を感じさせるトラックもあるのですが、トランペット、フルートなどを受け持つサイドマンたちは現代ミュージシャンらしくさまざまな音楽ジャンルの要素を持っており、出てくるサウンドは単なるエスノ・テイストに留まらない広がりを感じさせるものでした。色彩感を感じさせる明るいサウンドが心地良い。

今回ちょっと驚いたのがジョン・ゾーンの新しいカルテット、その名も『ニュー・マサダ・カルテット』(Tzadik)でした。何と新進ギタリスト、ジュリアン・レイジがサイドに参加しているのですね。アヴァンギャルドな演奏で知られたゾーンの音楽に、どちらかというと伝統的スタイルで注目されたレイジがどんな役割を果たすのか。

これは聴いてみるしかないと購入してみれば、ゾーンの音楽に見事レイジがフィットしているのです。特にいつもとスタイルを変えているようには聴こえないのですが、ジューイッシュ・テイストが特徴であるゾーンのマサダ・シリーズに新しい血を加えているのですね。それにしてもゾーンのアルト・サウンドは相変わらず気合十分。

ベーシスト、バジル・ラホラの新作『Moments(Fresh Sound)はフランスのドラマー、ピエール・ハーティ、ベルギーのサックス奏者ジュリアン・キュベリエ、そしてラホラの長年の相棒であるチュニジア出身のピアニスト、トワジディ・リアヒによるサックス・カルテット。聴き所はキュベリエの艶やかなアルト・サウンドとトワジディのエキゾチック・テイストが魅力的なピアノですね。

冒頭から勢いのあるタッチで聴き手を引き込むマシュー・ウィテカーのアルバム『Connection(Resilience)には、ドラマー、ジョナサン・ブレイクなどがゲスト参加。ウィテカーはアメリカ、ニュージャージー出身でまだ20歳ながらこれが3作目。今回はピアノの他ハモンド・オルガンも見事に弾きこなし実力のほどを見せています。

オルガン・ジャズと言えばジミー・スミスはじめウィテカーも使っているハモンドB3がお馴染みですが、何と教会で使われるパイプ・オルガンでジャズに挑戦したのが岩崎良子の意欲作『メディテーション・フォー・オルガン・&テナー・サキソフォン』(Somethin’ Cool)です。共演のサックス奏者は渡米経験豊富な竹内直。

事前の情報で採り上げる楽曲はバッハとコルトレーンと知って、パイプ・オルガンでコルトレーン・ミュージックがどう料理されるのかまったく想像がつきませんでした。しかし、聴いて納得、不思議なほど荘厳なパイプ・オルガンの音色に竹内のサックス・サウンドがフィットしているのです。

何と言ってもサックスの音がいいのですね。艶と力がある。それゆえ迫力満点のパイプ・オルガンに対抗できるのでしょう。実際に聴いてみないとわからないのが、ジャズのおもしろさですね。

パイプ・オルガン、バッハに顕著なように、最近はクラシックの要素をジャズに積極的に取り入れることが顕著ですが、ピアニスト、フレッド・ハーシュの新作『ブレス・バイ・ブレス』(Free Flying)もまたそうした試みの成功例と言えるでしょう。彼の音楽の長所である「静謐の美」が、弦楽四重奏との共演によって巧い具合に浮き彫りとなっているのです。

最後はフランス滞在20年目の節目を迎えたサックス奏者仲野麻紀の傑作『Openradio(Naja)です。多重録音を駆使したソロ・アルバムで、自身のネット・ラジオにちなんだタイトルのもと、彼女がインスパイアされた数々の文学作品をテーマにラジオの番組のように構成されたこのアルバムは、聴き手の心を自然と音楽の愉悦に誘い込むマジックがあるのですね。このところの愛聴盤です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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