マイルス・デイヴィスは大物だけに、実にたくさんの未発表音源が発掘されてきました。マイルス生誕85周年の2011年からリリースを重ねてきたブートレグ・シリーズ第7弾『That’s What Haooend 1982-1985 (Sonny Music)は、1983年に録音されたアルバム『スター・ピープル』からの未発表テイクで、メンバーはマイク・スターン(g)、マーカス・ミラー(eb)、アル・フォスター(ds)、ミノ・シネル(per)です。ブートレグとは言っても正規のレコーディングだけに、音質にまったく問題はありません。

発掘音源は希少価値ということもありますが、マイルスはセッションのたびにさまざまなアプローチを試みるタイプのミュージシャンだけに、彼の音楽遍歴をたどる上で重要なヒントを与えてくれます。実際私も音質の悪さをガマンしてマイルスの非正規音源を聴くことで、彼がスタジオ・セッションとライヴで音楽の性格を微妙に使い分けていることを知ったのでした。

ビート・サイエンティストの異名を持つドラマー兼プロデューサー、マカヤ・マクレイヴンの新作『In These Times (XL Recordings)は彼の代表作となることでしょう。話題を呼んだ前2作『Decipkering the Message』『Universal Being』の体験を踏まえ、自身の作曲をもとにストリングス・アレンジを書き加え、ハープ奏者ブランディ・ヤンガーの参加を含めポスト・プロダクションをほどこした本作は、ユートピア的サウンドと複雑なリズムが心地良く融合した傑作です。

制作に7年かけたというだけあって、音楽の密度、統一感が素晴らしく、従来の若干アヴァンギャルドな作家というイメージを払拭しているのですね。身構えずとも楽しめるという意味では、音楽家として一皮むけたと言えるのかもしれません。

「シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズ」あるいは「サンズ・オブ・ケメット」など複数のユニットで活動するU.K.のサックス奏者、シャバカ・ハッチングスがシンセサイザー奏者ダナログ(ダン・リーヴァーズ)、ドラムのタマックス(マックス・ハレット)と組んだコズミック・トリオ、ザ・コメット・イズ・カミングの新作『Hyper-Dimensional Expansion Beam (Impulse)は、期待通りの勢いを聴かせてくれます。

コズミックの名の通り宇宙的サウンドを響かせるダナログのシンセ・サウンドを弾みの効いたダナログのドラミングが煽り、そこへシャバカの気合の入ったサックスが絡むことで、実に現代的なジャズが生まれているのです。それにしても、組むユニットによってエスニックなテイストからテクノ風サウンドまで自由に行き来できるシャバカのようなミュージシャンは、イギリス特有の諸ジャンル混合的音楽シーンでこそ生まれるもののような気がします。

この番組は話題の新譜の中から「聴いて面白いもの」「楽しめるもの」というシンプルな選択基準でセレクトしています。そんな中、桑原あいのアルバムは『ディアー・ファミリー』『オペラ』とすでに2作紹介しており、今回ご紹介するライヴ・アルバム『桑原あいザ・プロジェクト Making Us Alive (Universal)3作目となります。つまり彼女のアルバムはそれだけ訴求力があるということではないでしょうか。桑原の演奏は繊細さと力強さが巧い具合に融合しており、それが聴き手を惹き付ける原動力となっているのです。

加えて千住宗臣のパワフルなドラミングと鳥越啓介の地を這うようなベース・ラインが、ありきたりのピアノ・トリオのイメージを払拭する原動力となっている。こうした趣向はかつてのバッド・プラスのエネルギッシュな演奏を彷彿させたりもしますね。

新世代ギタリストとして注目を集めているジュリアン・レイジのブルーノート2作目『Vien With A Room 』は、ホルヘ・ローダーのドラムス、デイヴ・キングのドラムスに、トラックによってビル・フリゼールが参加する豪華なカルテット編成。そのせいか、フリゼール風カントリー・テイストが心地良いですね。

最後に収録したのは、フランスが生んだ天才ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの発掘音源『Solo In Denmark (Storyville)です。彼の未発表音源はどれも非常にレベルが高く、このライヴ演奏も間違いなく5星レベルの出来。ペトルチアーニ・ファンに間違いなくお薦めできる傑作です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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