ジャズ・ピアノのレジェンド、セロニアス・モンクを父に持つベテラン、ドラマー、T.S.モンク初のライヴ・アルバムがリリースされました。その名もずばり『T.S.Monk Live(Storyville)は期待以上の傑作です。トランペット、アルト、テナーの3管にギターを加えた分厚いセプテット編成ながら、実にタイトかつドライヴ感に満ちた小気味よい演奏で、ライヴならではの熱気も素晴らしい。

オーソドックスなスタイルのナンバーから現代の息吹を感じさせるワザは、ジャズの伝統にしっかりと連なったT.S.モンクならでは。

続くアルバムもドラマー、リーダー作です。ヨーロッパ・ジャズ・シーで活動する人気ドラマー、ドミニク・ラーブがテナー・サックスのトニー・ラカトスをフィーチャーしたカルテットによるアルバム『ドミニク・ラーブ・カルテット』(GEMA)も、じっくりとラカトスのテナーを聴かせるオーソドックスな演奏。

しっかりとフレーズを重ねることで自分の世界を紡ぎだすラカトスのスタンスが好ましく、サイドのビリー・テストの溌溂としたピアノ・ソロも聴きどころですね。

そしていま注目のトランぺッター、シオ・クローカー・カルテットに、テナーのマグナス・リンドグレインをゲストに加えたアルバム『Sketches of Miles(ATC)は、タイトル通りマイルス・デイヴィス没後30年を記念したライヴ・レコーディングです。

《ピノキオ》《ソー・ホワット》といったマイルス・ナンバーを完全に自家薬籠中のものとたシオの自信に満ちた演奏が聴き所で、こちらもライヴならではの臨場感が聴き手を圧倒する傑作です。

UK発ジャズが相変わらずシーンに新風を吹き込んでいます。2020年にアーバン・ミュージック・アワーズで「ベスト・グループ賞」を獲得し、音楽メディアでも高い評価を受けたニュー・グループ、Kokoroko による待望のデビュー・アルバム『Could Be More(Brownswood)は、現代ジャズのポジティヴな側面を映し出しているように思いました。

それは「融合・混交音楽としてのジャズ」の好ましい現在形を快適なリズムの乗せた、まさにジャジーな演奏であると同時に、本来ジャズが持っていた良い意味でのポピュラリティをも合わせ持っているからです。

これは発売元Brownwoodが、かつて「アシッド・ジャズ」「トーキング・ラウド」で一時代を築いたDJ、ジャイルス・ピーターソン率いるレーベルであることとも関係がありそうです。

初めて聴くグループですが背景を資料で読むと、10人近いメンバーはアフロ・ビート、ナイジェリアなどアフリカの英語圏地域の音楽であるハイライフ、そしてソウル・ミュージックといった多様な音楽を聴いて来た体験が彼らの音楽の下地としてあるようです。そういえば音楽の傾向は異なれど、同じUK出身のシャバカ・ハッチングスや、ヌバイア・ガルシアといった注目のミュージシャンもカリブ、アフリカといった地域の音楽をうまく自らの音楽に取り入れていましたね。とにかく明るく、楽しく、そしてジャジーな好盤としてお勧めです。

対照的なのが極めて先鋭かつ刺激的なわが大友良英スペシャル・ビッグ・バンドによる意欲作『石を投げろ』(Little Stone)でしょう。私はずいぶん昔、六本木の「ロマニッシュ・カフェ」や吉祥寺の「マンダラ2」で大友さんがいわゆるノイズ・ミュージックをやっていたころライヴに通ったものですが、そのときずいぶんいろいろな発見をしました。それは「ノイズこそ極めて高い音楽性が要求されるジャンルだ」ということです。

大友さんの音楽は極めてノイジーなものでもちゃんとミュージカリティを感じるのですね。ですから、彼が同じ大友良英スペシャル・バンドでNHKのTV番組「あまちゃん」の劇伴で好評を得た時も、意外性は感じませんでした。そうした、これも良い意味でのポピュラリティは『石を投げろ』でも発揮されており、かなりフリーキーな場面でも音楽としての好ましさは保たれているのです。

そして最後の『ボン・メズモ・エスター・ヂバイショ・ダグア』(Apre-midi)もまた、Kokorokoとはまったくテイストは異なりますが、そこで述べた「融合・混交音楽としてのジャズの好ましい現在形」を映し出した傑作です。

ルエジはブラジル北東部バイーア地方出身の女性歌手です。ブラジルは先住民と旧宗主国ポルトガル人、そして労働力としてアフリカから連れてこられた人たちが融合して出来た国で、ルエジはアフリカ系。ですから、彼女の歌唱はアフロ・ブラジル・ミュージック、そしてソウルのテイストからジャズまで幅広いバック・グラウンドを感じさせると同時に、たいへん個性的かつ好ましいルエジの個性が浮き彫りとなっているのです。

このアルバムが、まだ配信でしか発表されていなかった2020年のミュージック・マガジン年間ベスト/ブラジル音楽部門で、ベストワンに選出されたことも大いに納得ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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