前回も触れましたが、毎月入手する新譜の内容はアトランダムなので「総評」的なコメントは難しいのですが、それでもなにがしかの傾向はあるものです。今回はベテラン、中堅、新人ともに、注目されていたミュージシャンたちがそれぞれ興味深い新作を発表してくれたなという感想を持ちました。
テレンス・ブランチャードは80年代初頭にアート・ブレイキー・バンドでデビューした新人の頃から知っていますが、1962年生まれといえば来年は還暦を迎える大ベテラン。その彼が今回3年ぶりに引っ提げたニュー・アルバム『Absence』(Blue Note)は、ジャズ・ジャイアンツ、ウェイン・ショーターへのオマージュです。
ショーターの音楽性の中にはSF的とでも呼べる要素がありますが、今回のブランチャードのアルバムはそうした気分を彷彿させる内容で、ストリングスの使用を含め聴き手の想像力を羽ばたかせるスケールの大きな作品に仕上がっています。
ケニー・ギャレットもまた新人発掘の名人アート・ブレイキーのバンド出身で、その後あのマイルス・バンド最後のサックス奏者となったレジェンドであると同時に、現代ジャズ・シーンでも大きな存在感を示している注目ミュージシャンです。
今回のギャレットの新作『Sound From The Ancestors』(Mack Avenue)は、クールなテイストが聴き所だったブランチャード作品とは対照的に、明るく開放的なサウンドが心地よく、本人のサックスが前面にフィーチャーされた直球ジャズといっていいでしょう。とは言え、バック・サウンドの多彩さはタイトルに示された「先祖たちのサウンド」どおり、ジャズがアフリカン・アメリカンの伝統・文化に連なるものであることを実感させてくれます。
次にご紹介するのは文字通り注目の新人女性ハープ奏者、ブランディ・ヤンガーのインパルス、デビュー作『Somewhere Different』です。一般的にハープはジャズの中心楽器では無いと思われていますが、ジャズ史を紐解けばドロシー・アシュビーやアリス・コルトレーンが、ハープならではのサウンド効果でジャズに新風を吹き込んで来たのです。
確かにハープの音色が醸し出すユートピア的サウンドは、ハードなジャズにもドリーミーな気分を与えてしまう絶大な効果がありますね。ブランディの新作はそうした効用を全面的に意識したもので、「どこか違うところ」というタイトル、楽園をイメージさせるジャケットとともに、とにかく聴き手の気持ちを「コロナ禍で荒んだ気分を転換させよう」という明確な意思が感じられるのです。理屈抜きに楽しめ、心が和む傑作と言っていいでしょう。
説明の要もない大物ギタリスト、パット・メセニーの新譜『Side Eye NYC』(Modern Recordings)は、タイトル通り彼のニュー・プロジェクトSide Eye によるもの。そのコンセプトは、若手ミュージシャンを起用し彼の過去の楽曲に21世紀的新解釈を加えたり、新人たちのために新曲を提供するというもので、メセニーがジャズの伝統の継承に意を注いでいることが聴き取れます。
メセニー日本デビュー・アルバムに収録された印象的な名曲「ブライト・サイズ・ライフ」や、メセニーの意外とも言える側面オーネット・コールマンの「ターン・アラウンド」などが披露され、それを暖かく迎える聴衆の反応はまさにジャズ文化の継承を実感させますね。
どこへ向かうのか判然としないながらもジャズの未来を想像させる新人ミュージシャンがジェームス・フランシーズではないでしょうか。ピアニストであると同時にコンポーザー、プロデューサーでもあるフランシーズの音楽は、とにかく「枠」がない。とは言え、今回の新作『Purest Fprm』(Blue Note)では、彼のピアニストとしてのずば抜けた才能が思う存分発揮されています。それがあるため、いかに奔放にふるまおうとも彼の音楽は否応もなく「ジャズ」なのですね。
実は今回個人的に一番心に残ったのが未知のミュージシャン、レミス・ランチースの『パヴェイユ』(インパートメント)でした。調べたところ彼はリトアニアのマルチ・サックス奏者だそうですが、そのほかのバック・グラウンドはまったく不明。エスニックな要素、フォーキーなムードこそあれ、本人のソロからは音楽に対する真摯なパッションが素直に伝わってくるのです。
ブランディ・ヤンガーの音楽が「コロナ禍の癒し」でもあると書きましたが、ランチースのこのアルバムも、音楽の方向性こそブランディとは異なれど、安心して音楽に浸れるという点ではまさに「今聴きたい音楽」の一つと言えそうです。
文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」
東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。
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