3度目のリニューアル、原点を見つめ直し、さらなる進化へ
「MUJI Laboは自然の力/素材の力を引き出して、細部まで徹底的にこだわった丁寧なものづくりから生まれました。原点を見つめ直し、そして進化させる。未来の無印良品のためのDesign Laboratoryです。」
MUJI Labo旗艦店である「無印良品 代官山」の店奥壁面に示されたステートメントだ。
MUJI Laboは、無印良品のレギュラー商品では取り組めない物作りによって、未来の無印良品の店舗に並ぶ新たなベーシックを生み出すための「実験室」としてスタート。自然素材の可能性を最大限に引き出すシンプルながらディテールに凝った実用的なデザインを追求し、そのデザインやトレーサブルな素材選定・開発は実際、無印良品の服作りにも生かされるようになった。
2度のリニューアルを経て、国内外の無印良品のレギュラー店舗での展開が広がる中で、新たな挑戦を始めたのは24年秋冬シーズンのことだった。その理念を言葉として表現したのが、冒頭のステートメントだ。「素材の力を最大限に生かすデザインって何だろうという発想からMUJI Laboは生まれました。原点をもう一回、自分たちで見つめ直し、何が提案できるのかを追求しようとリニューアルに至った」というのは、良品計画の衣服・雑貨部 デザイン室部長の鈴木誠子さん。「無印良品は1999年にオーガニックコットンを使い始めて以来、自社で原料を調達しています。生地を仕入れ、デザイン、縫製をするアパレルが一般的な中で、一歩踏み込んで原料調達からの服作りを積み重ねてきました。その基盤がある強みを最も理解しているのは、社内の人間なんですね。世界に原料や素材を求めて、無印良品全店で販売する膨大な数量には対応できないが、価値ある素材や技術を使った物作りに挑戦し、お客様に提案していく。この原点をさらに進化させていくため、自社デザインチームを基軸とする服作りへと転換しました」。
服作りの体制が変わり、24年10月には代官山にMUJI Labo初の単独展開となるMUJI Labo旗艦店「無印良品 代官山」を出店。MUJI Labo代官山店ではないところに、「未来の無印良品」を目指す意思が感じられる。
服が際立ち、一人ひとりとの縁がつながり、広がっていく空間
代官山を選んだのは、「無印良品は暮らしに寄り添うという考え方が根底にあります。代官山はファッションだけではないカルチャーを発信している街。国内外から様々な人たちが来街する一方、界隈に暮らす人たちもいます。暮らしの中のファッションを提案するMUJI Laboの世界観を表現していく立地として最も相応しかった」と衣服・雑貨部 アパレル紳士・Labo担当部長の立石学さん。無印良品としては、店舗が無かった代官山に初めて出店したのがMUJI Laboだった。
店舗は代官山駅から程ない八幡通り沿いの好立地にあり、衣服の売り場面積は約240㎡。それまでMUJI Laboは無印良品の店舗の中でも旗艦店クラスの規模を持つ国内外の店舗でフルラインナップを展開してきたが、代官山店は最も広い売り場で空間ごとMUJI Laboのステートメントを体現した。
「原料の調達から世界中を訪ねて物作りをしているので、原料が糸になり、生地になり、服になるという背景をどうお客様に伝えるかを考えた」と鈴木さん。導き出したのは、完成品である服を際立たせることだった。試行錯誤を重ね、グレーを基調とした洗練された空間を生み出し、緩やかに曲線やサークルを描くハンガーポールや台什器を配置、天井にはいくつものサークルがつながり、広がっていく様子を表現した。ウッドなど自然なムードが印象的な無印良品の売り場とは異なり、無機質なラボのような空間作りによって天然素材で作られた服の存在感を増し、ハンガーポールも通常より高めに設置することで来店客が目線の高さで自然に服を視認する環境を整えた。「素材や技術、生産者など服の背景にあるストーリーを伝えることについては、スタッフの接客が重要です。勉強会も含め、知識や伝え方などを共有しています。一つひとつの商品の魅力・価値をお伝えすることでお客様とのご縁が生まれ、つながって、広がっていく。空間のサークルはそのプロセスを象徴したもの」と鈴木さんは話す。
26年秋冬は4つの素材にフォーカス、和装の直線的なパターンも導入
コレクションは春夏と秋冬の2シーズンで展開し、端境期を除いて毎月、新商品がドロップされる。リニューアル前は男女共通サイズによるユニセックス提案を重視したが、リニューアル後はメンズとウィメンズそれぞれにサイズ展開し、フィット感と購入時の安心感を高めた。商品はシーズンごとにアパレルが約70品番、雑貨・小物が約30品番を揃え、リニューアル前の約2倍に拡充した。
26年秋冬シーズンは4つの素材にフォーカスし、8月中旬から販売をスタートさせた。「シェイプメモリー」は、形状記憶性を備えたポリエステル糸で織り上げたタフタを使ったシリーズ。折りじわが戻りやすく、軽量で着やすい。しわ加工により天然素材のような風合いを持たせ、撥水加工も施した。メンズではジャケットやステンカラーコート、イージーパンツ、ウィメンズではジャケットなどを展開する。
「キュプラ混」も今季の注目素材。キュプラは綿花の種の周りに付いている産毛「コットンリンター」を原料とした再生セルロース繊維で、吸放湿性に優れている。未利用資源に新たな価値を与えたキュプラに再生繊維のレーヨンを組み合わせることで、ビンテージ感のある表情と柔らかな着心地を生んだ。メンズではオープンカラーシャツ(半袖・長袖)やイージーテーパードパンツなど、ウィメンズでは七分袖シャツやノースリーブワンピース、ラップスカートなどがある。
アンデス高地で育つラクダ科の動物「リャマ」の産毛を原毛として編み上げたニットも推し。産毛が持つ優れた保温性、軽さ、毛玉ができにくい性質を生かし、ウィメンズのボレロやクルーネックセーター、ロングカーディガンに仕上げた。
「再生カシミヤ混」は、生産工程で発生した端材や回収したカシミヤ製品を繊維に戻し、新たな糸として再構成した素材。カシミヤが持つ柔らかな肌触りや保温性を生かしながら、限りある資源を有効活用する取り組みだ。メンズでは二重織りステンカラーコートやテーラードジャケット、イージーパンツ、ウィメンズではノーカラージャケットやテーパードパンツなどを揃える。
今季から取り組んでいるのは、直線的なパターン設計。メンズ・ウィメンズともにきもの縫製の伝統的な技術である直線裁ちを服作りに導入することで、同じサイズで異なる体型でもフィットする服へと収斂させる。「例えば肩線を無くすことでいろんな肩幅に沿うなど、パターンの面白さを提案していきたい」と鈴木さん。「和装の考え方を取り入れ、様々なアイテムに派生させることで、生地の無駄やごみを減らしていく。取り効率の向上という意味でも、新たな実験」と立石さんは話す。
25年春夏シーズンにローンチし、すでに定番的な人気を集めているのは「昔ながらの製法で編み立てた」シリーズ。中国・浙江省の工場で世界的にも希少な「ループウィール編み機」を発見したことから、商品開発が始まった。吊り編み機が上から下へと編んでいくのに対して、ループウィール編み機は下から上へと編んでいく。その特性から「巻上げ編み機」とも呼ばれる。上から下へと編んでいくと編んだ生地の重さで生地が引っ張られるが、下から上へと巻き上げながらゆっくりと編むことで、生地にかかるストレスが減り、空気を含んだように柔らかく、身体に優しく馴染み、ニットのような表情の生地が生まれる。ただ、「ゆっくり」と編むため大量生産は難しい。そこでMUJI Laboで商品開発を始め、Tシャツやスウェット、プルオーバー、フーディーなどアイテムを広げてきた。今夏からは無印良品のレギュラー店舗でも販売を開始した。
他にも、半世紀ほど前の紡績機を整備・改造して木綿のムラ糸を紡ぎ、織り上げたチェック柄シャツやモックネックTシャツなど、こだわり製法による素材のアイテムが展開される。そうした商品の背景にあるストーリーを「接客を通じて知るだけでなく、持ち帰ってもいただきたい」と、今季は初めて紙のカタログも制作し、店頭で配布している。ECサイトやSNSを通じた発信に取り組む一方、単に効率を求めるのではなく、紙媒体による質感を伴う価値の伝達を組み込むあたりは無印良品らしいアプローチだ。
服を軸にMDを拡充し、無印良品のファン拡大につなげる
雑貨は無印良品本体が多様に展開しているだけに難しい領域かと想像されるが、徐々にアイテムを増やしている。
好評なのはバッグ。昨年発売した「再生ナイロン ミニボストンバッグ」は、ハリ感と光沢がほどよく落ち着いた印象の再生ナイロンを表地に使い、縦15×横29×マチ14cmのコンパクトサイズで持ち運びやすい。側面部のマチ形状を三角形状にすることで内ポケットにアクセスしやすく、肩掛けと、ショルダー紐を取り外してハンドバッグとしても使える。
岡山で130年超の歴史を持つ工場によるバッグブランド「倉敷帆布」と製作したトートバッグも注目。希少なシャトル織機で織り上げたセルヴィッチ(耳)付きの生地を使い、残布をほとんど出すことなく、シームレスなトートバッグに仕上げた。縦型と横型の2タイプ。
キャリーケースもオリジナルで作り込んだ。MUJI Laboでは初めてアルミニウムを使用したプロダクトで、17年に無印良品が発表した商品の復刻モデルだ。「当時の金型が廃棄されていたので、金型から作り直した」と立石さん。2万~3万円台が中心の無印良品のキャリーケースの中で、アルミ製は8万~9万円台と高額なため発売当時は売れなかった。「服とともにMUJI Laboの世界観を体現した空間なら魅力が伝わる」と復刻したところ、「海外からのお客様がコンスタントに購入する」という。容量は34リットルと60リットルで、それぞれ黒とシルバーがある。
「再生ナイロン ミニボストンバッグ」
「倉敷帆布セルヴィッチキャンバストート」
「アルミハードキャリーケース」
スペイン発のシューズブランド「CAMPER(カンペール)」と共同開発したスニーカーは、25年春夏シーズンに発売し、高い評価を得ている。足の形に沿ったスニーカーの木型をカンペールが製作し、アウトソールにはゴムの弾力性や耐久性を向上させるバルカナイズ製法を採用し、中空構造により着地の衝撃を和らげる。つま先にはトゥカウンター、踵(かかと)の内側にはヒールカウンターを備え、足先を保護し、歩行中の足の安定性を確保した。シューレースにはゴム素材を使い、着脱しやすい仕様だ。アッパーにLWG(Leather Working Group)認証のレザーを採用した「レザー ローカットスニーカー」(黒・白の2色)に始まり、今年は「キャンバス ローカットスニーカー」(グレー・アイボリーの2色)も発表し、好調に推移している。
MD面では今後、服はもとより、雑貨の強化を進めるとともに、未開拓の領域への拡充も模索する。「社内には現在、大きくは衣服、生活雑貨、食品のチームがあります。それぞれの知見を生かして協業することで、例えば家具など品揃えをより充実させていきたいと考えています」と立石さん。鈴木さんは「商品の背景にあるストーリーをスタッフが共有し、スタッフを通じてお客様が共有し、お客様やインフルエンサーを通じてMUJI Laboに興味を持った人たちが集まってくる。コミュニティーのようなものができつつあるのを感じます。様々な声を私たちが受け取って、新たなプロダクトの提案へとつなげていく」と話す。
MUJI Laboは現在、代官山の旗艦店をはじめ、国内では銀座や新宿、吉祥寺など無印良品の18店舗、海外ではアメリカやヨーロッパ、アジアの14カ国の店舗で展開されている。「海外ではまだ無印良品の認知が日本ほどではないので、各国の旗艦店内でMUJI Laboの世界観を表現して提案し、国内では大型店舗で展開し、単独店舗の出店も立地によりますが視野に入れています」と立石さん。ただ、「洋服を買おうと思ったときに無印良品が連想されるかというと、課題を残しています。MUJI Laboもインフルエンサーを通じて認知が広がり、新作が発売されるとすぐに売れる傾向はあるものの、まだ存在を知らない人も多くいます」という。「MUJI Laboの服は一点一点にストーリーがあります。もっと情報を発信することで代官山店はもちろん、無印良品の店舗にも足を運んでいただける環境を醸成していきたい」と、MUJI Laboを起点に無印良品のファンも増やすことを目指している。
写真/遠藤純、良品計画提供
取材・文/久保雅裕
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久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
