前回お話しした、カマシ・ワシントン、ロバート・グラスパー、テラス・マーティンによる「ディナー・パーティ」最高でした。とにかく、現在のアメリカのジャズ・シーンのレベルがとんでもないことになっているのがライヴの場で実感されたのです。それと同時に、私のような「団塊世代ジャズ・ファン」が内心抱いていた、「昔は良かったね」といった回顧趣味が完全に時代遅れであることを悟らせられました。

 確かにかつてのマイルス・デイヴィスやギル・エヴァンス、そしてオーネット・コールマンといった「レジェンド」たちが登場した「ライヴ・アンダー・ザ・スカイ」や、ブルーノート創始者、アルフレッド・ライオンなども来日した「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」を知っているベテラン・ジャズ・ファンが昔を懐かしむのはよくわかるのです。

 しかし今回、秩父ミューズパークで開催された「ラヴ・シュープリーム・ジャズ・フェスティヴァル・ジャズパン」は過去のジャズ・フェスに匹敵するだけではなく、「現代ジャズ・シーン」を総攬するという意味で実に重要な意義があったように思うのです。

 いずれこの話はどこかで詳しくお話ししたいと思いますが、本題に入りましょう。冒頭に収録した、トランペット、マイク・ロドリゲス、サックス、クリス・ポッター、デビッド・サンチェスといったトップ・プレイヤーたちによるSF Jazz Collectiveによるアルバム    『New Works & Classics Reimagined』(SFJAZZ)は、2022年のライヴ・レコーディングです。ストレート・アヘッドな演奏の中にも「今の空気感」が聴衆の反応を含め、リアルに伝わってくる気持ちの良い作品ですね。明るいロドリゲスのトランペットとサックス陣の力強いソロの対比が素晴らしい。

 ドイツのサックス奏者、ヨハネス・エンダースによるソニー・ロリンズ、トリビュート・アルバム『Sweet Freedom』 (Enja)は、《ストロード・ロード》や《イースト・ブロードウェイ・ラン・ダウン》といったロリンズお馴染みのナンバーを採りあげつつも、エンダースの個性が浮かび上がるなかなかの好演です。サックスの音色に特徴があって、力強さとコクが巧い具合にブレンドされているのですね。アメリカのサックス奏者にはあまり見られないタイプと言えそうです。

 ジョン・スコフィールド初のECMリーダー作『Swallow Tles』(ECM)は、古くからコンビを組んでいるベーシスト、スティーヴ・スワローと、ドラマー、ビル・スチュワートによるシンプルなトリオ編成。タイトルはジョンスコの親友でもあるスワローから取ったとのことです。地味ながら聴くほどに味わいが出てくるタイプのアルバムで、ベテランらしい枯れた風情に潜むけっこう先鋭なフレーズが聴き所ですね。

 デヴィッド・ボウイの遺作『ブラックスター』で新境地を拓いたサックス奏者、ダニー・マッキャスリンの新作『I Want More』 (AGATE)は期待以上の出来でした。名盤『Beyond Now』の勢いを確実に受け継ぎつつ、さらにパワー・アップしているのですね。メンバーはキーボード、ジェイソン・リンドナー、ドラムス、マーク・ジュリアナ、ベース、ティム・ルフェーブルら「ブラック・スター・バンド」の面々が再結集。現代ジャズらしくロック、エレクトロニカの要素を含みつつマキャスリンの強烈な個性が前面に出た快演ですね。

 ジャズ・ロック・バンド「Pink Freud」のメンバーでもあるポーランドのベーシスト、ヴォイテク・マゾレフスキのレギュラー・クインテットによる『Spirit To All』 (Whirlwind)は不思議な雰囲気を湛えたアルバムです。一聴、かつてドン・チェリーなどが手掛けた「ユートピア志向」を思わせるのですが、ジャケット写真を見て、なるほどと思いました。名称はわかりませんが、東洋的というか神秘的なサウンドを発する金属製の鉢のようなものが並んでいるのですね。とにかく興味を惹かれるアルバムです。

 最後に収録したのはアメリカで活躍するブラジルを代表するギタリスト、ホメロ・ルバンボとシコ・ピニェイロによる気持ちの良いデュオ・アルバム『  Two Brothers 』(Sunnyside)です。冒頭に映画「華麗なる賭け」で知られたミシェル・ルグランによる名曲《ウィンド・ミルズ・オブ・ユア―・マインド》を収録しましたが、他のトラックもギター・ファンなら喜んでいただける心地よい演奏が並んでいます。それにしても二人の息の合い様は見事。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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