前回冒頭でライヴ・シーンの活性化についてご報告いたしましたが、今回もその続報をお伝えしたいと思います。36日「ブルーノート東京」ネイト・スミス+キンフォークス、37日「ビルボード東京」エズラ・コレクティヴと、二日連続で話題のミュージシャン来日公演を観たのですが、いろいろと思うところがありました。

 まずネイト・スミス+キンフォークスは、ヴォーカリスト、アマ・フォークのチャーミングなパフォーマンスも含め、現代ジャズ・ドラマーのレベルの高さに大いに満足させられましたが、商売柄、私が興味を感じたのは観客層の世代交代でした。みなさんお若いだけでなく、ジャズ・ライヴの楽しみ方を知り尽くしているのですね。これはかつての(ちょっと生真面目な)ジャズ喫茶族には見られない喜ばしい進化と言っていいでしょう。ジャズが若い方々の生活空間に密着しているのです。

 そしてそれ以上に驚かされたのが、今回も後ほどご紹介するエズラ・コレクティヴでした。文献等で彼らのバック・グラウンドはある程度知っていましたが、今回のライヴで、そうした文字情報が実感として伝わって来たのです。それは、彼らがU.K.シーンに顕著な「融合音楽としてのジャズ」の魅力を体現している事実です。

 大衆芸能音楽として誕生したジャズのエンターテインメント的側面と、ジャズならではの圧倒的な個性表現の魅力の双方を、彼らは「ビルボード東京」の観客を総立ちで躍らせてしまうことで実践してみせたのですね。これには圧倒されました。

 前置きはこれくらいにして、今回最初にご紹介するのは、ロシアからアメリカに渡りクリス・クロス・レーベルから手堅いアルバムを出し続けているトランぺッター、アレックス・シピアギンの『Mel’s Vision』 (Criss Cross)です。聴き所は何と言ってもゲスト参加しているサックス奏者、クリス・ポッターとの刺激に満ちた掛け合いです。

 あたかも〝ビ・バップのスリルを現代ジャズならではの斬新さで再現させてみせたかのごとき両者の応酬は、ジャズが伝統を受け継ぎつつ革新され続けていることを実感させてくれました。

 続いてご紹介するのは、フランス系アメリカ人アルト・サックス奏者 Plum によるワン・ホーン・カルテット『Holding On (Jazz & People)です。彼の魅力は、滑らかで艶のあるアルト・サウンドから繰り出される流麗なフレーズの数々ですね。コルトレーンの名演《ネイマ》に新たな命が吹き込まれています。

 そして前出のエズラ・コレクティヴの新作『Where I’m Meant To Be (Partisan Record)です。最初に収録した《Well Come To My World》 はビルボード東京でも演奏されましたが、観客の皆さんご存知のようで大盛り上がり。私の前にいたお若い女性は、ここはクラブかと思われる勢いで飛び跳ね踊り狂っていましたね。

 興味深いのは、彼らのリーダー的存在であるドラムスとベースを担当するコレオソ兄弟のルーツが現れたラテン・ミュージック的気分と、アフリカ系U.K.ミュージシャンならではのブラックネスが実に巧い具合に融合しているところでしょう。次の曲《Ego Killah》 はもろレゲエ。快適なリズムに乗ってちょっとダークでメロウな旋律が流れ、彼らの音楽性の幅の広さが伺えます。

 少し前、カート・ローゼンウィンケルがミナス地方の音楽を取り入れた名盤『カイピ』で注目されましたが、そのミナスの新世代ミュージシャンを牽引するベーシスト、フレデリク・エリオドロのニューアルバム『The Weight of the News (Interior)が心地良い。彼はソング・ライターとしての才能もあり、迫力のある低域が強調されたシンセ・サウンドと、繊細なミナス・テイストが巧みに同居した楽曲で軽やかなヴォーカルを披露しているのですが、これが新鮮。

 『Where You Wish You Were (ACT)はスナーキー・パピーのリーダー、マイケル・リーグとキーボード奏者ビル・ローレンスによる初のデュオ・アルバムです。この作品でマイケル・リーグはアフリカ、地中海地方のフラットレス弦楽器ウードなどを使用し、スナーキーの音楽とはまったく違った側面を見せています。それに対応するように、ローレンスもまたアコースティック・ピアノを演奏し、この二人の組み合わせから事前に想像されるサウンドとは異質の魅力を見せているのですね。才能のあるミュージシャンの引き出しの奥深さが実感される名演です。

 そして最後に収録したブラッド・メルドーのソロ・ピアノによる『Your Mother Should Know (Nonesuch)がまた凄いのですね。すでにさんざんカヴァーし尽くされ感のあるビートルズ・ナンバーに新たな命が吹き込まれたのです。ポールとジョンによって生み出された名曲を、メルドーが解釈することによってまさにジャズに、そしてメルドー・ミュージックとなっているのです。改めてメルドーの才能の凄みと、ジャズならではの強みを実感させられた名演です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る