このところコロナの影響も一段落したためか、海外ミュージシャンの来日公演が再び活発になっています。先日、前々回ご紹介した、シャバカ・ハッチングスがシンセサイザー奏者ダナログ(ダン・リーヴァーズ)、ドラムのタマックス(マックス・ハレット)と組んだコズミック・トリオ、「ザ・コメット・イズ・カミング」のステージを観たのですが、ライヴではCDには収まり切れない「ダンス音楽としてのジャズ」の復活を実感しました。それにしても、シャバカのサックスはいい音を出していましたね。

それはさておき、現代ジャズシーンの活性化には目を見張るものがあり、次々と新しい才能が登場しています。今回最初にご紹介する香港のギタリスト、アラン・クアン率いるグループ「Invisible Archtecture」による新譜『Between Now And Never (Maidin Cultural Enterprise)は、「アジアン・テイスト」などという言い回しが過去のものとなったことを実感させてくれました。

メンバーはアランのギターの他にキーボードJordan Gheen、ドラムスMatt Youngを中心としており、今回のアルバムはコロナ禍のためリモート制作されたそうです。先ほど「アジアン・テイスト」などと言いましたが、彼らの「宇宙的」とも思える斬新なサウンドは、良い意味で「国籍不明」なのです。これもジャズの国際化の現れなのでしょう。とにかく聴いていて気持ち良いのです。

バッド・プラスと言えば私などはピアノのイーサン・アイヴァーソンがいた頃の斬新なピアノ・トリオとしてのイメージが強烈でしたが、今回の新作『The Bad Plus (Edition)  は、ピアニストの代わりにテナー奏者クリス・スピード、ギターのベン・モンダーが加わったカルテット編成。

当然出てくるサウンドはピアノ・トリオ時代とは違うのですが、面白いことにオリジナル・メンバー、デヴィッド・キングが叩き出すダイナミックかつアグレッシヴなドラミングのせいか、グループとしてのバッド・プラスの一貫性は十分に感じられるのです。クリス・スピードのテナーにしろベン・モンダーのギターにしろ、完全に「バッド・プラス的」なのが面白い。

アレシャンドリ・ヴィアナ、まったく知らないピアニストでしたが、新宿タワー・レコードの試聴機に入っていたので聴いてみると、なかなか良いのです。アルバム『ムジカ・パラ・ダール・ソルテ』 (Paraphernalia Record)を店に持ちかえり大音量で聴いてみると、リズム感、ノリの良さにおいて満点ジャズでした。だいぶ前にユニークなピアニスト、アマーロ・フレイタスのアルバム『Sankofa』をご紹介しましたが、同じブラジリアン・ミュージシャンならではの明るい切れの良さが心地良い。取り立ててエスニック・テイストを強調しているわけではないのですが、やはりアメリカ系ミュージシャンとは一味違うフレイヴァーが感じられます。

近年オペラの作曲も手掛けるドラマー、タイソーン・ショーリーのトリオに、かつてスティーヴ・コールマンのユニークなグループ「M-BASAコレクティヴ」のメンバーだったアルト奏者グレッグ・オズビーが参加したライヴ・アルバム『Off-Off Broadway Guide To Synergism(PI Record)は、いかにもニューヨーク的な緊張感あふれるスリリングな演奏が魅力です。

今や大御所的風格を備えるギタリスト、ビル・フリゼールの新作『Four (Blue Note)は、共演のサックス、クラリネット奏者グレッグ・タルディのカラーが強く感じられます。フリゼールはコロナ禍で友人たちとの別れを体験したそうで、そうした想いを込めたアルバムといった側面もあるようです。ただあまり陰鬱な感じは無く、いつものフリゼール・カラーであるノスタルジックな側面が聴き手の心を和ませます。

実を言うと、今回一番面白かったのは最後に収録した「bohemnianvoodoo」のピアニスト木村イオリと、その弟木村仁星のアルバム『Moonflight (Playwright)でした。ピアノとローズ・ピアノによるデュオ作品で、キーボード同士の共演が得てして冗長に流れがちななかで、聴き手を飽きさせないのは大したもの。実の兄弟であるゆえの息の合い様もあるのでしょうが、良い意味で「好きな音楽」を「身内」でやっているからこその音楽への没入が私たちの耳を惹きつけるのでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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