長年ジャズ喫茶をやっていての感想ですが、一昔前はジャズ・ファンの中にビッグ・バンド・ファンというグループがあって、スモール・コンボ・ファンとは微妙に好みが違っているように見えたものです。エリントン楽団、ベイシー・バンドが人気の時代ですね。確かに彼らの音楽はマイルス、コルトレーンとはテイストが違います。

それが、70年代以降ギル・エヴァンス・オーケストラが注目される頃から少しずつ両者の歩み寄りがみられ、21世紀マリア・シュナイダー、挟間美帆らが脚光を浴びるようになると、ビッグ・バンド・ジャズはラージ・アンサンブルなどとも呼ばれると同時に、むしろ現代ジャズの重要な部分を占めるようになりました。まさに「サウンドの時代」ですね。確かにまったく傾向は違いますが、カマシ・ワシントンや今回もご紹介するヌバイア・ガルシアの音楽はソロだけでなくユニークなバンド・サウンドが聴き所。

いささか長めの前置きになりましたが、冒頭にご紹介するコンポーザー兼サックス奏者、レミー・リブーフの新作『Architecture of Storms(Soundspore)は現代ビッグ・バンドならではのスムースさを備えつつ、濃密な聴き所も合わせ持つ傑作となっています。要するにアンサンブル・サウンドとソロ・パートが有機的に結びついているのですね。

同じくドラマー兼コンポーザーであるジョナサン・ブレークのブルーノート・デビュー作『Homeward Bound』も、注目のヴァイブラフォン奏者、ジョエル・ロス、そして有望な新人アルト奏者イマニュエル・ウィルキンスを従えた斬新なサウンドが素晴らしい。ウィルキンスの切れ味の良いフレーズに絡みつくように音を重ねるロスのヴァイブ・サウンドがまさに現代的です。

そしてU.K.シーンから飛び出した女性サックス奏者、ヌバイア・ガルシアの新作『Source We Move(Concord)は、タイトルが示すように昨年の傑作『Source』のリミックス・アルバムです。想像した通り冒頭収録曲は『Source』の目玉トラック、コーラス・グループ「ラ・ペルラ」が活躍する「La cumbia Me est llamando feat. La Perla」で、リミキサーはウエスト・ロンドン・シーンの大物カイディー・テイタム。他にもレゲエのトラックや懐かしのドラムン・ベースが小気味良いペルー出身のD.J.デング・デング・デングのリミキシングなど、大音量で聴いた気持ち良さは言葉にし難いものがあります。

リミックス、過去の音源の改変と言えばこちらもドラマー兼プロデューサー、マカヤ・マクレイヴンのブルーノート・デビュー作『Deciphering The Message』を外すわけには行きません。ジャズ・ファンお馴染みのケニー・バレルのブルーノート盤『ブルー・ライツVol.1』収録の「ニューヨークの秋」や、同じくケニー・ドーハム『’Round Midinight』収録「モナコ」などを採りあげているのですが、ちょっと聴きではオリジナルが何だったのかわからない程度にはクレイヴンの再解釈が効いた作品となっています。

ベテラン・ファンの中にはこうした「改変作」を疑問視する方のおられるようですが、チャーリー・パーカーがスタンダード・ナンバー「チェロキー」を改変して名演「ココ」を生んだように、改変、再解釈はジャズの伝統でもあるのですね。

ここでゴロっと雰囲気が変わります。5弦エレクトリック・ベースが醸し出す独特のサウンドが熱狂的ファンを作り出したドイツのベーシスト、エバーハルト・ウェーバーによる『Once Upon A Time(ECM)は、1994年にアヴィニョンで行われたコンサート・ライヴ盤。クールでありながら音楽的親密さを失わない彼の音楽がECMの象徴となっているのがよくわかる名演です。

最後にご紹介するのはウルトラ・テクニックでギター・ファンを沸かせた新人、バスクァーレ・グラッソがジャズ・レジェンド、デューク・エリントンに捧げたトリオ盤『バスクァーレ・プレイズ・デューク』(Sony Music Japan International)です。

「スイングしなけりゃ意味がない」はじめ「イン・ア・センチメンタル・ムード」などよく知られた名曲をけれん味なく演奏した心地よい作品で、これからの活躍が期待される新ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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