数年前からのジャズ・シーン活性化を現場で感じ、毎月お届けする番組4本のうち、1本を新譜中心でお届けすることとしてきましたが、ここに来てジャズが明らかに「世界音楽化」していることを実感しています。私がジャズを聴き始めた1960年代は「ジャズは黒人音楽」というファンの常識があり、そうした認識でさほど問題はありませんでした。

しかし現代ジャズの動向を眺めるに、いまやジャズはブラック・ピープルの独占物では無くなっているのですね。そしてそのことがシーンを豊かにしているのです。ジャズの「世界音楽化」には二つの方向があるように思えます。

一つはアメリカ以外のミュージシャンの演奏が、本場アメリカのジャズマンに引けを取らなくなっていること。もう一つはジャズが世界中の音楽要素を取り入れ、それを巧みに「ジャズ化」している状況です。今回のセレクトは図らずもそうした現代ジャズの二面性が切り取られていたように思います。

最初にご紹介するのは前者、アメリカ以外のミュージシャンの演奏レベルの高さです。フィンランドのベテラン、サックス奏者、イーロ・コイヴィストイネンのワン・ホーンカルテット・アルバム『Diversity (Svart Jazz)はまさしく現代的なストレート・アヘッド・ジャズで、1970年代に勃興したロフト・ジャズの勢いを彷彿させる快演です。サイドのピアノも絶頂期のマッコイ・タイナーを思わせ、セロニアス・モンクの名曲《プレイド・トワイス》におけるコイヴィストイネンとのデュオなど、実に切れが良い。

名ドラマー、ブライアン・ブレイドがベーシスト、ジェフ・デンソン、フランス出身でカート・ローゼンウィンケルの流れを汲むギタリスト、ロマン・ピロンと組んだギター・トリオ『Finding Light (Ridgeway)は、ロマンのマイルドなギター・サウンドをブレイドのタイトなドラミングが支える心地よいアルバムです。グラント・グリーンお得意のフレーズが出て来るのもご愛敬。

今回一番興味深くジャズの世界化を実感したのが、アバセ名義のアルバム『Laroye (Think!) でした。一聴して気持ちの良い音楽だとは思ったものの、はたしてどういったミュージシャンの作品なのか「音」だけではまったく見当が付きませんでした。それほど多様な要素が巧い具合にブレンドされているのですね。

解説を読み、アバセの本名はSzabolsc Bognarでハンガリーのミュージシャンと知り、意外の念に打たれたものです。このアルバムは彼が携帯録音機材持参でブラジルを訪れ、現地のミュージシャンたちと共演したということですが、土俗的要素やネオソウル的なテイストなど、まさに世界の多様な音楽要素が融合していて、これぞ融合音楽としての現代ジャズだと納得したものです。

そしてもちろん、ジャズ本国アメリカのシーンもゆるぎないと思わせたのがジョシュア・レッドマン、ブラッド・メルドー、クリスチャン・マクブライド、ブライアン・ブレイドという現代アメリカ・ジャズのトップ・スターが一堂に会したアルバム『Long Gone (Nonesuch)でした。90年代におけるジョシュア・カルテットのオリジナル・メンバーだけに、息の合い様も素晴らしく、現代アメリカ・ジャズを代表するに足る演奏です。

Here It Is : A Tribute To Leonard Cohen (Blue Note)はカナダ出身のシンガー・ソング・ライター、レナード・コーエンに捧げたトリビュート・アルバム。プロデューサーはハービー・ハンコックのジョニ・ミッチェル・カヴァー集などを手掛けたラリー・クラインです。歌い手はノラ・ジョーンズはじめグレゴリー・ポーター、イギー・ポップなど豪華絢爛。そしてバック・バンドもエマニュエル・ウィルキンス、ビル・フリゼール、ラリー・ゴールディングスなど、ベテラン、新鋭取り混ぜ第一級のメンバーで固めた、いかにもブルーノートらしいアルバム作り。

最後はチェコ出身のギタリスト、ダヴィド・ドルージュカとポーランドのピアニスト、ピョートル・ビレゾウにアメリカのトップ・ドラマー、ジェフ・バラードが付き合ったギター・トリオ・アルバム『Andromeda’s Mystery (Bivak)です。タイトル通り宇宙的なミステリーを感じさせるサウンドは、やはりアメリカ・ジャズとは一味違いますね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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