「ストライドラボがある街は健康な街」を目指して
ストライドは2016年、ランニングシューズやアウトドアギアの輸入卸ロータスが取り扱うブランドの小売り事業を担う会社として設立された。ロータス、ストライドが生まれた背景には、代表の福地孝さんが学生時代に留学したアメリカでの経験がある。自身はスポーツに没頭していたが怪我に悩まされ、運動生理学を学ぶため留学したのだという。現地の病院でインターンをしながら呼吸代謝や動作解析を専攻し、一つの答えに辿り着いた――「身体の土台である足もとが崩れれば、その歪みは必ず全身に及ぶ」。
それから間もなく出会ったのが、09年にデビューしたばかりのランニングシューズブランド「アルトラ」だった。大きな特徴は、つま先と踵(かかと)の高低差が無い「ゼロドロップ」と、人間の足の形に沿い、自然に指が広がって地面をグリップできる幅広の「フットシェイプ」。靴に足を合わせるのではなく、足の自然な機能を最大限に引き出す設計により、「怪我を生まないランニングシューズ」として開発された。クッション性と推進力を追求するランニングシューズのトレンドとは真逆のアプローチだったが、足本来の機能を妨げない運動生理学に忠実な物作りに感銘を受け、創設者らと親交を深め、アルトラが備える価値観を社会に根づかせたいと日本における販売代理をスタートさせた。
アメリカでは、ランニング専門店がスポーツ関連の相談場所として各地域に根づいていることにも衝撃を受けた。日本にも「靴を売る」だけではない、各地域におけるスポーツの普及と健康増進に寄与していく専門店を広めたいとストライドを立ち上げ、直営店として「ストライドラボ」をスタートさせた。アルトラを軸に人間の足本来の機能をサポートするベアフットシューズのブランドも揃え、来店客の目的に適ったシューズはもとより、生涯を通じてスポーツを楽しめるよう運動習慣も提案。ランニングを中心とした様々なイベントや足の健康に関する一般向け・医療従事者など専門家向けのセミナーなども開催し、「すべての一歩を健康に。」するための活動を推進した。やがてストライドラボの考え方や活動に共感したストライドの取引先などもFC店として参画し、24年にはアメリカ・コロラド州デンバーにも出店。現在は直営店・FC店を合わせ国内外に21店舗を展開している。スタッフの専門的な知識や接客力を養う研修にも力を入れ、活動拠点となる実店舗を各地に出店することで、「ストライドラボがある街は健康な街」を目指している。
その旗艦店が東京・日本橋人形町にあるストライドラボ東京本店だ。東京本店は16年から多摩市の聖蹟桜ヶ丘で展開し、全国からシューズ選びや相談に訪れる場になった。事業の拡大や客数・スタッフの増加に伴い24年に現在の立地へ移転し、地下1階から地上4階の建物に売り場と本社機能を集約した。日本橋は江戸時代から日本各地をつなぎ、人々が往来した五街道の起点、「すべての一歩を健康に。」というパーパスの実現に最適の地と判断した。
以降も、日本におけるアルトラの市場拡大が海外でも評価され、欧米の新興・個性派ベアフットシューズブランドなどの取り扱いも増加。25年1月にはアメリカのアウトドアギアブランド「NEMO Equipment(ニーモ イクイップメント)」の日本総代理店となり、ストライドラボでは以前からトレイルランニング用のシューズやギアは提案してきたが、山に登る・山で過ごすための装備も品揃えに加わった。
プロダクト(モノ)の充実と並行し、足もとからの身体全体の機能改善=フットコンディショニング(コト)にも力を入れる。25年9月にグループ会社「ストライドリムーブ」を設立し、フットコンディショニングのための測定結果に基づいた評価や教育・トレーニング指導、コミュニティー醸成、コンサルティングを柱に活動を開始した。同年10月にはストライドがロータスを合併し、ストライドグループとして各ブランドの輸入卸、ストライドラボのリテール、自社ブランドの開発・販売、さらに身体作りをサポートする食品の開発・販売、そしてストライドリムーブの事業を行う体制になった。
事業領域は「WALK」「RUN」「HIKE」へと広がり、これらに関わるモノとコトを一気通貫で提案できる場作りに向け、取り組んだのが東京本店のリニューアルだ。今年3月には1階をランニングやベアフットのシューズ、ランニングギア、フットヘルスアイテムのフロアに改装するとともに、地下1階に足の測定やトレーニングの設備を備えたストライドリムーブのフロアを開設、8月には2階にアウトドアギアに特化したフロアを新設した。
アルトラを軸に、欧米のベアフットシューズブランドも充実
リニューアルした東京本店の売り場は、白い壁面の清潔感と経年変化した黒い床のビンテージ感のコントラストが空間に落ち着きを生み、直線的に構成されたアルミニウムの壁面や什器による無機質なラボのムードと、自然木を使ったカウンターやベンチが醸し出すフィールドのイメージが共存する。右の壁面にはシューズ、左にはランニングギア、中央の島にはフットケアアイテムなどを集積し、WALKとRUNをモノの側面からサポートする。
とりわけ充実しているのが、ストライドラボの核となるシューズだ。ナチュラル系ランニングシューズのアルトラをはじめ、超長距離ランニングに特化した香港発の「Mount to Coast(マウント トゥ コースト)」、ベアフットシューズはドイツ発の「BLUSUN(ブルーサン)」や「GROUNDIES(グラウンディーズ)」、アメリカ発の「LEMS(レムズ)」や「LUNA SANDALS(ルナサンダル)」、「Notace(ノータス)」、チェコ発の「SKINNERS(スキナーズ)」など、日本では今後の認知の広がりが注目される実力派ブランドも多い。加えてストライドラボのオリジナルシューズも展開し、常時約150型を揃える。
1階フロア。シューズは本格的なランニング向けから街履き向けまで充実
シューズの対面にはラニングギアが揃う
足の状態に合わせてフットケアアイテムも提案する
「アルトラはランニングはもちろん、日常履きにも対応する幅広いラインナップ」と、ストライドラボ東京本店店長の平野セイラさん。「お客様からはよくお薦めを聞かれるのですが、様々なニーズに対応するモデルがあるので、まずはどういう使い方をしたいかを尋ねます。足の機能を計測し、その結果を踏まえて、例えば山に登りたいのであればトレイル系から、普段に履きたいのであればソールが薄めのものから、一人ひとりの目的と足の状態に寄り添ったシューズを絞り込んでいく」。
アルトラのランニング向けで厚く支持されているのは、ロードランニングの定番モデル「TORIN(トーリン)」。ウルトラマラソンから日常のジョギングまで幅広いシーンでランナーを支えるモデルだ。ブランド黎明期からアップデートを重ねてきたが、今年7月にはさらに進化した「TORIN 9(トーリン ナイン)」が発売され、ランナーたちの注目を集めている。
フットシェイプトゥボックスとゼロドロップ設計はそのままに、大きく変わったのはアウトソールだ。ロードランニングモデルでは初めてヴィブラムソールを導入し、中でも特に耐久性とグリップ力が高い「Vibram○R XS DURA(ヴィブラム エックスエス デュラ)」を採用。「日々の走り込みでも削れにくく、グリップ力は前作よりも8.5%向上しました。低温環境での耐性が高いのも特徴で、マラソンのハイシーズンである1月、2月にも高いパフォーマンスを維持します」と平野さん。さらにミッドソールには新たに開発された「P35XTM デュアルデンシティフォーム」を使い、最適なブレンドを追求した柔らかいフォームと硬めのフォームの2層構造により反発性とクッション性を両立。スタックハイト(ミッドソールとアウトソールを合わせた厚み)も28mmと前作より2mm低く設計することで、柔軟性がありながらダイレクトな接地感を向上させた。「履き心地はソフトでありながら、しっかりと着地できる作りなので、これからランニングを始める人にもお薦めのモデル」と話す。
ベアフットシューズに進む前段階のシューズとしても、アルトラは有効な選択肢となり得る。「もともと『怪我をしないランニング』を目指してスタートしたブランドなので、ベアフットシューズとは違ってクッション性があるんですね。いきなりベアフットシューズを履くのは不安というお客様も自然に移行していけるよう、アルトラのシューズの中のソールが薄いシリーズを提案するなどしています」。
トレンドの厚底でもベアフットでもない「第3の選択肢」として注目を集めているのは、ノータス。舗装路が一般的になった現代の路面を前提に、地面からの情報を足へと明瞭に伝えつつ、接地時の物理的な刺激を抑制する――相反する機能を両立させることで足裏の感覚を適度に刺激し、足本来の力を引き出すことを目的としている。昨年8月に山でも街でも楽しめるデザインのトレイルモデル「yama T1(ヤマ・ティーワン)」、今年3月にはコートスポーツモデル「koto 1(コト・ワン)」とロードモデル「michi 1(ミチ・ワン)」をローンチした。
「足の形に沿ったトゥボックス、つま先から踵まで高低差の無いゼロドロップにより、素足と同じ感覚で立ち姿勢がとりやすい。その意味ではアルトラと同様の考え方なのですが、大きな特徴として非常に柔軟性が高いんですね。縦にも横にも斜めにも曲がる。解剖学的な知見に基づいた屈曲溝をアウトソールとミッドソールに配置し、足の骨格と関節の複雑な動きに沿う作りになっている」と平野さん。ミッドソールには次世代素材として注目される軽量でソフトな「eTPU(発砲熱可塑性ポリウレタン)」を採用し、反発性と明瞭な接地感を確保。「足の機能を自然に使えるようにするため、近年のランニングシューズに見られる過剰なサポート機能を最小限に抑えた」ことで、US9サイズで180gという軽量を実現した。
オリジナルシューズは現在、2タイプを展開する。ブランド名はずばり「STRIDE(ストライド)」。「ストライドラボが扱っているのはランニングやアウトドアのシューズなので、デザインがスポーティーだったりストイックだったりします。その中で、代表の福地が冠婚葬祭に履けるシューズが無いと思ったのが開発の始まり。また、アルトラなどつま先が幅広のシューズを履き慣れたお客様から、仕事で革靴を履くのが窮屈になってきたという声を聞くようになったんですね。そこでライフスタイル系のシューズを作りました」と、平野さんは製作の背景を話す。
ストライドはフットシェイプとゼロドロップ構造を採用し、日本産の牛革を使用して奈良県で手作りしたレザーシューズ。紐靴タイプの「ストライドADDICT(アディクト)」は、ライナーにメリノウールを使うことで快適な履き心地を生んだ。ライナー前足部には薄い豚の鞣し革を配し、耐久性を高め、着脱時のスレにも強い設計を施した。アウトソールに採用したヴィブラム社のラバーソールは、雨天の路面でもグリップ力を発揮する。「ストライドMOCCA(モカ)」はアディクトと同様の素材を使い、よりカジュアルな紐無しタイプに仕上げた。こだわりは「簡素化」。シューレースだけでなく、踵パーツやヒールカウンターも外し、1枚革でシンプルな構造に生み出し、自然な足の形に近づき、足に吸い付くような履き心地を実現した。
「街のかかりつけ医」のような存在としてのストライドラボ
2階は旧店舗ではイベントスペースとして活用していたが、ストライドラボのHIKE領域の世界観を伝える役割を持たせた。アウトドアギアはフィールドに近い東京の高尾店や新潟の妙高店で提案してきたが、旗艦店では20㎡のワンフロアでMDを編集した。
メインに据えるのはニーモ イクイップメントのギア。テントやシュラフ、リラックスチェア、テーブル、バックパックなど幅広く揃える。アパレルは、高品質なメリノウールウェアを専門に扱う「ibex(アイベックス)」をはじめ、バックカントリーに特化した「Teton Bros.(ティートンブロス)」や環境配慮を信条とする「STATIC(スタティック)」など多様なブランドから、素材や機能にこだわったアウターやシャツ、パンツ、ソックス、帽子などをセレクトしている。またアルファ米やそば、サプリメントなど、トレイルやキャンプの携行食のコーナーも設けた。「日帰り登山から泊まりがけの縦走にも対応できるプロダクトを揃えました。今後はニーモのポップアップストアを展開したり、テントの相談会などのイベントも組んで、アウトドアの魅力を提案していきたい」と平野さんは話す。
WALK、RUN、HIKEを楽しむために重要なのが、足の健康だ。「足の裏は様々な情報を感じ取り、脳に伝えることで人の姿勢をコントロールしています。ところが、厚底のシューズばかり履いていたり、平坦な舗装路が一般的な現代の環境下では、足裏の感覚が鈍ってしまいがちなんですね。足もとのわずかな歪みは膝や腰、肩へと連鎖し、全身の機能に影響していき、関節の痛みなど身体の不調の原因になってしまいます」と、ストライドリムーブの代表を務める今井亮瑠さん。ストライドラボでは普段の接客を通じて来店客が抱える身体の問題に足もとを起点として向き合ってきたが、より専門的なサポートを提供するために設立したのがストライドリムーブだ。「培ってきた知見に加え、バランス感覚や拇趾(ぼし)の力、足首の可動域など6項目を最新の機器で測定し、データをもとに一人ひとりの状態に沿ってフィードバックし、ケアやトレーニングの方法を提案しています。単に健康になろうではなく、好きなアクティビティーを楽しみ続け、そこで得られる体験をこれからも得続けるための健康という視点でサポートしている」。
この取り組みを推進するに当たってパートナーに迎えたのが、オリンピック代表など国内外のトップアスリートのトレーニング指導で実績を積んだ阿部勝彦さん。共に独自の研修プログラムも作成し、足や身体の構造、歩きや走りの仕組みなどの専門知識、様々な計測を行う意味や目的、データに基づいた評価やケア・トレーニング提案の要諦、さらにその学びを実際の接客でどう伝え、最適なシューズとのマッチングをサポートしていくかまで、プロフェッショナルの知見を凝縮した。研修は新入社員はもとより、直営店だけでなくFC店のスタッフも定期的に受け、「体験を通して学びをアップデートし深める」場になっている。
足の測定は東京本店では予約制で受け付けるほか、体験イベントとしても各店舗で開催し、足の健康への意識の醸成に取り組む。並行して、阿部さんによる接骨や整体などの医療・治療関係者に対するセミナーも実施し、「一緒に足の健康の大切さへの認知を広める専門家を増やす活動もしています」。
これらストライドが有するモノとコトをトータルに発信する拠点として東京本店はある。「もちろんシューズを選びに来店するお客様はいますが、何らかの悩みを持っていて、相談できる場所としてストライドラボをウェブなどで知った、知り合いから紹介された、病院や接骨院の先生に教えられたというお客様が多い」と平野さん。ランニングやウォーキング、山登りをしている人はもちろん、運動は全くしていないという人もいれば、仕事用の靴を求めて来店する人も。「求めていることは人それぞれ」だが、ナチュラル系とベアフット系に絞り込みながらも多様なニーズに応えられる品揃えと、一人ひとりとの会話を大事にし、個別に最適解を導き出していく接客が相乗し、リピートが多いのもストライドラボの特徴だ。
グループランなどのイベントも活発に開催し、身体を動かすことの楽しさを体験しながら、顧客とスタッフ、顧客間のつながりを深める機会作りにも力を入れている。イベントは各店舗が企画・主催しているが、東京本店では毎週木曜日の「ナイトラン」をはじめ、英語で会話しながら走る「イングリッシュラン」、ビールスタンドを目的地として走る「ビアラン」などユニークな企画を展開している。
今後も店舗展開に意欲を見せるが、シューズ市場でのシェア拡大を目指すための単なる出店攻勢ではない。「将来的には、足などに悩みを持つ方々が気軽に相談に来られるよう、『街のかかりつけ医』のような存在としてストライドラボがある環境を全国各地に生み出していきたい」と今井さんは展望を話す。
写真/遠藤純、ストライド提供
取材・文/久保雅裕

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター。ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。元杉野服飾大学特任教授。東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremodeコントリビューティングエディターに就任。
