「編集」と「空間演出」が紡ぐ世界観
ファッションショーを行う意味は、単に新作を見せることではなく、ブランドの事業の未来を創ることにある。若手ブランドにとっては認知拡大、海外進出を目指すブランドにとっては国内での実績づくり、卸先や直営店を持つブランドにとっては既存・新規顧客の満足度向上とブランドイメージの強化が、その目的となる。
そしてそこに欠かせないのが「記憶に残るショーであること」だ。1980年代までは、新たなルックを放つことが主流だった。現在でもパリなどでは、新たな切り口でのファッションを先んじて提案することで、そのブランドのクリエイティビティーを訴え続けている。
その一方、東京は編集で訴えるブランドが多い。そのようなアプローチでは、服の背景や空間の演出が重要なファクターとなり、それによって観客の記憶に刻まれる体験へとつながる。スタンダードな服が主流となっている東京の空気を捉え、日常の延長線上の世界観が多く見られたのが今シーズンの特徴と言えよう。
コッキ
2019年に東京で創業し、2024年に「LVMHプライズ 2024」のセミファイナリスト、2025年に「10 Asian Designers to Watch」に選出されるなど、今注目のブランド「コッキ(KOHKI)」。今シーズンは、「by R」の支援によりショーを開催した。
ショー会場には、キッチンやベッドルームのセットを設置。知り合いの家にお邪魔したかのようなムードが漂う。幼い頃に過ごした実家の風景を思い浮かべ、好きなものばかり集めるというアプローチでコレクションを創り上げた。
登場するアイテムは、日常に馴染むものを取り上げた。ただ、それぞれのデザインは装飾性を高めている。大きなスクエアショルダー、大胆な色使いで目を引くパッチワークや切り替え、フォーマルなアイテムとアクティブなアイテムのコンビネーション、レオパードのウエストマーク……精緻な無造作、奔放な感覚、プレイフルなミックスが魅力的なコレクションだ。
スドーク
渋谷パルコの半開放的なスペースでショーを行った「スドーク(soduk)」。会場の中央に部屋のような造作を設置し、モデルがパンを齧ったり着替えをしたりといった動作を見せることで、日常の延長線上にある空気感を表現した。
完璧なショーモデルではなく「日本のリアルな若者像」を投影したモデルたちが身に纏うのは、チアフルなアメリカンカジュアル。そこには、デザイナー工藤司のルーツである沖縄のムードも漂う。異なる表情を見せるアルカリウォッシュのアイテムや多様な染めをミックスしたデニムパンツをはじめ、沖縄の県花であるデイゴのチャーム、琉球藍研究所との取り組みによる藍染めピース、工藤自身による手刺繍、そしてオリオンビールとコラボレーションしたTシャツなどが並んだ。
また、ブランドが得意とする端正なテーラリングアイテムも目を惹き、なかでもメンズモデルが着用したタイシャツが印象的であった。
ヨシオクボ
「NATURAL BORN NOMAD」をテーマにコレクションを発表。着想源はLAのランカルチャーで見かけたヒッピーと、映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』。自由なスピリットを「NOMAD(遊牧民)」と捉え、会場にはゲルを設置してランウェイが構成された。
アイテムはアクティブウェアをベースに、ダークなアーシーカラーで展開。ストッパー付きの紐を用いたマクラメ風パーツや砂漠・蛇・骨のモチーフで遊び心を演出した。さらにボンディングオパールやプリントフリンジジャカードなど、複雑なテキスタイルと素材へのこだわりが光る、自由なムードのショーとなった。
ユウショウコバヤシ
前シーズン、死後の世界をテーマに芝居仕立てのショーを行った同ブランド。今回は海をテーマに、「人魚姫」の物語をコレクションに投影した。海に落ちた女性と人魚姫の末娘をメインに据えてショーを進行した。
ニットを得意とする同ブランドだが、布帛(ふはく)のピースを増やしたのが今シーズンの特徴だ。鱗のように布帛をハンドメイドで縫い付けたドレスや、レースを異素材と縫い合わせたり、塗り絵モチーフやデザイナー自身のイラストを転写プリントであしらったりするなど、すべてハンドメイドで作り上げる同ブランドらしく、布帛のピースも手作業で製作したという。
全体的にはロマンチックなデザインが目立つが、レジ袋や缶ビールのプルタブなどの海の漂流物を付着させるなど、毒気も残した。
時代を捉える表現者たち
時代を映し出す服は、ファッションウィークにおける最高の目玉であり花形だ。メインストリームのトレンドを鮮やかに掬い取るコンテンポラリーなブランド、そして東京のカウンターカルチャーや前衛ムーブメントを牽引するデザイナーたちの多様なクリエイションが交差してこそ、ファッションウィークは本来の熱量を帯びる。
これまで、そうした編集力やストリートの熱気を提示する役割はメンズデザイナーが担うことも多かった。しかし、集客力のある主要ブランドが独自カレンダーへ移行して久しく、公式・非公式を問わずショーの開催数自体が落ち着きを見せている今、コスト高騰の中で「何のためにショーを行うのか」という根本的な意義が改めて試されている。
リコール
設立10周年を迎え、アニバサリーショーを行った「リコール」。「 (re)code × (re)member」をテーマに、過去と現在を重ね合わせてブランドの本質を問い直すコレクションを披露。
再構築トレンチや古着風の質感、人形供養として服に装着したぬいぐるみなど、過去の作品とシンクロするピースが登場した。また、憧れのブランドや仲間など「10+1」のアーティストと協業。シームツーによる怪獣の帽子、衣装デザイナー、モリモリによる熊の着ぐるみのようなアイテムなど、個性の強いピースが彩った。
膨らみがありつつも美しい落ち感を見せるシルエットなど今の空気が宿り、今後の進化に期待が膨らむ内容となった。
オリミ
今季は「PROPERLY DRESSED」をコンセプトに、シームレス化していくオケージョンにおいて相応しい装いを追求した。ファーストルックの純白スーツをはじめ、オープンカラーシャツやロングエプロンなどのオールホワイトによる自由なセットアップを提案。中盤にはミリタリーやデニムも登場した。
様々なアイテムに変化させて使用できる筒状の一枚布や、アシンメトリーなドレープなど、布の表情を巧みに遊ぶ仕立てが目を引く。「CA4LA」や「KIDS LOVE GAITE」とのコラボレーションに加え、英国調のモチーフと艶やかな素材感が独自性を際立たせた。TOKYO FASHION AWARDの受賞を経て海外進出へ向かう、彼らの今後に注目だ。
エンフォルド
「WRAPPING STRUCTURE」をテーマに、内臓部・骨組み・表皮という建築を構成する3つのレイヤーを、身体と衣服の関係へと置き換える発想でコレクションを制作した。構築的な膨らみを持つジャケットやドレスには、透けて見えるようなトランスペアレント素材を使用。その下にはリアルなピースを合わせる手法でルックを作り上げた。
カラーパレットには、建築家ルイス・バラガンの作品からインスピレーションを得た鮮やかな色彩を取り入れ、同ブランド本来の持ち味へと回帰した。また、グラフィックデザイナーの山口崇多に依頼して製作したという、建築物の骨組みをグラフィカルに表現したドレスや、プロダクトブランド「ごゑもん」とコラボした雪駄なども目を引いた。
メグミウラ ワードローブ
三浦メグが2016年に創設した「メグミウラ ワードローブ」。「360度美しい」をコンセプトに掲げる、アウターに定評のあるブランドだ。2023年秋冬シーズン以来、Rakuten FWTで2回目となるランウェイショーを行った。
「多様性を表現したいからランウェイをやった」と話す三浦。その言葉通り、厳選した10ルックを、異なる個性を持つ人物に着せることで、その人らしさを表現した。例えば、女性モデルが着用したファーストルックのトランスペアレントな黒のロングコートは、大柄な男性が後半で着用。若いメンズモデルが着用したサックスブルーのシャツと白のメッシュのようなニットジャケットのレイヤードは、年配の男性にも着用させた。
コレクションを通して印象づけたのは、春夏らしいトランスペアレントな軽量アウター。それらをレイヤードすることで、コーディネートの幅を示した。また、三浦が手がけた「ザ・ノース・フェイス アーバンエクスプロレーション」のアイテムもルックに組み込んでいた(日本未発売)。
「動くこと」で魅せる創造性
ファッションショーを行う本質的な意義には、「モデルが着用して動くこと」もある。吊るしているだけではわからないシルエットやパターンの美しさ、歩くことによって変化を見せる色柄、素材、副資材、加工などの魅力をバイヤーやジャーナリスト、顧客に伝えるのだ。
歩くことで服に創り手の魂を宿らせる――そうした正統なファッションショーに挑戦するデザイナーたちに共通するのは、生産現場の職人と対話を重ねながら素材や加工に拘り抜くこと。そのこだわりをデザインに投影することで、服の力を鮮やかに伝えている。
ピリングス
村上亮太による「ピリングス」は前シーズンのテーマを継続し、「landscapes 2」というタイトルでコレクションを発表した。夢と現(うつつ)のグレーゾーンを表現したという通り、残像のような輪郭のズレが随所に見られる。これらは、グラデーションや絞り染めのように見えるインターシャ編み、製品の上から施したプリント、泣き染というわざと色移りさせるテクニックによって生まれたものだ。
また花から着想したピースも多く、中にはコサージュなどを製作しているアトリエ染花が創り上げた花弁を思わせるドレスも登場した。後日開催した展示会で、村上は「これまでショーというものは挑戦だった。それがありがたいことに還元されてきたので、今は東京でのショーは一区切りつけるという気分になっている。これからは新しい挑戦をしたい。例えば海外での挑戦など」と落ち着いた口調で話していたことが強く残った。
サポートサーフェス
「ordinary shift」をテーマに「最高の技術を日常に落とし込む」ことに取り組んだ今シーズン。ショーの冒頭では、サックスブルーのストライプのシャツ地を様々なアイテムで表現した。布帛を贅沢に使用し、プリーツや折りで静かに造形を描くドレスやスカートが涼やかさを伝える。その印象は、ウールやコットンと混紡したリネンやレースのストーリーへとつながる。アイテムでは、ミドル丈や大きな胸開きによる肌見せなど、涼を孕むデザインが目立つ。柄ではフローラルが目を引き、歩くたびに花が揺れるような素材遊びも見られ、単調になりがちな夏の装いを優雅に見せた。
エイタロウ
ブランド創設から3シーズン目を迎えた同ブランド。これまでの「サナギ」、「背花着」に続き、「脱」をテーマに掲げてコレクションを発表した。
デザイナーの上村英太郎が重要な局面と捉えた3シーズン目において、「脱却や脱皮など、今ある自分を捨てる瞬間であっても、過去の自分を捨てることはできなかった」と上村は語る。たとえ黒歴史であったとしても過去は様々な色で彩られていたと捉え、オーガンジーを使用して多様な色の重なりに挑戦した。
ショーの序盤は白を重ねたルックで、進行するにつれて色が増えていく構成に。紫の上に青、橙に淡い黄を重ねるなど、色の重なりが美しく、オーガンジーの特長を生かしていた。その他、カラーブロッキングやコントラストコーディネートなどの手法も見せ、彩りの豊かさを表現。最後はランウェイを埋め尽くすほどの長いトレーンを引いたドレスと、上村が書いた詩を女性が読み上げる演出で締め括った。
ケイコニシヤマ
2021年に西山景子が創設した「ケイコニシヤマ(KEIKO NISHIYAMA)」は、オリジナルテキスタイルを軸にコレクションを発表しているブランドだ。その特徴は、空想の動植物モチーフという有機的な属性を重ねることにある。
今シーズンは18〜19世紀の植物図鑑や押し花標本、日本の『本草図譜』などを紐解き、西洋と日本の原種がそれぞれの土地に渡り新たなルーツを創ることから、東西の花々を抽象的に表現した。フローラルパターンのレイヤード、華やかに膨らんだシルエット、シアーやミドル丈による肌見せなどフェミニン要素が広がる。
これらを支えるのが、日本の職人の技術。希少とされるシルクのリボン織などをあしらったドレスも印象的であった。
オートモード平田
平田暁夫の創設から長い歴史を持つ「オートモード平田」。現在は娘と孫に受け継がれている。1年前に創設70周年を記念したランウェイショーを行い、東京で注目のデザイナーたちのウェアとコーディネートして話題を呼んだ。
今シーズンは、東京・南青山のギャラリーでプレゼンテーションを開催。一軒家のアットホームな空間の中、創設者の娘の平田欧子による「アキオ ヒラタ オウコ(Akio Hirata OHKO)」、孫の平田早姫による「エイチ.エーティー(H.at)」、同じく孫である平田翔の「サキ エ ショウ(saki et show)」の3ラインを展示した。
また、フロアショーも実施。「逸れる」をテーマにコレクションを制作したサキ エ ショウは、折り返し方によってバケットハットにもセーラーハットにもなる可変アイテムを、エイチ.エーティーではクロッシェと麻ブレードという素材が帽子になる瞬間を表現したという、デフォルメされたフォルムのピースなどをお披露目した。
テルマ
Rakuten FWTのスケジュール外で、1年半ぶりにショーを行った「テルマ」。1969年のウッドストック・フェスティバルと、その背景にあった1960年代後半のヒッピー・ムーブメントから着想を得てコレクションを組み立てた。ピュアホワイトのシアーアイテムのルックからショーを進行し、後半につれて色柄を豊かに使用したルックを提案した。
このコレクションを支えるのが、日本の技術やデザイナーの中島輝道と職人との協業だ。製作過程で生じた残反を花型にパッチワークしたブルゾン、わざと柄をずらしラメをのせたほぐし織のボンバージャケット、膨れジャカードのジャケット、三重織のジャカードを載せた絵柄や、切り抜いたモチーフを後から外に抜き出したドレスなどが日本の雅びなムードを纏う。中島が描いた菖蒲などの花柄も温もりを感じさせた。
40ルックという大きなコレクションを発表し、創造力のスケールアップを感じさせるショーであった。
今シーズンのRakuten FWTは、ショーを行う意義が改めて問われる時代において、ブランドが何を観客の心に刻み、どのように時代を捉え、服の力を身体の動きの中で伝えるのかを映し出した。華やかな発表の場であるだけではなく、日本のデザイナービジネスのあり方と、次の可能性を可視化する場として、ファッションウィークの役割がシーズンを追うごとに更新されていくことを強く実感させられるシーズンとなった。
取材・文:山中健
大手百貨店、外資系ブランド、大手経営コンサルタント会社を経て、ファッションビジネスコンサルタントとして独立。
アパレル業界を中心に、ライフスタイルショップ、百貨店、SCなど幅広い業態に対しマーケティングやMD、リテール、海外進出のコンサルティングを手掛ける。
2011年から2025年までapparel-web.com編集長として国内外のコレクションを取材。現在は複数の媒体の外部エディターとして活動している。
