毎月4本の2時間番組をご提供するうち、1本は新譜限定とさせていただいたのには、二つの理由があります。この新譜紹介も80回を迎えたということはもう7年近く続いていることになりますね。そう、2016年辺りからジャズ・シーンが明らかに活性化し、ロバート・グラスパーはじめカマシ・ワシントンらアメリカ勢の活躍が注目されるだけでなく、U.K.からはゴー・ゴー・ペンギンやらシャバカ・ハッチングスなど、ユニークなミュージシャンが続々登場し、これが「新譜紹介」の目的の第一でした。

こうしたムーヴメントに新たな若いジャズ・ファン層は直ちに反応し、「ブルーノート東京」や「ビルボード東京」などで行われた彼らの来日公演は常に若年ファン層で満員盛況、今まで以上に「ジャズ」が身近に感じられる状況が現出しました。しかし若干の問題もあったのです。

ジャズ喫茶をやっているので、いわゆるベテラン・ジャズ・ファンの方々とも日々接するのですが、そうした方々の一部から「最近のジャズはわかりにくい」といった声も少なからず寄せられるのですね。私自身長年ジャズを聴き続けて来たので、そうしたご意見わからなくもないのです。

「現代ジャズ」は底のところでルイ・アームストロング以来の「個性表現第一の音楽」という原則は貫いているものの、チャーリー・パーカーのバップ革命による即興的要素の拡大以来、マイルス・デイヴィスの「サウンド改革」など、「ジャズ」はあらゆる要素を貪欲に取り入れ「進化・変化」と続けてきた結果、「伝統ジャズとの連続性」が見えにくくなっているのも事実だからです。この「問題」に対処するために、積極的に「現代ジャズ」を聴いていただこうというのがこのコーナーの第2の理由でもあるのです。

そうした視点で言えば、今回ご紹介する新譜はどれもベテラン・ファンからも容易に受け入れられる演奏が多いように思います。最初にご紹介するChristian McBride’s New Jawnによる『Prime (Brother Mister)は、ジョシュ・エヴァンスのトランペット、マーカス・ストリックランド、サックスの、2菅ながらピアノレスのカルテット編成。マクブライドのうねるようなベース・ラインに乗ってナシート・ウェイツのタイトで切れ味の良いドラミングがフロントを煽る、伝統的ジャズ熱演の現代版とも言える快演となっています。

続くクリス・ポッターの『Got The Keys To The Kingdom (Edition)もまたパーカー・ナンバーを現代に甦らした冒頭収録の《Klactoveedsedstene》が凄い。ワン・ホーンで吹きまくるポッターはまるで神がかり的。2022年に行われたヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音で、祖父ロイ・ヘインズ譲りのノリの良いドラミングはマーカス・ギルモア、ベースはチャーリー・ヘイデンの薫陶を受けたスコット・コリー、そしてアイデアに満ちたピアノ・ソロを披露するのはクレイグ・ティボーンと脇を固めるメンバーも完璧です。

三番目のグループは、ここまでの緊張を解くかのようなマイルドなサウンドが魅力的なイスラエルのギタリスト、ヨタム・シルバースタインと、ブラジルのピアニスト、ヴィトール・ゴンサウヴェス、そしてやはりイスラエル出身のドラマー、ダニエル・トールによるトリオ・アルバム『Universos (Jazz & People)

現代ジャズの特徴として世界各地の音楽要素を貪欲にジャズ化する試みが顕著ですが、この作品もブラジルの舞踊音楽フレヴォ、リオのサンバ、そしてショーロ、それだけでなくウルグアイのカンドンベや中東の要素まで織り込んだまさに現代融合音楽の典型ですね。

ベテラン・ジャズ・ファンにとってもっとも受け入れやすいのがフィンランド・ハードバップ・ドラマーの雄として知られたアレクシス・ハイノラの新作『Aleksi Heinola Quartet (Jazz Agrssion) でしょう。説明の要もないワンホーン・テナー・カルテットによる典型的ハードバップ・スタイルですが、スピード感、切れ味の鋭さはやはり21世紀ジャズですね。

そしてまた緊張感を解きほぐしてくれるのが、ジュリアン・ラージによる前作『ヴュー・ウィズ・ア・ルーム』の続編ともいうべき『The Layers (Blue Note)です。前作と同日録音というだけに出来の良さは折り紙付き。ゆったりとしたラージのギター・サウンドは聴き手の気分も豊かに解きほぐしてくれるのです。

最後に収録したのはわが日本の女性ピアニスト、山中千尋の新作『Today Is Another Day (Universal)。冒頭に記した「ジャズは個性表現第一の音楽」を私は山中の演奏から感じます。良く知られたシダー・ウォルトンによるスタンダード・ナンバー《Ojos De Rojo》を採りあげても、彼女ならではの解釈が斬新です。ある種のそっけなさを伴ったスピード感が面白いのですね。それはオリジナル・タイトル曲《Tody Is Another Day》でも遺憾なく発揮され、穏やかな表情が一瞬にして変容し、焦燥感にも似た疾走感覚を伴った場面転換が実にユニーク。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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