私が新譜紹介を始めたのはここ数年のシーンの活性化による新たなジャズ状況をフォローするためでした。そのため、注目している海外ミュージシャンの来日公演はなるべく観に行くようにしているのですが、近年明らかにファン層の若返り現象が起こっているのです。つい最近もブルーノート東京にマーク・ジュリアナのライヴを観に行ったのですが、演奏の素晴らしさもさることながら、若いお客さんの多さに驚かされました。一昔前は私と同世代か、せいぜい一回り下ぐらいの方々が主流だったジャズ・ファンの年齢層が、およそ20歳以上も若返っているのです。おそらくこのファン層の若返り現象は海外も同様のはずで、このことがシーンの盛り上がりに大きく寄与しているのでしょう。

 そしてフト気が付いたのですが、わが「いーぐる」のお客様も明らかに変化しているのですね。若い女性の一人客が目立って増えたのです。加えて渡航制限が緩和されたためか、このところ海外からのお客様方もたいへん目立つようになりました。どうやら口コミで日本のジャズ喫茶が「観光ルート」に加わっているようなのです。そうした方々はジャズ・ファンであると同時に、オーディオ・マニアであることが多く、「ちゃんとしたオーディオ装置でじっくりジャズを楽しむ」という「日本流ジャズ喫茶」が注目されているようなのです。

 若干自画自賛ですが、パソコン作業のB.G.M.としても聴き疲れせず、ちゃんと聴こうと思えば演奏の細部まで聴き取れるようチューニングした「いーぐる」のオーディオ装置は、海外のオーディオ・ファンからもわりあい好評のようです。

今回最初にご紹介する新譜は、正統派現代ハード・バップ・トランぺッター、ジョー・マグレナリと大阪出身のB-3ハモンド・オルガン奏者、敦賀明子、そしてバリトン奏者、ゲイリー・スマイリアンによる快適な演奏が楽しめる『New York Osaka Junction (Steeple Chase)です。聴き所はストレート・アヘッドなリーダー、マグレナリのトランペットに絡むダイナミックかつコテコテな敦賀のハモンド・オルガン、そしてそれを下から煽りまくるスマイリアンのバリトン・ソロですね。とにかく聴いていて気持ちの良いアルバムです。

2枚目は、カート・ローゼンウィンケルの参加が注目されるジム・スナイデロ2年ぶりの新作『Far Far Away(Savant)。軽やかで抜けの良いスナイデロのアルトと、ローゼンウィンケルのマイルドかつクリアなギター・サウンドがたいへん心地よい空間を生み出しています。オリン・エヴァンスのピアノも好調。落ち着いた傑作です。

チャールス・ミンガスの音楽は多くのミュージシャンに採り上げられてきましたが、トロンボーン奏者、コンラッド・ハーウィッグによる『The Latin Side Of Mingus (Savant)はラテン風味満載の快適盤です。ミンガスは自身でも『ティファナ・ムード』とか『クンビア&ジャズ・フュージョン』など、ラテン世界をテーマにしたアルバムを出しており、そういう意味でもこの演奏はミンガス・ミュージックが持つコク、味わいをたいへんうまく描き出していると言えます。

ブラジルのギタリスト / コンポーザー、ファビアーノ・ド・ナシメントが、エルメート・パスコアール・バンドのベーシスト、イチベレ・ズヴァルギのアレンジによるアルバム『Rio Bonito (Rings)を出しました。聴き所は何と言っても、ナシメントの華麗なギターを彩るイチベレの想像力を羽ばたかせるアレンジ・サウンドのコラボレーションの見事さです。何も考えずにいつまでもこの音楽に浸っていたと思わせる魅力があるのです。

 近年ブラッド・メルドーはじめ挟間美帆、上原ひろみなど、ストリングスとの共演を含むクラシック的とも思える作品が増えて来ましたが、その源流にはジョン・ルイスがいたことを思い出させてくれたのが、エンリコ・ピエラヌンツィとイタリア室内管弦楽団によるジョン・ルイスの作品にちなんだ共演盤『Blues & Bach (Challenge)です。ジョン・ルイスとM.J.Q.による名演《ヴァンドーム》《ジャンゴ》はじめ、スタンダード・ナンバー《ニューヨークの秋》など、ストリングス・サウンドとピエラヌンツィのコラボレーションが実に見事。

 ビル・エヴァンスの音楽は多くのピアニストによってカヴァーされて来ましたが、相手が大物だけになかなか料理が難しいようです。そんな中、真っ向勝負でエヴァンス・ミュージックに挑戦したのが、フランスのピアニスト、ポール・ライのアルバム『Blue In Green (Scala Music)です。何のけれん味なく情熱を鍵盤に託したようなライの演奏はなかなかのもの。聴き慣れた名曲《マイノリティ》や《インタープレイ》に新たな息吹が吹き込まれています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

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