この「新譜紹介」コーナーは2010年代以降の活性化したジャズ・シーンの現況をお伝えするためにやらせていただいています。そのため、毎月主だった新録アルバムを試聴しているのですが、「新しいジャズ」だけにCDではミュージシャンの「狙い」や「聴きどころ」がいまひとつ掴みにくいケースがあるのも事実です。

そこで、ミュージシャンの「ナマの姿」に触れられるライヴには出来る限り顔を出すようにしているのですが、前回お話しした「ディナー・パーティ」に続いてつい先日、また素晴らしい体験をさせていただきました。以前ご紹介した、ブラジルの新人ピアニスト、アマーロ・フレイタスのライヴを「立川ステージガーデン」で開催された「フェスティヴァル・フルー・ジーニョ」で見たのですが、これが想像を超えるパフォーマンスだったのです。

CDではどちらかというと「精緻」で「ユニーク」なフレージングが魅力だったのですが、ライヴでは圧倒的なパワーであふれ出るアイデアを惜しみなく披露し、聴衆を魅了したのでした。彼は間違いなく現代ジャズの牽引車となるでしょう。

さて、アルバム紹介に移りましょう。冒頭にご紹介するのは、ベースだけでなくヴォーカル、ギター、ドラム、キーボードまで自在にこなすマルチ・アーティスト、ミシェル・ンデゲオチェロの、名門ブルーノート・レーベル移籍第一弾『The Omnichord Real Book』です。

全曲ンデゲオチェロによる書下ろしで、トラックによりジェイソン・モラン、アンブローズ・アキムシーレ、ジョエル・ロス、ブランディ・ヤンガー、マーク・ジュリアナ、コリー・ヘンリーら現代ジャズのスターたちがゲスト参加する豪華さが注目されますが、私の第一印象は、「良く作り込まれたブルーノートらしい傑作」でした。

とにかく聴いていて気持ちが良いのです。ですから「細部」を分析するより、ただただ音楽の快楽に浸っていたいという感情が先にたつのですね。ある意味「高級なB.G.M.」という言い方も出来るかと思うのです。「B.G.M.」というと「イージー・ミュージック」というイメージもあろうかと思うのですが「高級な」、つまり「音楽的質が高いB.G.M.」は優れたアーティストでなければ作れません。プロデュース担当のマルチ奏者/作曲家ジョシュ・ジョンソンの功績も大きいのでしょうね。
 

2番目に収録したのは、ミナス・ミュージックからショパンまで貪欲に吸収するギタリスト、カート・ローゼンウィンケルのヴィレッジ・ヴァンガードにおけるライブ盤『Undercover』(Heartcore)です。こちらはンデゲオチェロの「作り込まれた傑作」とは対照的な、「演奏する快楽」が聴き手の心地良さに繋がる、良い意味での「フツーのライヴ傑作」と言えるでしょう。「ジャズ」の面白いところは、作り込まれたスタジオ録音とライヴでの違いの両方を楽しめるところなのです。これはマイルス・デイヴィス以来、ジャズの「伝統」とも言える特徴ですね。

イギリスで生まれニューヨークで活動するサックス奏者、ウェイン・エスコフェリーはオーソドックスなジャズのレジェンド、ジャッキー・マクリーンに師事したというだけに、いわゆるUKシーンの臭いはあまり感じさせない、アメリカン・スタイルの王道派。そういう意味では、彼のアルバム『Like Mind』(Smoke Sessions)はチャールス・ミンガスの名曲《ノスタルジア・イン・タイムス・スクエア》なども採りあげており、ベテラン・ジャズ・ファンに安心してお薦め出来ますね。

さてお次は冒頭でも言及した「ディナー・パーティ」の新譜『Enigmatic Society』(Sound Of Crenshaw)です。メンバーはカマシ・ワシントン、ロバート・グラスパーにグラスパーのアルバムを多数プロデュースして来たテラス・マーティン、そしてグラスパーの出世作『ブラック・レディオ』の注目トラック《アフロ・ブルー》のカヴァーのリミックスを手掛けたヒップホップ・プロデューサー、ナインス・ワンダー。

グラスパー人脈が強いようですが、テラス・マーティンはカマシと高校が同級。彼がグラスパーらヒップホップ寄りミュージシャンと純ジャズ、テナー、カマシの接着剤となっているのです。前にお伝えした彼らのライヴでも感じたことですが、現代ジャズはヒップホップ的要素と「ジャズ」が、より有機的に結びついているのですね。ですからカマシも自作のように吹きまくるのではなく、プロデュースの方向に従った良い意味での「脇役」に徹している。彼らの音楽はンデゲオチェロとはタイプこそ異なれど、「作り込まれたグッド・ミュージック」という現代ジャズの優れた一面を代表しているのです。これもほんとうに聴いていて気持ちが良い。

近年ブラジル、ミナス地方の音楽が注目されていますが、『Magma』 (PGMUSIC)はミナスのベーシスト/作・編曲家、ペドロ・ゴメスのデビュー作です。編成は印象的なトロンボーン、サックスをピアノ、ギター、ベース、ドラムスが支えるセクステットで、よく聴くと凝ったアレンジなのですが、聴いている分には実に快適。ブラジリアン・ジャズの長所が現れた傑作ですね。

最後は、「ザ・ヘッドハンターズ」のドラマー、マイク・クラークがハービー・ハンコックの名曲にピアノ・トリオ編成で挑戦した『Mike Clark Plays Herbie Hancock』(Sunnyside)。お馴染み《ドルフィン・ダンス》や《ソーサラー》が見事にマイクの音楽に仕上がっています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

あわせて読みたい関連記事

一覧へ戻る