──クレイジーケンバンドの通算26枚目のアルバム『何?』は、前作『華麗』で“老い”を語っていたバンドとは思えないくらいエネルギッシュなアルバムですね。ミュージシャンとして、1人の男性として、“現役感”に満ちたアルバムだと思いました。
「ありがとうございます。アルバム『華麗』をリリースしてから、加えるほうの“加齢”は反省しました(笑)。永ちゃん(矢沢永吉)は77、堺(正章)さんは80ですし、そんなことを言ってる場合ではなかったです(笑)」
──そうした反省も踏まえて(笑)、新作の制作にはどんな心意気で臨まれたのでしょうか?
「いつも通り、意味より先に『何?』というタイトルが浮かびました。後から考えると、今年、クレイジーケンバンドのファンクラブ限定イベントの滅多に演奏しない珍しい曲をやる企画コーナーでクレージーキャッツの「アッと驚く為五郎」のカバーをやったんです。この曲でハナ肇さんが<何?>って言うんですけど、その<何?>が伏線になっていたことに気付かされました。それから、AIをいじってるうちに今回のアートワークの原案を思い付きました。“よく見ると顔がメンバーと違うじゃないか!?”みたいな(笑)。あとはやっぱり音楽ですよね。ラジオとかお店で流れてきたときに、“何これ?”ってShazamしたくなるようなアルバムになると嬉しいと思って。これが一番のメインでした」
──アルバム『何?』にはその「アッと驚く為五郎」のカバーの他にも、作家の五木寛之さんが作詞した「口笛を吹きながら夜を行け」、宮藤官九郎さん作詞の「狂い咲きセカンド・バージン・ロード」と、バンドメンバー以外の手が加わった楽曲もあり、それが新鮮でもありました。
「そうですね。五木さんとは対談する機会がありまして」
──お二人の熱い音楽談義をまとめた同名タイトルの書籍『口笛を吹きながら夜を行け』ですね。
「はい。その本に新曲CDを封入しようとなって、曲を作るわけですけど、先に五木さんの詞ができて、それが非常にメロディをつけやすい小説になっていたんです。そこに、僕がいろいろリクエストした感じでデモのトラックをParkくんが作ってくれて、その上にメロディを乗せて…」
──スムーズに完成を迎えたのでしょうか?
「いえ、五木さんから何度かダメ出しをいただきました。“悲しい感じなんだけどもっと力強く、暗いんだけど陽気に”というような、心の機微のようなものを音に表してほしいというリクエストでした。でも、嬉しかったです。五木さんがリクエストしてくれたことで、僕たちにとっても新しい扉を開くことになりますし、ただ単に詞を提供してくれたのではなくて、ちゃんと一緒に作った感じがしてすごくよかったです」
──歌詞の内容は、剣さんとの対話が五木さんの作家心を刺激した部分もあったのでしょうか?
「そういう部分もあるとは思いますけど、五木さんは、今の時代の社会情勢や世相などいろんなことを“夜”に例えていて、それを憂うだけではなく、口笛を吹きながら軽くやり過ごそうって。先に何かがあるかないかより、とにかく進んでいこうという力強いメッセージになっていました。それに呼応して、僕たちもビートを強めていったり、ホーンセクションで派手にいくところはいったり。逆に、哀愁があるところはそれこそドラムとベースと歌だけ。最後は指笛を入れちゃったりして、昭和の混沌をイメージさせる感じに表現しました」
──この「口笛を吹きながら夜を行け」はアルバム収録曲の中でも比較的早いタイミングで完成した楽曲なのでしょうか?
「そうですね。完成に至るまでは何度かブラッシュアップする時間がありましたけど、曲自体は初期の初期にありました」
──1曲目の「夜の穴」は、どこか小説のような雰囲気があると感じましたが、五木さんとのやりとりがアルバム制作に影響した部分もありますか?
「どんな人や物事であれ、あまり影響を受けすぎるのも良くないので、なるべく閉じるんです。でも、閉じてもそこを突き破ってくるものが本当の影響だと思っていて、今回93歳の五木さんと対談をさせていただいて、“まだまだ全然チンピラでいいんだ”ということを思い知らされました。そういう意味で、「夜の穴」は“まだ始まってない”、“現役として、まだ出来上がっている場合じゃないぞ”という…我々は、ファンの方には知ってもらっているけれど、まだまだ世の中には出てないに等しいくらいの気持ち、チャレンジャーでなくてはいけないという意味で“地底の穴”、アンダーグラウンドなんです。いつまでルーキーでいられるか?を、五木さんと対談しながら考えました。あと、影響というよりも嬉しかったことがあるんです」
──それはどんなことですか?
「僕の歌声とか、このだみ声を、高野山や比叡山の僧侶たちが唱える声明(しょうみょう)…まあ、ちょっと神がかったというか。五木さんの中でそこと僕の声が一致したらしくて、“この声に出会えて魂が震えた”みたいなことをどこかで書いてくださってたんです。それは素直に、すごく嬉しかったです」
──一方、「狂い咲きセカンド・バージン・ロード」は宮藤官九郎さんの作詞です。宮藤さんとは「タイガー&ドラゴン」をきっかけにさまざまな場面で交流されていますが、今回こうして一緒に1曲を作るというのはどういった流れだったんですか?
「古くから付き合いのある柳家睦くんが本牧にいまして、彼がやっている柳家睦&THE RATBONESというバンドのライブに、最近、僕がよくゲストで呼ばれていて。で、宮藤さんと睦くんも古いお付き合いなんです。ドラマ『不適切にもほどがある!』に登場するムッチ先輩は柳家睦がモデルだそうで。そういうところで睦くんを通じて再び宮藤さんと近付いた感があって、宮藤さん率いるショートコアパンクバンドの画鋲に僕が飛び入りで乗っかって歌ったりするなど、いろいろご一緒する機会が増えたんです。で、僕のマネージャーから“作詞をお願いしてみたら?”と言われて(笑)。“ほんとかよ!?”と言いつつ、内心、僕も同じこと思ってたので頼んでみたら、見事、引き受けてくれました」
──宮藤さんらしいユーモアに溢れた歌詞ですね。
「はい。宮藤さんのドラマそのもので甘辛というか…笑えるけど、ほろっともして。1曲の中で1つのドラマに仕上がっていると思います。僕らもちょうど、自分の娘が結婚したり…あ、2度目じゃないですけど(笑)。あと、これは宮藤さんには言っていないですけど、メンバーの中に伊勢山ヒルズで結婚したのがいて…そういう引き寄せがある曲でもあります」
──<私の お墓に>のところの歌い方には思わず吹き出してしまいました。
「秋川(雅史)さん的なね(笑)。そこだけで何事もなかったように元に戻るんですけど。“宮藤さん、どんなかな?”と思ったら、ちゃんと反応してくれました(笑)。あとはタイトルですね。僕たちが若い頃に公開された映画『狂い咲きサンダーロード』からで、宮藤さんにも強いパンク・スピリットを感じますが、これも1つのパンクということで、勝手に“スウィート・レベル・ミュージック”という位置付けで歌いました」
──そうした古くからのご縁を彷彿とさせる意味では、3曲目に収録されている「カモナマイハウス feat. CHIBOW & CHOZEN LEE」。これは「Brand New Honda」(2003年)の原曲「カモナマイハウス」を先祖とするルーツ・リコンストラクション・ソングなんですね。
「そうです。原曲に戻ってもう1度やり直すというのは、ヒップホップ界隈ではありますけど、我々もたまに試みる手法です」
──それを、本牧にゆかりのあるお二人と共に、というのは何かきっかけがあったのでしょうか?
「“ハマフェス”(毎年5月開催)というフェスティバルでCHIBOWさんとLEEくんと決まって「タイガー&ドラゴン」のSKAバージョンをやるんですけど、今年はトリプルC…CHIBOWさんのC、Crazy KenのC、CHOZEN LEEくんのCのトリプルCで何か新しいことをやりたいと思って。そう閃いたのが(フェスの)直前だったんですけど、なんとか間に合わせて披露できました」
──地元が同じとはいえ、ジャンルの違う方々が集まって制作するのも刺激がありそうですね。
「そうですね。CHIBOWさんはロックステディ、LEEくんはレゲエ、僕たちはこういうカオスな音楽をやっていて、それらが溶け合っていく化学変化を味わいつつでした。“あれこれやっても、僕たちの中心はここにある”というのさえあれば、あっちこっちに行ってもまた戻れるので。それをわかりやすく表しているのが、クレイジーケンバンド名物のジングルです。これは98年からずっと同じ、若い頃ののっさん(小野瀬雅生)の声を使っていて、それはどんなに進化しても変わることのないメルセデス・ベンツやポルシェのエンブレムがそうであるように僕らもそうありたいという想いからです」
──聴いてるこちらも、あのジングルが出てくるとどこか安心します。
「そう。なので今回、1曲目から3曲目まではバンドとして少し新機軸な曲が続くますが、4曲目のジングルを挟んで、いきなり昭和な「心配無用節 -無添加-」を置いています。年配のお客さんも置いてけぼりにしないように(笑)」
──(笑)。
──そして、アルバムを通して聴かせていただくと、「アッと驚く為五郎」を境に前半と後半で雰囲気が変わる印象を受けました。
「だいぶ色合いが変わってディープなゾーンに入っていきます。そのヒントになったのは、自由が丘駅近くの自由が丘ひかり街というショッピングアーケードや神戸の元町高架下商店街です。(横浜の)伊勢佐木町もそうなんですけど、ヘビの粉を売る“(黒田救命堂)へびや”があったり、奥に行けば行くほどディープになっていきます。で、最後の曲の「狂い咲きセカンド・バージン・ロード」の伊勢山ヒルズは伊勢山皇大神宮というお伊勢様にゆかりのある神社がある場所にあるんです。「狂い咲きセカンド・バージン・ロード」には<君に いっぱいいっぱい 幸あれ 八百万の 神に prayer>という歌詞が出てくるので、ちゃんと辻褄が合います」
──五木さんも剣さんの歌声を“神がかっている”とおっしゃっていましたし、すごいですね。まさに“何?”って感じです。
「本当、“何?”です(笑)。いやぁ、なんだかそうなっちゃうんですよ。狙うとダメなんですけど。心を澄まして、作為なくやると、こういうマジックを呼び込めるのかも」
──そのマジックが起きたということは、アルバムとして成功と言えるのではないでしょうか?
「そうですね。これが数字に結びつくかはともかくとして(笑)、僕たちとしては、“いいものを残せた”という嬉しい気持ちになっています」
──先ほど街並みについてのお話が出たのでお聞きしたいのですが、剣さんが書かれる歌詞には横浜や横須賀、本牧といった地名が出てきます。そうした実在する街を書くときに剣さんがイメージしている光景は、昔と今、どちらなんでしょうか? というのも、街はどんどん変わっていくものですが、例えば渋谷系の音楽は当時の街の印象が強く、今のこの激変した渋谷の街とのギャップが大きくて、同じ曲でも感じ方が変わってきたなと思ったので…。
「そうですね…レコード文化の頃の渋谷の風景と今とではまた違いますし、東横線も。あのしじみ貝みたいな屋根のところから乗るのが好きだったんですけど(笑)。でも、それで言うと、僕の場合はパラレルな世界です。実際にあるかどうかというよりは、例えて言うとAI生成に近いものがあります。“あんなもの実際にないよな”というのも含めて、ありそうな感じ。“これはセットなのか? 天然なのか?”という感じが好きなんです。それに、実際にはもう存在しない風景があったとしても、心の中にはあるわけで。“あーあ、なくなっちゃった”と残念がるよりも、音楽の中で再構築したい。それができるのが音楽だと思っています。ファンタジーと現実のハイブリッドです。だから、“そんな横浜もうないよ”というのを入れたりもするわけです。「免許返納のブルース」で<弾切れスナイパー>とか言っていますけど、実際にはそんな人いないですから(笑)。でも、だからこそ楽しいし、面白い。妄想を楽しめるのも音楽ですし、音楽の中だけは治外法権であってほしいので。今はいろいろコンプライアンスとかありますけど、そこを知恵でなんとかする面白さもあります。学校の校則だって、校則があるから破るのが楽しかったりするわけでしょ(笑)。ある程度のレギュレーションはあったほうが面白いし、考え方のセンスでどうにでもなりますから。だから、やっぱり五木さんや宮藤さんはさすがだと思いました」
──ファンタジーと現実のハイブリッド…CKBの音楽が色褪せない理由がわかりました。そして、アルバム『何?』リリース後の10月3日からは厚木市文化会館を皮切りに、来年春まで続く全国ツアー『CRAZY KEN BAND TOUR ? 2026-2027』がスタートします。どんなツアーになりそうですか?
「いつも通りだとは思っているんですけど、やっぱり古くから知ってくれている人だけではなくて、最近知っていきなり来たという人も置いてきぼりにしないライブをしないといけないです。これはもう、常々思っています。あとは、どんどん曲が増えているのが悩みで(笑)。もちろんニューアルバムから新曲を全部やりたいと思いつつ、でも厳選して。それも自分の考えだけで選曲をしないで、メンバーからもいろんなアイデアをもらったりしながらセットリストは決めます。長いツアーですから。絶対に飲んでいるときに愚痴をこぼしているはずなので(笑)、その愚痴もちゃんと拾って、メンバーとスタッフの士気が上がる曲も入れながら、もちろん一番はファンの方に喜んでもらうのが僕たちの幸せなので、そういうライブにしていきたいですね」
(おわり)
取材・文/片貝久美子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

CRAZY KEN BAND TOUR ? 2026-2027Presented by NISHIHARA SHOKAI
2026年10月3日(土) 神奈川 厚⽊市⽂化会館 ⼤ホール
2026年10月9日(金) 大阪 NHK大阪ホール
2026年10月10日(土) 京都 京都劇場
2026年10月12日(月・祝) 鳥取 ⽶⼦市⽂化ホールメインホール
2026年10月22日(木) 北海道 札幌市教育文化会館大ホール
2026年10月24日(土) 北海道 函館サーモン・まるなまホール(函館市⺠会館)
2026年11月2日(月) 福岡 福岡国際会議場メインホール
2026年11月7日(土) 岩手 ⽥園ホール(⽮⼱町⽂化会館)
2026年11月8日(日) 宮城 仙台電力ホール
2026年11月14日(土) 東京 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
2026年11月21日(土) 兵庫 神戸国際会館こくさいホール
2026年11月24日(火) 愛知 Niterra日本特殊陶業市⺠会館 ビレッジホール
2027年1月16日(土) 山梨 YCC県⺠⽂化ホール ⼩ホール(⼭梨県⽴県⺠⽂化ホール)
2027年1月17日(日) 長野 ホクト⽂化ホール中ホール(⻑野県県⺠⽂化会館)
2027年1月24日(日) 群馬 ⾼崎市⽂化会館 ⼤ホール
2027年1月30日(土) 静岡 磐⽥市⺠⽂化会館「かたりあ」
2027年2月19日(金) 鹿児島 鹿児島CAPARVO HALL ※ライブハウス立見
2027年2月20日(土) 熊本 熊本城ホール シビックホール
2027年2月23日(火・祝) 埼玉 ⼾⽥市⽂化会館⼤ホール
2027年3月5日(金) 神奈川 横浜関内ホール ⼤ホール ※関内ホール40周年記念
2027年3月6日(土) 神奈川 横浜関内ホール ⼤ホール ※関内ホール40周年記念
全公演共通
特別協賛:株式会社⻄原商会
企画制作:ダブルジョイレコーズ/ホットスタッフ・プロモーション
協力:ダブルジョイ・インターナショナル/ユニバーサルミュージック/ダブルジョイ音楽出版
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