同い年の大物、マイルス・デイヴィスに比べて遅咲きのコルトレーンは、1950年代に多くのアルバムにサイドマンとして参加しています。時代が時代だけに、そのほとんどがハーバップ・アルバムなので、ジャズを聴き始めたばかりの方でも耳なじみが良いのではないでしょうか。ですから、ある意味では「コルトレーン入門編」としてはかっこうのセレクションでもあるのです。

まずはいわずと知れたマイルス・デイヴィスの大傑作、いわゆる「ing4部作」の中でももっとも出来がよいのではないかと言われている『リラクシン』(Prestige)です。やはり御大マイルスの方が役者が上なのですが、少々荒削りながらエネルギッシュに迫るコルトレーンの演奏には新人らしい溌剌とした気迫が感じられます。

コルトレーンはマイルス・バンドの一員としてジャズファンの注目を集めましたが、麻薬常習でバンドを首になってしまいます。また、この頃はいまひとつ演奏にまとまりを欠くこともあったのですが、それはまだ音楽理論に精通していないからでした。そんなコルトレーンに救いの手を差し伸べたのがセロニアス・モンクです。

コルトレーンはモンクのバンドで音楽理論をみっちり叩き込まれ、今まで以上に自信を持って演奏に望むことができるようになったのです。この時期のモンク、コルトレーン・カルテット『セロニアス・モンク・ウイズ・ジョン・コルトレーン』(Jazzland)には、複雑なフレーズをやすやすと吹きこなすコルトレーンの雄姿が記録されています。

ハードバップ・テナーの第一人者、ジョニー・グリフィンを筆頭に、コルトレーン、ハンク・モブレイの3人のテナー奏者が妙技の限りを尽くす『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)は、ハードバップ・ファンなら一聴しただけで購入を決定することでしょう。メンバーも素晴らしく、トランペットはジャズ・メッセンジャーズで名高いリー・モーガン、そしてピアノはマイルス・バンドのサイドも務めたウイントン・ケリーとくれば、もう言うことはありません。

ジャズでは珍しい楽器、チューバを吹くレイ・ドレイパーの『ザ・レイ・ドレイパー・クインテット』(New Jazz)は選曲もユニークで、有名なシャンソン《パリの空の下》が取りあげられています。途中でクラシックの名曲が挿入されるのも面白い趣向。音域が低くいささか鈍重なチューバと、軽やかなコルトレーンのサウンドの対比が聴き所です。

マイルス・バンドの名脇役、レッド・ガーランドをリーダーに据えた『ソウル・ジャンクション』(Prestige)は、ドナルド・バードの輝かしいトランペットとコルトレーンの力強いテナー・サウンドが実にいいアンサンブルを醸し出しています。まさに典型的ハードバップ2管サウンドですね。

少々異色なのがアレンジャー、ジョージ・ラッセルの意欲作『ニュー・ヨーク、N.Y.(Decca)です。冒頭に繰り広げられるラップの元祖みたいなナレーションがニュー・ヨークの風景を勢い良く活写して始まる華麗なサウンドは、アート・ファーマーのトランペットにハル・マクシックのアルト、そしてコルトレーンにボブ・ブルック・マイヤーのトロンボーンが加わった豪華な4管編成。ピアノにはビル・エヴァンスが起用されています。 

最後は名盤の誉れ高い『ケニー・バレル・アンド・ジョン・コルトレーン』(New Jazz)です。アーシーなバレルのギターに乗って、コルトレーンが小気味良くドライヴしていきます。まさに名演にして名盤ですね。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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