ジャッキー・マクリーンのサイドマン・アルバムをご紹介するこの企画、今回が最後です。それにしても、ベーシストやドラマーといったリズム・セクションでないミュージシャンのサイド作品で、これほどたくさん聴き応えのあるアルバムがあるのは、おそらくマクリーンぐらいのものでしょう。

ドナルド・バードとアート・ファーマーの2トランペットにマクリーンが絡んだ、その名も『2トランペット』(Prestige)は、あまりにも芸の無いジャケットゆえ軽視されがちですが、ハードバップ・ファンにはたまらない好演奏がてんこ盛りです。バード、ファーマーはそれぞれ微妙に持ち味の違うトランペットながら、ハードバップならではの哀感の表現に長けている。そこにマクリーンが絡むのですから、良いに決まっているのです。

フレディ・レッドと言えば、前回ご紹介した名盤『ミュージック・フロム・ザ・コネクション』(Blue Note)の陰に隠れがちですが、『シェイズ・オブ・レッド』(Blue Note)もまた、オリジナル・アルバムにはとんでもない高額な値札が付いています。ただでさえ参加作品の少ないマニア好みのテナー奏者、ティナがマクリーンと組んでいるとなれば、これは食指が動こうと言うもの。ハードバップ・オタクのジョン・ゾーンもこのアルバムからレッドのオリジナル曲を取り上げた個性豊かな曲想を、ティナとマクリーンで歌い上げる、まさにマニア狂喜のシチュエーションと言えるでしょう。

そのティナの超幻盤『バック・トゥ・ザ・トラックス』(Blue Note)1曲のみマクリーンがゲスト参加しているのが《ストリート・シンガー》です。このアルバムはカタログ番号からジャケット写真まで用意されながら発売されなかった、いわくつきのもので、それだけでもマニア心をくすぐります。

プレスティッジには、とりあえずミュージシャンをスタジオに集め、とにかくセッションさせ、適当、と言っては語弊があるかもしれませんが、まさに適当としか思えないアルバム作りをしたものがけっこう見受けられます。こうした作品にブルーノート盤の様な密度を求めても仕方ありませんが、ジャズマンの日常を切り取っているという意味では、それなりに楽しめる。ジーン・アモンズ名義の、いわゆるオールスター・セッションにマクリーンは何度も参加していますが、『ジャミン・ウイズ・ジーン』(Prestige)もそうした1枚。気軽に楽しむにはうってつけです。

ピアニスト、ウォルター・デイヴィスのリーダー作『デヴィス・カップ』(Blue Note)にマクリーンは気心の知れたドナルド・バードと参加していますが、デイヴィスのオリジナル曲だけに、通り一遍のハードバップとは一味違うところが聴きどころです。1970年代、日本フォノグラムからリー・コニッツ、ゲイリー・バーツ、チャーリー・マリアーノ、それにマクリーンの4人のアルト奏者によるユニークな作品『アルティッシモ』が発売されました。これを新譜で聴いた時はその斬新な切り口に関心したものですが、4本もアルトが入っているので、ブラインドでどれが誰だか聴き分けるのにけっこう苦労させられたものです。これもマニアならではの愉しみでしょう。皆様も挑戦してみてください。

ご存知ハンク・モブレイの好盤『モブレイズ・メッセージ』(Prestige)に1曲だけマクリーンが参加しています。4曲目はパーカーも演奏した《オウ・プリヴァーヴ》。最後はこれもブラインドでの聴き分けが難しい、ジョン・ジェンキンスとの『アルト・マドネス』(Prestige)です。それにしてもこの二人は良く似ていますね。パーカー直系だけのことはあります。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る