ジャズの楽しみ方は奥が深く、リーダーだけでなく、サイドマンにも注目して聴いてみると、また新しい世界が開けてくるものです。今回から、そうしたジャズのちょっとマニアックな楽しみ方のひとつである「サイドマン聴きシリーズ」をはじめます。よろしくお付き合いください。第1回目はジョン・コルトレーン。

さて、このタイトルでてっきりコルトレーンのアルバムに入っているサイドマンを取り上げると思われたファンの方も多いと思いますが、そうではありません。サイドマンとしてのコルトレーンのことなのです。大物中の大物ミュージシャン、ジョン・コルトレーンは意外なほどたくさんのアルバムにサイドマンとして参加しています。そしてその多くが1950年代に吹き込まれ、いわゆるハードバップの名盤といわれているものが多い。

これは彼が同い年のマイルスなどに比べ、遅れてファンの注目を集めたことから起こった特殊現象で、同じ大物でも、チャーリー・パーカーやマイルス・デイヴィスでは考えられないことです。彼らは若い頃からリーダー作を出しており、サイドマンとしての参加作品はごくわずかです。

さて、最初のアルバム『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』(Mercury)は、マイルス・デイヴィス・セクステットがシカゴに公演に出かけた際、サイドマンであるキャノンボール・アダレイとコルトレーンが吹き込んだアルバムで、二人の熱いバトルが聴きものです。

同じテナー奏者同士の対決アルバム『テナー・マッドネス』(Prestige)は、50年代当時2大テナー奏者と言われたソニー・ロリンズとの掛け合いが素晴らしい。タイトル曲ではどちらがどちらか分からなくなる場面も。聴き分けのヒントとして、ロリンズが一人で吹いている《恋人が去ってしまったとき》をオマケとして収録しておきました。

コルトレーンはマル・ウォルドロンとの付き合いも多く、『マル2』(Prestige)ではトランペットのビル・ハードマン、アルトのジャッキー・マクリーンと典型的な3管ハードバップを気持ちよく聴かせてくれます。そして、ヴァイブの大物ミルト・ジャクソンとの共演盤『バグス・アンド・トレーン』(Atlantic)では、珍しくしみじみとした味わいを見せている。

プレスティッジ、そしてその傍系レーベル、ニュー・ジャズには、誰がリーダーとも付かないハードバップ・セッションがたくさんありますが、トミー・フラナガン名義の『ザ・キャッツ』(New Jazz)はその典型です。ちなみに「キャッツ」はジャズ・ミュージシャンのことで、日本の「クレイジー・キャッツ」の名もそこから来ています。

コルトレーンはセロニアス・モンクのサイドマン時代に非常に表現の幅が広がり、ミュージシャンとして大きく成長しました。『モンクス・ミュージック』(Riverside)はレギュラー・グループの演奏ではありませんが、名演として知られています。

《ウエル・ユー・ニードント》で、モンクが「コルトレーン!コルトレーン!」と声をかけてコルトレーンにソロを促す場面がありますが、実は間違えているのはモンクの方。椿事に焦ったアート・ブレイキーが唐突にドラムの合いの手を入れたりと、まあ、けっこう現場は混乱しているのですが、それでも聴き応えのある演奏になってしまうのがジャズの面白いところです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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