ジャッキー・マクリーンは昔からジャズ喫茶のアイドルでした。1960年代後半に開店した「いーぐる」でも、リーダー作はもちろん、サイドマンとしてマクリーンが参加しているアルバムも実によくリクエストされたものです。いかにもジャズ喫茶でジャズに浸っているという気分になれる、濃密な雰囲気のアルバムへの参加率が、マクリーンは際立って高いのです。

というか、それら「ジャズ喫茶定番アルバム」の聴きどころは、実はあのマクリーンならでは切迫感に満ちた個性的なアルト・サウンドにあったからだとも言えるでしょう。このアルバムがかかるとお客様がテーマメロディを合唱したというエピソードもある『クール・ストラッティン』(Blue Note)も、リーダー、ソニー・クラークの哀調を帯びた曲作りのうまさもあるのですが、この名曲をイメージどおりに吹き上げているのがマクリーンなのです。

マクリーンはトランペッターと2管で組むことが多いのですが、リー・モーガンとのペア『リー・ウェイ』(Blue Note)は、これも哀愁を帯びたカル・マッセイの名曲《ジーズ・アー・ソウルフル・デイズ》、そしてリー・モーガンのリズミカルな《ライオン・アンド・ウルフ》といった曲目の魅力も手伝い、ジャズ喫茶定番アルバムの代表です。動物園のような曲名は、ブルーノート、オーナー、アルフレッド・ライオンと、彼の親友でカメラマンのフランシス・ウルフにちなんでいます。

麻薬を題材とした音楽劇「コネクション」のテーマ・ミュージック『ザ・ミュージック・フロム・ザ・コネクション』(Blue Note)はピアニスト、フレディ・レッドの傑作アルバムですが、やはりこのアルバムの魅力はワンホーンで吹きまくるジャッキー・マクリーンの存在あってこそです。

そして大物チャールス・ミンガスの有名盤、『直立猿人』(Atlantic)でテナーサックスのJ.R.モンテローズと共に分厚いサウンドを提供しているのもわがマクリーン。しかしこのアルバムではミンガスの卓越したバンドリーダーとしての力量が聴きどころでしょう。とは言え、そのリーダーの要請をキチンとこなせるマクリーンの幅広い能力もたいしたもの。

白人ピアニスト、ジョージ・ウォーリントンは初期のハードバップ・コンボを立ち上げたミュージシャンとして知られていますが、彼のバンドのキーパーソンがドナルド・バードのトランペットとマクリーンなのです。アルバム『ジョージ・ウォーリントン・ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア』(Progressive)は、かつて超幻の名盤として破格の廃盤価格がつけられていました。

そしてご存知ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』です。曲想の魅力とミュージシャンの個性がこれほどうまくマッチしたアルバムも珍しい。こちらのトランペッターはアート・ファーマーで、ハイヒールを履いた女性のジャケットなど、ブルーノートのアートセンスの素晴らしさも光っています。

最後はケニー・ドーハムのリーダー作『インタ・サムシン』(Pacific Jazz)。どちらかというとウエストコースト・ジャズのイメージが強いレーベルだけに、ちょっと盲点となっていますが、メンバーからも想像できるように、バリバリのハードバップ。共演するトランペッターによるムードの違いを聴き分けるのも今回のサブテーマです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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