サイドマンとしては例外的な超大物、ジョン・コルトレーンに始まり、トミー・フラナガン、ジャッキー・マクリーンと続いてきたこのシリーズ、やはり名サイドマンはピアニストに多いのではないでしょうか。そういう意味では、アルト奏者マクリーンも、例外的にサイドとしても名盤が多い貴重な存在だったと言えるでしょう。

というわけで今回はマイルス・デイヴィス・コンボにも名を連ねた名ピアニスト、ウイントン・ケリーのサイドマンとしての名盤をご紹介いたします。まずはトランペットによるワン・ホーンという、実は難しいフォーマットで極め付きの名演を残した、ブルー・ミッチェルの『ブルース・ムーズ』(Riverside)。

軽やかなケリーのピアノに導かれ、ミッチェルの端正なトランペット・サウンドが心持哀調を帯びた名曲《アイル・クローズ・マイ・アイズ》をけれん味なく歌い上げます。これ見よがしのフレーズは一切無く、淡々と音を積み重ねるミッチェルに、弾むようなリズムが心地よいケリーのピアノが実に塩梅の良いアクセントを付け加える。両者の絶妙の対比がこのアルバムを名盤たらしめているのです。

端正なトランペットの次は、黒々としたテナー・サウンドがじんわりと聴き手の心に染み通るハンク・モブレイの最高傑作『ソウル・ステーション』(Blue Note)。いっしょに組む相手によってはけっこう吹きまくりのモブレイですが、彼の本領はむしろこのアルバムのようなワン・ホーンによる「しんみり路線」なのです。その落ち着いた味わいに色を添えるケリー、まさに名盤は生まれるべくして生まれる。

プレスティッジには、とりあえずミュージシャンをスタジオに集め、とにかくセッションさせ、適当、と言っては語弊があるかもしれませんが、まさに適当としか思えないアルバム作りをしたものがけっこう見受けられます。こうした作品にブルーノート盤の様な密度を求めても仕方ありませんが、ジャズマンの日常を切り取っているという意味では、それなりに楽しめる。ジーン・アモンズ名義の、いわゆるオールスター・セッションにマクリーンは何度も参加していますが、『ジャミン・ウイズ・ジーン』(Prestige)もそうした1枚。気軽に楽しむにはうってつけです。

ピアニスト、ウォルター・デイヴィスのリーダー作『デヴィス・カップ』(Blue Note)にマクリーンは気心の知れたドナルド・バードと参加していますが、デイヴィスのオリジナル曲だけに、通り一遍のハードバップとは一味違うところが聴きどころです。1970年代、日本フォノグラムからリー・コニッツ、ゲイリー・バーツ、チャーリー・マリアーノ、それにマクリーンの4人のアルト奏者によるユニークな作品『アルティッシモ』が発売されました。これを新譜で聴いた時はその斬新な切り口に関心したものですが、4本もアルトが入っているので、ブラインドでどれが誰だか聴き分けるのにけっこう苦労させられたものです。これもマニアならではの愉しみでしょう。皆様も挑戦してみてください。

さて、その「吹きまくり大会」の大名盤がジョニー・グリフィンの『ア・ブローイング・セッション』(Blue Note)。コルトレーン、グリフィンら当代の早吹き連中に混ざり、モブレイもがんばる。さすが3本テナーはちょっとばかり暑苦しいかなっというところに、一服の清涼剤としてケリーのピアノがそよ風を送ります。

ところで、ケリーのピアノ・サウンドはテナーマンと相性がいいような気がします。ソニー・ロリンズのワン・ホーン・カルテットの名盤『ニュークス・タイム』(Blue Note)で脇を固めているのがケリーです。そして先ほどのグリフィンがウェス・モンゴメリーと畢生の名演を繰り広げた大名盤『フル・ハウス』(Riverside)も、まさにケリーのピアノがあってこそ、という気がしないでもありません。

そしていよいよコルトレーンの登場。爽やかなケリーのピアノに先導されてコルトレーンが飛び出す『コルトレーン・ジャズ』(Atlantic)もまた、ケリーの涼しげなピアノ・サウンドがコルトレーンの「熱さ」と良い対比を生み出しているのです。

最後は泣く子も黙る御大マイルス・デイヴィスの親しみやすい人気盤、『いつか王子様が』(Columbia)。話は変わりますが、歴代マイルス・コンボのピアニストのうち、誰が一番かという話題がありますが、別格的存在のビル・エヴァンスを除いても、ほんとうにそれぞれの個性が際立っています。ですから、好みによってさまざまな答えが予想されますが、「ソロだけでも楽しめる」というところにポイントを絞ると、私はケリーの評価はかなり高くなるのでは、と思うのです。というか、それがケリーの特徴でもあり、セッションの脇役として場を盛り上げるだけでなく、個人プレイもまた凄い。いわゆる「パウエル派ピアニスト」の中でトップにケリーを私が挙げるのは、そんな理由があるからなのです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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