「年末年始に聴きたいクラシック」シリーズの最終回となる今回は、新年のクラシックコンサートとして最も伝統的で長い歴史を誇る、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサートについて触れてみましょう。
新年の幕開けを告げる風物詩として、世界中のクラシックファンに愛されているのが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤー・コンサートです。毎年1月1日、オーストリア、ウィーンの楽友協会大ホールで開催され、その華やかな響きは、オーストリア国内はもとより、テレビやストリーミングを通じて世界各国へ届けられ、日本でもすっかりお馴染みとなりました。その歴史は古く、1939年12月31日にクレメンス・クラウスの指揮で初めて開催され、第2回の1941年からは新年の祝祭コンサートとして定着しました。
プログラムの中心は、シュトラウス一家が紡ぎ出す陽気で美しいワルツやポルカが飾ります。長年愛されてきた人気曲に加え、その年ならではの趣向を凝らした楽曲が組み込まれるのも、このコンサートの醍醐味です。特にアンコールでは、全3曲が演奏されますが、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」と、ヨハン・シュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」の2曲が恒例となっており、会場全体が一体となる盛り上がりを見せます。
常任指揮者を持たないウィーン・フィル。ニューイヤー・コンサートの指揮者は、1987年のヘルベルト・フォン・カラヤン以降、ウィーン・フィルの定期演奏会でタクトを執る名だたる指揮者が毎年交代で務めるのが慣例です。そして、2026年のニューイヤー・コンサートでは、カナダ出身の指揮者ヤニック・ネゼ=セガンが初登場します。もうひとつ大きな注目は、アメリカの黒人女性作曲家フローレンス・プライス(1888-1953)の「レインボー・ワルツ」が取り上げられることです。元はピアノ独奏曲として作曲されたものがオーケストラ編曲され、めったに聴く機会のないこの作品が、どのような響きで観客を魅了するのか、今から期待が高まります!
YouTubeのピアノ独奏版でどんな作品か聴いてみましょう。
ここからは、これまで行われてきたニューイヤー・コンサートから、近年開催された公演を振り返ってみようと思います。
2025年開催のニューイヤー・コンサートから「美しく青きドナウ」を。指揮はイタリアの巨匠リッカルド・ムーティで、今回が7度目の同コンサート登場となりました(「今回で最後」と公言しての出演でした!)。2025年はヨハン・シュトラウス2世の生誕200年アニバーサリーだったため、オペレッタ「ジプシー男爵」序曲、「加速度円舞曲」、「アンネン・ポルカ」、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」などの名曲が並び、オーストリアを代表する作曲家に対して年明け最初の敬意を表しました。
2021年のコンサートを振ったのもムーティでした。この年は、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっていた時期であり、その影響でウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート史上初めての無観客公演となりました。しかし、困難な状況下でも音楽の灯を絶やさないという強い意志が示され、テレビやストリーミングを通じて世界中に届けられました。テレビ放送では、オンラインの聴衆の拍手が、第1部と第2部の最後に流れ、異例の状況下で音楽の力を信じる人々が一体となった瞬間として、多くの人々の記憶に深く刻まれています。
2022年は、ラトビア出身の指揮者アンドリス・ネルソンスが登場。彼はラトビア国立歌劇場管弦楽団の首席トランペット奏者から指揮者に転身しており、こちらではトランペットの演奏を披露しています。最後のコンマスとのやり取りが微笑ましいですね。
ネルソンスの師にあたる、同じくラトヴィア出身の巨匠マリス・ヤンソンスが登場した2016年の公演。こちらは地元が誇るウィーン少年合唱団が歌う、ヨハン2世の「フランス風ポルカ《歌い手の喜び》」。ウィーン少年合唱団も度々ニューイヤー・コンサートに登場しており、聴きどころの一つとなっています。
もちろんオーストリア出身の指揮者のコンサートも紹介しないといけません。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と今最も深い関係を持つ指揮者の一人、フランツ・ウェルザー=メストは、2023年に3度目のニューイヤー・コンサート登場を果たしました。ちなみに、彼の曽祖母アロイジア・ヴィルトは、ウィーンのヒーツィングにその名を残す歴史あるカフェ・ドムマイヤーの創始者、フェルディナンド・ドムマイヤー(1799-1858)の孫にあたります。かつてカジノとダンスホールを兼ねたこのカフェは、ヨハン・シュトラウス1世やヨーゼフ・ランナーが頻繁に演奏し、ヨハン・シュトラウス2世が1844年に華々しいデビューを飾った聖地として、ウィーン音楽史にその名を刻んでいます。
このような、地元オーストリアの音楽家ならではの作曲家たちとの歴史的な繋がりは、ウェルザー=メストがシュトラウスの音楽に寄せる思い入れを、一層深く、特別なものにしているに違いありません。
こちらは先にご紹介したネルソンスの演奏同様、楽しい工夫を凝らした2009年のダニエル・バレンボイム。この年がハイドン没後200周年ということで、アンコールの前に、ハイドンの「交響曲第45番『告別』」の第4楽章が演奏されました。この作品は演奏途中でオケのメンバーが次々と退出する演出があるのですが、ひとり、またひとりと去っていく団員に対するバレンボイムの様子に客席からも笑い声が。ニューイヤー・コンサートならではのエンターテインメントあふれる演出です。
最後は忘れてはいけない「ラデツキー行進曲」を。指揮者のタクトに合わせて観客が一斉に手拍子を始める光景は、ニューイヤー・コンサートの代名詞ともいえる、お馴染みのハイライトですね。この習わしは1958年の同コンサートで、指揮者のヨーゼフ・クリップスが観客に手拍子を促したのがきっかけとされています。演奏は2017年のベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメルによるもの。
いかがでしたか?USEN MUSICの「クラシック特集」チャンネルでは、1月1日から1ヵ月間、シュトラウス・ファミリーを中心とする「ウィンナー・ワルツ&ポルカ」を特集します。新しい年の始まりを祝う華やかなウィーンの音楽を、ぜひこの機会にお楽しみください!
(おわり)
大森有花(USEN)
Photo by Court Ball at the Hofburg(1900). Vienna Museum, Austria(Wilhelm Gause - allegromusik.com, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=984078による)

大森有花(おおもり ゆか)PROFILE
株式会社USEN 編成部。クラシックをメインに、各チャンネルの選曲、ディレクションを担当。今年ラストのコンサート鑑賞はクリスティアン・ツィメルマンのリサイタル!もう飽きるくらいに聴いている(聴き慣れている)楽曲で、なぜこんなにも心を動かされるのか!演奏中の衝撃に近い感動と、翌日以降の心地よい余韻に浸りながら、年末までもう少し、駆け抜けようと思います。
ウィンナ・ワルツを聴くならこのチャンネルで
…… and more!
-
2025 K-POPシーン プレイバック!(前編)――2025年の音楽シーン回顧録
USEN/U-NEXT関連 -
番組ディレクターの回顧録(後編)――2025年の音楽シーン回顧録
USEN/U-NEXT関連 -
番組ディレクターの回顧録(前編)――2025年の音楽シーン回顧録
USEN/U-NEXT関連 -
音楽史に大きな足跡を残した音楽家たちへ(後編)――2025年の音楽シーン回顧録
USEN/U-NEXT関連 -
音楽史に大きな足跡を残した音楽家たちへ(前編)――2025年の音楽シーン回顧録
USEN/U-NEXT関連 -
年末年始に聴きたいクラシック Vol. 2――ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」
USEN/U-NEXT関連 -
店舗空間向けの純度100%クリスマスBGM――[Casual X'mas (Indie Songs)」「Lo-Fi Beats X'mas」......and more!
USEN/U-NEXT関連 -
年末年始に聴きたいクラシック Vol. 1――チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」
USEN/U-NEXT関連 -
食と音楽の秋 Vol.5――食の空間を彩るCLASSIC
USEN/U-NEXT関連 -
SIRUP 「UNDERCOVER feat. Ayumu Imazu」や高畑充希「Over You 2025」......and more!――番組ディレクターのおすすめアーティスト&新曲をピックアップ
連載 -
「テニスの王子様」「シャーマンキング」...アニソンの歴史を振り返ろう!2001年編
連載 -
食と音楽の秋 Vol.4――居酒屋を彩る音楽
USEN/U-NEXT関連 -
食と音楽の秋 Vol.3――美食を彩る音楽
USEN/U-NEXT関連 -
食と音楽の秋 Vol.2――世界の料理を彩る音楽
USEN/U-NEXT関連 -
食と音楽の秋 Vol.1――地域の食を彩る音楽
USEN/U-NEXT関連 -
2025年秋のおすすめBGM――「J-POPベスト・セレクション 秋」「洋楽ベスト・セレクション 秋」「秋カフェ」「ある秋の日のジャズ」
USEN/U-NEXT関連 -
続・夏の疲れをリカバリー!ヘルス&メンタルヘルス、ヒーリングBGM――「ヒーリング・ヴォイス」「ヒーリング・ベスト・セレクション」「ミュージック・セラピー ~心の癒し~」
USEN/U-NEXT関連 -
夏の疲れをリカバリー!ヘルス&メンタルヘルス、ヒーリングBGM――「免疫力を高めるJ-POPカヴァー」「最強!ウォーキング・ミュージック」「シニアのためのヒーリング」「テストステロン・ミュージック」......and more!
USEN/U-NEXT関連 -
店舗におすすめのクールでカジュアルなロックBGM――「Cool Beat ~おしゃれ洋楽ROCK」......and more!
USEN/U-NEXT関連 -
夏の避暑地のCLASSIC――「やさしいクラシック」「クラシック(デイ)」......and more
USEN/U-NEXT関連 -
春から初夏へ向かう爽やかな風――「J-POPベスト・セレクション 春」「ホットドライヴ J-POP」「ネオ・シティポップ (デイ)」「ひだまりJ-POP」
USEN/U-NEXT関連 -
大阪・関西に、日本に賑わいを!――「アクティヴ!大阪(J-POP)」「アクティヴ!大阪(演歌)」「# 日本のかっこいいインスト」
USEN/U-NEXT関連 -
映画『セッション デジタルリマスター』に宿された狂気と情熱――スクリーン越しに聴こえるジャズ
USEN/U-NEXT関連 -
チル&リラクシンな「R&B(リラックス)」、ダンサブルな「R&B(ダンス)」――ユーティリティに優れたふたつのR&Bチャンネル
USEN/U-NEXT関連 -
インバウンド向けBGMの切り札はこれだ!――「海外で人気のJ-POP/アニソン」
USEN/U-NEXT関連 -
冬本番!鍋の美味しい季節におすすめのBGM――「エモい!居酒屋向け昭和ロック&ポップス」「ときめき!居酒屋向け80'sアイドル」「JAPANESE CITY POP」
USEN/U-NEXT関連
